悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです？

元気になったら

　僕の許容量を、はるかに超える衝撃がもたらされてしまい、お熱をだして寝こんでしまいました……

「ゆりちゃん……！」

　家族みんな（カイ含む）が泣いてくれて

「お見舞いに──！」

　のーすちゃん一家が言ってくれたのですが

「またユィリおぼっちゃまが倒れられては、大変ですので」

　カイが、ていねいにお断りをしてくれました。
　ものすごい圧がかかってたような気がちらっとしたけど、きっと気のせいだと思うな！



「……なんだか僕、聞いてはいけない言葉を聞いてしまったような気がするんだけど……」

　熱で、もうろうとする頭で、ぽそぽそつぶやく僕の頭を、ロドお兄ちゃんがなでなでしてくれる。

「ゆりちゃんは、なんにも聞かなかったんだよ。だいじょうぶ」

　ロドお兄ちゃんは、いつものとおり、激甘です。

「カイが止めてくれて、帰らせようとしてくれたのにな。ゆりちゃん、かわいそうに……！」

　ぎゅむぎゅむ僕を抱っこしてくれる、おかあさんも、いつものとおり、やさしいです。

　そしてぜんぶを家族みんなに聞かれてしまっている件について！

　お家の壁が薄いんだね。
　下位貴族だからね。

「あれはなんか、ぼやんとしたお話だから。ゆりちゃんが気にすることなんて、みじんもないから！」

　ぎゅうぎゅう僕を抱っこしてくれる、おとうさんも、いつものとおり、あまあまです。



　やさしい家族のあったかい腕のなかで、僕はそうっと記憶を呼びもどす。

『伴侶（予定）契約』
　セゥスさまと13年のあいだ結んで、一瞬で壊れた契約だ。

　未来を縛る契約なのに、一瞬で崩れさる。

　あっという間に、なかったことにされる。

　僕の気もちを、叩き壊して。



「……ぼく……伴侶（予定）契約……こわい……」

　こぼれた言葉に、サザお兄ちゃんが目をむいた。

「当たり前だよ！　ゆりちゃんは大変な目にあったんだから！」

　ぎゅむぎゅむ抱っこしてくれるサザお兄ちゃんが、筋肉です。

　むっちり！

「伴侶（予定）契約はしばらく結ぶつもりがないことを王家に通告しておく。
　向こうが与えた衝撃のせいなんだから認めてしかるべきだろう」

　おかあさんの背中から、炎が噴いてる。

「またお熱がでても大変だから、しばらくあの一家には近づかないようにしようね」

　僕の頭を、なでなでなでなでなでなでしてくれるロドお兄ちゃんの背中から、闇が噴いてる。







　お熱が治まるまで、魔導士おじいちゃんの魔法のお勉強もおやすみだ。

　お見舞いに来てくれたおじいちゃんが、お熱でぽやぽやの僕に、微笑んでくれた。

「ユィリおぼっちゃまは、ほんとうにセゥス殿下をお慕いしていたのですのう」

「……そうかな……」

　つぶやく熱っぽい声に、おじいちゃんがうなずいた。

「昏倒して、記憶が混濁してしまうなど、大変なことですじゃ。こんな時に次の伴侶（予定）契約のお話というのは、無茶がすぎるかもしれませんのう」

　おじいちゃんまで、僕にあまあまです！

「しかしですな、ユィリおぼっちゃまのご家族がおっしゃるように、家のなかにずうっと閉じこもっているというのは、大変よくありません。……いや、閉じこもりたい人は閉じこもってもらって、だいじょうぶなのですがの。ユィリおぼっちゃまは違うでしょう」

　こっくり僕はうなずいた。
　インドアだけど、たぶん引きこもりではない気がする……！　た、たぶん？

「動かないということは、思考も停滞するということです。
　ずっと破棄されてしまった伴侶（予定）契約のことを考えてしまうということですな。
　それはユィリおぼっちゃまにとって、とてもおつらいことでしょう」

「……そう、かもしれません……」

　うつむく僕に、おじいちゃんが笑う。

「ですからの、お熱が下がったら、ユィリおぼっちゃま、学校に行ってみなされ」

「──！」

　ぴょこんと僕は飛びあがる。

　そうだ、僕は主人公に謝らないといけないのです──！


「は、はい！
　僕、学校に行きたいです──！」