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ありがとう
しおりを挟むなんだかとっても気もちがわるい。
頭が、ぐらんぐらんする。
いや、 世界が、ぐらんぐらんしてる?
地震なの!?
「きゃぁ」
いつもなら『 きゃ──!』なのに声は力なく、弱々しく 落ちた。
「ゆりさま──!」
僕が起きたことに気づいてくれたのだろう、すぐに飛んできてくれたカイが泣きだしそうだ。
前世の記憶がよみがえった時は、僕はひとりぽっちだった。
もちろん、あの時も、ちょうど お手洗いに行っていたとか、僕のために綺麗に洗ったシーツを用意してくれていたとか、カイにも色々 理由があったのは、わかってる。
意地っぱりで、えらそうで、いじわるで、情けなくて、よわよわな悪役令息な僕のことさえ、 家族の皆(カイ含む)やセゥスさま、のーすちゃんが大切にして、やさしくしてくれたことも、わかってる。
でも気持ちわるくて、ぐらんぐらんな時に、目が覚めたら すぐ 来てくれるのは、 涙がでるくらい、 うれしい。
「カイ」
涙声で名を呼んで 、手を伸ばしたら、抱きしめてくれる。
「ゆりさま、お倒れになって、もう3日も眠っていらしたのですよ……!
お加減は、いかがですか」
3日も……!
でもこの間は1週間だったから、僕、ちょこっと 進化してるかも!
いつも 凛々しい 切れ長の瞳が涙に うるんでいて、抱きしめてくれたカイの腕のなかで、カイの香りにつつまれて、僕はそっと目を閉じる。
「……うれしい」
カイの瞳が瞬いた。
涙の瞳で、 とろけるように 笑ってくれる。
「気もちわるくありませんか ?」
「カイの腕のなかは、とけちゃいそうだけど、 気持ちわるくて、ぐらんぐらんするの。地震?」
「すぐに医士を──!」
行ってしまおうとするカイの、そでを、ちょこっとつまむ。
それだけで、わかって、止まってくれるカイが、やさしい。
「うれしい」
「ゆりさま、はやく医士を……」
なぐさめるように頭をなでてくれたカイが行ってしまおうとするのに、 首をふる。
「そばにいて」
ささやいたら、カイの耳が紅く染まった。
「でも、ゆりさま、はやく診ていただかないと」
首をふった僕は 、カイの胸に顔をうずめる。
「……ぼくね、でしゃばって、よけいなことしちゃった……」
「そんなことあるはずがないでしょう!
あのクソ王太子も、涙を流して喜んでいましたよ」
叫んでくれるカイが、不敬満開だけど、やさしい。
「……僕、何にもできないけど……最後だから、笑ってほしかったの。
魔力の緑の光がきらきらしたら、笑ってくれるかな って、喜んでくれるかな って。
……僕はいつも、僕のことばかりで……だからセゥスさまも──」
僕が、いらなくなったんだ。
……違うと言ってくれた。
お父上の懇願だったと。
そうなのかもしれない。
でもセゥスさまは、とてもやさしいから。
僕を傷つけないために、僕の傷が軽くなるために、いくらでも笑顔で、 涙で、 嘘をついてくれるだろう。
胃に穴 が開いた時でさえ、とろけるようにやさしい、 いつもの鉄壁のほほえみで。
ぜんぶ至らない僕のせいだけれど、どんなに言葉を飾っても、 どんな気もちがあったとしても、僕は選ばれなくて……捨てられた。
前世の記憶が、よみがえった時は、衝撃の向こうに今世の記憶も遠くなった。
だから元気に笑っていられた。
セゥスさまを、お慕いしていたのかさえ、わからなくなったから。
でも今世の記憶を思いだしたら。
ずっと僕に、やさしくしてくれた、セゥスさまを
ずっとセゥスさまの、おそばにいたかった僕を
ずっとずっと、おそばにいるんだと信じていた未来を
思いだしてしまったら、 心が裂ける。
のーすちゃんが、ありえないと言った意味が、今、わかった。
あまりに 衝撃 だから、壊れてしまうから、僕は前世の記憶を思いだしたんだ。
記憶を混濁させて、僕の心を守るために。
僕にどんなことが起きても、僕が変わってしまっても、それでも僕には、やさしい家族がいる。
どんな僕でも、僕を思って、僕を心配してくれる家族が。
それを噛みしめるために、これからも生きていくために、僕は前世を思いだしたんだ。
「……ありがとう、カイ」
涙と一緒にささやいたら、ぎゅうぎゅう 抱きしめてくれた。
「あなたを、あるじと、いただけたことは、わたくしの至上のよろこびです」
涙の瞳で、 笑ってくれた。
────────────────
ずっと読んでくださって 、ありがとうございます!
セゥス視点のお話を読みたいと リクエスト いただいたのですが、本編の中に他の視点のお話が混ざってくるのがあまりすきではなくて(たまにやるのですが、今はごめんなさい!)完結の後のおまけのお話だと、めちゃくちゃ お待たせしちゃうので、せっかくなのでセゥス視点の動画を作りました!(笑)
インスタ @siro0088
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
お気に入り、 いいね、 エール、 ご感想、 おひとつおひとつに、 応援してくださるお気持ちに、ずっと読んでくださる、あなたさまに、 心から、 ありがとうございます!
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