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はやい
しおりを挟む「ヴィルさまとエヴィさまは、どうぞごゆっくり馬車でいらしてください。わたくしどもは体力づくりを兼ねて歩きます」
ノィユの母ノチェが、にこやかに膝を折る。
父も一緒に膝を折った。
おそろいの角度だよ、完璧!
ノィユも横目で、わたわた合わせる。
「バチルタ家に生まれたからには、根性が必須なのです!」
母がやる気だ。最近みなぎってる!
確かに根性は運動で養成される気がする……!
そう、貧乏でも生き抜くためには、根性が果てしなく必携なのです……!
「僕、ヴィルが恥ずかしくない伴侶になるためにも、がんばります!」
拳を握ってみた。
「俺も、歩く」
微笑んだヴィルが手を握ってくれる。
「じゃあ僕も!」
エヴィまで歩いてくれるらしい! やさしい!
「え──! エヴィと一緒に出掛けられないなんて……!」
ブーイングしたトートの錐のように鋭い目が刺さった。
「……あ、あの、大変勿体なくありがたく、馬車に乗せさせていただきます……」
母が折れた。
はやい。
洗練された品を奏でるネァルガ家の馬車で王立図書館に到着しました!
王宮の衛士さんたちは家紋を頭に叩きこんで勤務しているので、すぐ家を把握してくれるのだけれど、図書館の衛士さんたちはそうじゃない。
しかし『昨日来た馬車はネァルガ家らしい』というのがネニから伝わったのかもしれない、今日は皆で槍を掲げてお迎えしてくれた。
馬車を最初に下りるのは家格が低い者からと決まっている。
「も、申しわけありません、僕たちバチルタなので!」
敬礼してくれる衛士さんたちにあわあわするノィユと両親の後ろから、エヴィが顔を覗かせた。
「ヴァデルザもネァルガもいるから、いいんじゃない?」
た、確かに──!
「……その……いって、らっしゃぃ……」
トートに向けたちっちゃな声が、エヴィの唇の奥に消える。
「エヴィ──!」
感激で号泣してしまったらしいトートがエヴィを抱きしめた。
「ちょ──! お兄さまの前だから──!」
真っ赤なエヴィがばたばたして、ヴィルはやわらかに藍の瞳を細める。
ヴィルを見あげたノィユも微笑んだ。
「なかよしでよかったね、ヴィル」
こくりとうなずいたヴィルの手が、エヴィの頭をぽふりと撫でた。
「よかった、エヴィ」
くしゃりと泣きだしそうに揺れた瞳で、エヴィがヴィルの胸にちいさな顔をうずめる。
「……おにいさまも」
ちいさな、ちいさな声に、ほんのり赤い耳朶で、ヴィルはふうわり微笑んだ。
「……いや、あの、ここ図書館の前なんだけど……」
エヴィを奪われて、すねたように尖った唇で突っ込むトートに、真っ赤なエヴィがばたばたしてる。
ネァルガ家の馬車が来たと伝えられたのだろう、長い衣を引きずって、ぽてぽて駆けてきてくれたネニが、ネァルガ家+ヴァデルザ家+バチルタ家に目をむいた。
上位貴族とざっくり括られるけれど、ポーテ家は新興なので、ヴァデルザ家のほうが家格はかなり上だ。
深く頭をさげて固まるネニに、トートが微笑む。
「おはよう、ネニ。今日も勉強するんだって。エヴィとお義兄さまとバチルタ家をよろしくね」
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