オメガの悪役令息に推しの愛が届かない

  *  ゆるゆ

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くちゃい?

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「ルゼ──!」

 たるたるの腹を揺らした親父が、目をつりあげて俺を呼んでる。

「わりぃわりぃ、帰る?」

 走り回って探してくれたのだろう親父が、息も切れ切れで汗だくになってる。ごめんよ。

「いや、ルゼ、ほんとに別人だな!? なんだその、わるい口は!」

「前世の記憶がよみがえっちゃって。
『オメガですぅ、よろしくぅ』みたいなの無理」

率直な意見を述べてみました。

「無理じゃないだろう! アルファは見つけたのか──!」

 前世はスルーみたいだよ。よかった。

 ほっとする俺の前で、親父が鼻をつまんだ。


「……お前、くちゃい」

「ひどくない──!?」

 ちょっと涙目だよ。
 親父でも言ってもいいことと、だめなことが……いや、でも
『ちゃんとお風呂入ってる?』
『歯、みがいた?』
『息がすごい匂いだけど、胃がわるいんじゃ?』
『内臓がわるいと、変わった匂いがするらしいぞ』みたいなこともあるのか、そうか。


「え、歯とかみがいたけど……! 変な匂いする!?」

 泣きそうな俺の肩を、親父のぷにぷにの手が、ばしばし叩いた。

「アルファと、つがいになったのか──! でかした!」

 手を叩いて踊りそうな親父を止める。

「なってない」

「ものすんごく、くちゃいぞ」

 鼻をつままれた!

「ひどい!」

 親父が思いきり眉をしかめる。

「俺と、最高に相性のわるいアルファのフェロモンだ。……これで、つがいになってないのか……?」


 おお、親父と最高に相性がわるい = ジークさまが、いい人だということだ! よき!


「質問!」

 手をあげようとしたら

「ルゼ──!」

 最愛の推しが、駆けてきた!

 逃げ足を誇る俺についてくるなんて、すごい。さすが最愛! じゃなかった!


「親父、退却だ!
 俺が王宮舞踏会にまぎれこんだ平民って、ばれそう!」

 あわあわ駆けだした俺に、すんごい顔になってる親父がついてくる。

「お前はまた、何をやらかしたぁあ──!」

「いいから早く!」

 だるんだるんな親父の、よい運動の日になったと思う。

 ぜえぜえして、汗だくになってた。
 ちょっぴり、かわいそうかも。

「でも辛い思いをすると、やせるよ、親父! よくがんばった!」

 肩をぽんぽんしたら、親父が、うろんな目になった。

「……ほんとに別人だな……?」

「そういうこともあるんだよ」

 前世の記憶パワー、すごい。



 高位貴族の馬車に乗りこんでしまうと、手を出せるのは王族だけになってしまう。

 掲げられた家紋だけが、まぶしい。

 さくっと俺を押しこんでくれた親父には、ちょっと感謝だ。

「お前、もしかして、ほんとにラィエ家のぼんぼんを釣りあげたのか……?」

 親父の目が、ギラギラしてる!

「まっさっかあ」

 全否定だ。

「発情誘発剤を使われて、困ってたんだよ。それでちょっと匂いがついちゃったんじゃないかなあ」

 ちゃんと状況を説明してみたら、納得するどころか親父がきれてる。

「なぜそこで孕まない!」

「親父が探しにきたんじゃん」

 親父の顔が、汗だくから涙だくになりそうだ。

「ぐぅう──! 早かったか!」

 そういうことにしておいて!







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