オメガの悪役令息に推しの愛が届かない

  *  ゆるゆ

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ルゼ

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 ──荒い息が、聞こえる。

 大気が、揺らぐ。

 エーテ王国の王宮舞踏会で、アルファの誰かが、発情した。


「ルゼ? どうした」

 跳びあがった俺に、不審そうに父が眉をひそめる。
 親父が用意してくれた着慣れない貴族の服が、オメガの俺を守るようにひるがえる。


「卑しい血が混じっているとはいえ、高位貴族の末席に名を連ねるザァナ家の──とびきり高貴な! 俺の血をひいているんだ。
 立っているだけだぞ、しゃんとしろ!」

 忌々しそうに鼻を鳴らす父はアルファだから、この気配が分からない……?

 わめく父を後ろに、つられて強制発情させられないよう、あわてて鼻を塞いだ俺は、目をむいた。


 鼻を押さえても、意味がない。
 めちゃくちゃ、いい匂いがする。

 ……他のオメガは反応していない、みたいだ……?

 俺にだけ、強く感じられるフェロモン……? そんなこと──


 フェロモンに撃ち倒されるような俺の思考をさえぎるように、父親が鼻を鳴らす。

「下賤で無能なお前がようやく成人したから、子どもを恵んでやろうという親心だ。
 貴族のアルファ、できれば次期当主をつかまえて、この薬を盛って、孕め。あとは俺が金をせびってやる」

『お前が高位貴族だなんて、この国は終わりだ──!』
『お前の血をひいてるなんて、最低だ──!』叫びたいのを、あわててこらえた。

 こんな親でも、いちおう高位貴族だ。
 王宮舞踏会で暴言を吐いたら、平民の俺の首ヴ飛んでしまう


 親父に突きつけられた小瓶のなかの紫の雫が、俺の手のなかで揺れる。


 この薬を使って、やさしいアルファの子を孕めたら、子どもも俺も、救われるかもしれない。


 思ってしまった自分も、金をせびりたい父と、同罪だ。

 噛みしめたら、吐息がふるえた。



 平民で従僕をしていた男性オメガの母を無理やり凌辱して孕ませ、俺を産ませておいて
『地位と金目的の、卑しいオメガに襲われた!』
 騒いで母を邸から追い出したのは、高位貴族の末席にしがみつくザァナ家の第三子である父だった。

 俺がオメガだとわかると、金をせびることに使えると思ったらしく認知はしたものの、家名を名乗ることは許さず、邸に入れることさえないのだから、父親の最低具合はよく知っている。
 今はそんなことに構っている場合ではない。

 発情したアルファは、理性が飛ぶ。
 オメガと見ると、襲わずにいられないらしい。

 力の強いアルファになると、オメガを強制的に発情させることさえできるという。

 ──発情させられたら、お終いだ。

 どんなにいやだったとしても、オメガは高確率で、アルファの子を孕んでしまう。……俺の母のように。

 母は父を憎み、俺を憎んだ。

 あたりまえだ。だれが自分を凌辱し、蔑み、追放した、誰より憎い男の子どもを愛してくれるだろう。
 そんな離れ業ができるのは、ありえないほど尊くやさしいオメガだけだ。

 孤児院で育った俺に、時折、父は面会にやってきた。
『アルファに近づいて孕ませてもらえるようなオメガかどうか』肉づきや顔を確認するために。

 金は出さないが、金づるは繋ぐ。
 そんな親ばかりの孤児院でも、さすがに高位貴族の息子はいなかったから、皆から無視されたり、水を掛けられたり、散々だった。

「男のオメガ」
「いやらしい」

 蔑みが降るのは、毎日だ。


 そう、エーテ王国では身体の性別ではなく、アルファ、ベータ、オメガと呼ばれる性が重視される。

 とても優秀でエーテ王国の中枢を支えるのが、アルファだ。民のうちの一割ほどがアルファで、貴族に集中する。

 身体が男性であっても孕め、高確率でアルファ、もしくはオメガを産めるのが、オメガだ。民のうちの七分ほどがオメガで、アルファよりも貴重だ。男のオメガは、さらに少ない。

 アルファやオメガの持つフェロモンに反応せず、発情もしないベータ。民の八割三分を占める。

 この3つの性によって、特に貴族は品定めされる。

 アルファなら、家を継ぐ次期当主候補だ。
 オメガなら、アルファの伴侶、もしくは愛人となって子を産むことを望まれる。
 ベータなら、優秀な場合をのぞき、さようなら。オメガかベータとなればオメガが選ばれるので、ベータが当主になれるのは、よっぽど優秀か、よっぽど他に誰もいない時だけだ。

 貴族なら、オメガに生まれたことを喜べばよかった。うまくいけば、立派なアルファに囲われて、養われ、なかなか優雅な暮らしをさせてもらえる。運命のつがいになれたら、しあわせの絶頂だという。

 さいあくなのは、平民のオメガだ。
 裕福な家に生まれれば、優秀な子を孕めると大切にされることもあるのだが、男性オメガはとても少ないこともあって、物珍しさから、濡れるのか確かめたいとか、具合がいいらしいとか言われて、変なのが犯そうと寄ってくる──!

「いつでも発情期なんだろ?」
「男がほしいんだろ?」

 くっちゃい息を吹きかけられて

「誰がお前の粗──なんか、いるかァア──!」

 拳を振りあげたことは、何度あるのか数えるのも、いやだ。












────────────────


 はじめましての方も、他のお話を読んでくださった方も、見てくださってありがとうございます!

 はじめての、オメガバースです──!

 オメガバースは、こうじゃないと! みたいなのじゃなくても、自分流にアレンジしていいみたいなので? 思い切って書いてみました。

 書いてみたら、めちゃくちゃ楽しかった(笑)ルゼと一緒に、気軽に楽しく読んでいただけるようなお話を目指して、がんばります──!

 見てくださった、あなたさまが、ちょこっとでも楽しんでくださったら、ルゼといっしょに、とても、とてもうれしいです!





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