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みまん
しおりを挟む王宮舞踏会は、オメガとアルファの出逢いの場だ。
『魂のつがい』と呼ばれる唯一を見つけてしまうと、発情してしまうことがあるという。
そうなったときのために舞踏殿の近くには、防音完備の寝室が用意されている。
合意であることと身元を示せば、招待客なら利用可能だ。
ただ王宮の寝室を借りた場合、身元と合意であることの証明が残る。
オメガとアルファがここで関係しましたと、公表することになる。
もみ消すことはできないので、ほんとうの本気で責任をとりたい、伴侶になりたいと思う人とでないと使われることがない。
ちょっときがるに、えちえち♡ とかできません!
お家でしてください! ということだよね。うん。わかる。
だから発情誘発剤を使って非合法、非公認で連れこむのは、馬車だ。
介抱するふりの主人公が、ジークを連れて向かおうとしていたのは馬車のようだった。
公認となる寝室に連れてゆかれるか、馬車に連れこまれるかで、相手を公にしてもいいほど大切に思っているか、その場限り、もしくは公にすると困ると思われているか、一瞬でわかる仕組みだ。
『馬車に連れこまれそうになったら、ぜったい断る』のは、オメガの鉄則でもある。
いや、馬車に連れこもうとしているのがオメガだとか、どうしても愛する人の子どもがほしいとか、俺の父親のように子どもをつくって金をせびりたいとか、いろいろある。
でも馬車に連れこもうとするのがアルファなら。
公にするつもりがない、その場限りだと明示してくるアルファと関係をもつのは、おそらく認知もされないだろう子どもと自分の将来を投げ棄てる行為だ。
「行こう」
荒い息で告げる最愛の推しの熱い指に、手をひかれた。
鼓動が、走る。
「水を持ってきましょうか」
ささやくことさえ、今のジークには刺激になるらしい。
びくりとふるえて、首をふった。
「はやく」
よろめくジークを支える。
──馬車か、部屋か。
……考えるまでもない、馬車に決まっている。
それは子どもと自分の未来を潰すことだと、わかっている。
もしかしたら、できた子は、ジークに恨まれるかもしれない。
それでも、生まれてくるだろう子は、俺とは決定的に違う。
ジークとの子ができたら、まちがいなく俺は、溺愛するから。
前世の俺がずっと、ずっと傍にいきたいと焦がれていたあなたと関係をもてるなら。
一夜でいい。
あなたにふれるという夢を叶えてくれるなら。
その場限りで、かまわない。
……今のあなたのことを、なにも知らないのに。
あなたから香るフェロモンが、俺の頭も、心も、あなたでいっぱいにする。
すがるように、繋いでくれた手をにぎる。
「は、やく……」
浮かされたようなジークの吐息が、耳にふれる。
ぞくりとあまい痺れが、駆けぬけた。
──部屋か、馬車か。
おびえる心を振り払う。
馬車で、至福だ。
そう、思っていたのに。
よろめくように歩くのが精一杯のジークは、馬車までたどり着かなかった……!
あまい蜜の香りのする花の庭で、抱きしめられる。
部屋か、馬車か。
二択だと思っていた。
三択目があると思っていなかった。……あまかった。
──外。
馬車未満だ──!
泣いちゃう。
花びらとあまい香りにつつまれた苑で、抱きしめられる。
荒い息が、耳を揺らした。
とがった歯が、うなじにあたる。その硬さに、ふるえる。
「だ、め……」
声は、あまえるようだった。
まるで
『かんで』ねだるように。
応えるように、硬い歯がうなじに喰いこむ。
アルファとオメガでも情交中じゃないと、うなじを噛んでも、つがいになることはない。互いにわかっているからこその、甘噛みだ。
それでも、あまい痺れに、ふるえる。
「……ぁ……」
燃える吐息で、たくましい背に、すがってしまう。
「ジークさま……っ」
たくましいうなじに、指をからめて抱きよせたら、荒い息が鎖骨を揺らす。
「……きみの、名は……?」
聞いてくれた。
それだけで、うれしい。
「ルゼ、です、ジークさま」
熱い息で、応える。
瞳が、かさなる。
見あげる瞳は、深い海だ。
のまれたら、もう、戻れない。
吐息が、かさなる。
ぬくもりが、かさなった。
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