オメガの悪役令息に推しの愛が届かない

  *  ゆるゆ

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こりゃ!

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「…………え…………?」

 ………………俺……?

 …………悪役令息、なの…………?


 ぽかんとする俺を、主人公のぴんくの目が、にらみつける。


「くそう! 課金アイテムを使ったら、すぐベッドインなのに! 邪魔してくるなんて何様?
 悪役令息様とか、聞こえないんだから!」

 ぴょこぴょこ飛び跳ねて、ぷりぷりする主人公が、かわいい。
 ふわふわ揺れるぴんくの髪も、ぴんくの瞳も、きゅるきゅるだ。さすが主人公。

 ではなく!


「……悪役、令息……?」

 ……そんなの、いた……?

 攻略対象との、えちえちを限りなく楽しむゲームに、悪役令息なんて、いらなくない……?


「出逢いイベントを潰しにくるとか、あんまりじゃないの? こうなったら課金アイテム追加!
 『オメガの蜜』!」

 しゃっと懐から取りだした小瓶の中身をジークに、ぶっかけようとする主人公に、目をむいた俺は飛び出した。


「危ない──!」

 バッシャ──ン!

 主人公が、ぶちまけた、あやしい液体を、思いきりかぶってしまいました……


 くちゃい!

 なんか、すごい匂いがする!

 これ、オメガの発情フェロモンなんだろうけど、ひとりひとり香りが違うから、合う、合わないがあるんだよね。

 とか、のんきにしてる場合じゃない!

 は、発情しちゃったら、さいあくだ……!

 どどどどうしよう……!

 血の気のひく俺をよそに、主人公は、おこだ。

「ひ、ひど──! ルゼ、な、何してくれちゃうの! 課金したのにぃいい──!」

『ここは異世界だぞ! どうやって課金するんだ!』
 叫びたいのを押しこめた。


 主人公と敵対するのが宿命だと思われる悪役令息が、もしほんとうに自分なら、転生者であることは隠したほうがいい。

 転生者同士のバトルとか、目も当てられないことになったりするし、悪役令息への風当たりが更に厳しくなったりする!

 オンラインBL小説で異世界転生な悪役令息もののお話を読みまくったから、事前学習はかんぺきだ。たぶん……!

 ここは何も知らない異世界の一般人のふりをしよう。


「……これは、発情誘発剤? そんな薬を次期上位貴族にぶっかけるなんて、ありえない」

 声はなんとか、ふるえなかった。

 オメガに『オメガの蜜』が掛かっても、何ともないみたいだ。よかったよう……!

 ちょっと泣きそうになりながら主人公を見おろした。


「衛士に通報されても、仕方ないと思うけど」

 こりゃ!
 という気もちを、目にこめてみました。


「お、おおおおおぼえてろよ、悪役令息ルゼ──!」

 俺を指して叫んだ主人公が、ぴんくの髪を揺らして駆けてゆく。

 ……それ、悪役令息の台詞じゃないの……? 主人公だよね??


「……あの、お知りあい、ですか……? 走っていきましたけど……よかったですか……?」

 合意だったら『ちょっといいな』と思っていたら、大変だ。

 そうっと聞いた俺に、熱に揺れる荒い息で、ジークはうなずいた。


「……初対面だ。あのフェロモンは暴力だな。……吐きそうだった」

 吐きそうになられる主人公、せつない……!

「たすけてくれて、ありがとう」

 ちいさく笑ってくれる推しが、尊い──!

 発情しているからだろう、アルファのフェロモンがあふれているのか、ものすごく、いい匂いがする……!


「あ、あのあの、アルファの方は、出せばおさまるそうで、す……!」

 最も大切な情報をお伝えしてみた。

 ちなみにオメガの場合は、出されると治まる、らしい。まだ本格的な発情期が来ていないから知らないけど……!

 一生知らないままでいたい……!

 発情期、せつない……!

 もじもじ見あげたら、ジークの息が、かすれる。


「……手伝って、くれる、んじゃ、ないの、か……」

 ちいさな声に、身体の奥が、あまくふるえた。


「……でも、フェロモン、気もちわるくて、吐きそうなんじゃ──」

 そうっと見あげたら、ジークの瞳がうるむ。


「……きみの、匂いをかいだら、我慢、が──」

 俺の手首をにぎる、ジークの指が、熱い。


 瞳が、かさなる。


 強く、腕をひかれた。






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