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いってみよう!
しおりを挟む久しぶりの登校です──!
こわい……!
「……はぁあぁあ……ど、どきどきする……!」
僕、ちょっと、泣きそうです……!
「やっぱりやめましょう、ユィリおぼっちゃま」
僕を心配してくれるカイまで、泣きそうです……!
「ゆりちゃん、無理しなくていいんだよ……!」
「やめよう、ゆりちゃん……!」
「家にいればいいじゃないか……!」
「ゆりちゃん……!」
ロドお兄ちゃん、サザお兄ちゃん、おかあさん、おとうさんが、泣きながら僕を抱っこしてくれる。
……学校に行くんじゃなくて、今生の別れみたいだよ……!
こうして甘やかされに甘やかされると、僕は立派な悪役令息になってしまうのです……!
きゃ──!
というわけで、悪役令息フラグをへし折るためにも、僕は学校にゆくのです!
「い、いってきます……!」
ちょっと泣いちゃいそうな僕を、カイが抱っこしてくれる。
「ほんとうに、ゆかれますか?」
「が、がんばるよ……!
カイは一緒に来てくれるよね……!?」
「もちろんでございます。
わたくしはずっと、ゆりさまの、おそばに」
とろけるようにあまい微笑みで、ささやいてくれるカイが、かっこよすぎる件について──!
きゃ──!
カイのアップにどきどきしたら、学校へ行く恐怖が、ちょっと遠のきました。
しばらくお休みしてた後に復帰すると、かなり怖いよね。
その恐ろしさを超えてくるカイのかんばせが、強すぎる──!
「はー、ちょっと落ちついた。
カイ、いい匂いする」
ごとごと揺れる馬車の中で、抱っこしてくれるカイの胸に顔をうずめたら、怖いのも、気が重いのも遠くなる。
「ゆりさまも、とってもいい香りがします」
ふわふわカイが笑ってくれる。
ぬくぬく抱っこしてもらっていたら、ゆっくり馬車が止まった。
「ユィリおぼっちゃま、学校でさあ!
『無理!』ってなったらすぐに帰れるように、しばらくおりやす。
無理しねえでくだせえ」
心配そうに眉をさげる御者さんに、ぷるぷるの手をあげた。
「が、がががががががががんばって、くくくくくるねねねねね……!」
コチコチだよ──!
「ゆりさま……!」
カイが泣いちゃいそうだよ……!
ぼ、ぼぼぼく、が、がががががががんばるるるる──!
主人公に謝るために、僕は前世を思いだしたんだから──!
朝の登校時間の学校は、たくさんの生徒でいっぱいだ。
そびえ立つ白亜の学舎に、白と藍の制服の生徒が次々と吸いこまれてゆく。
流れてゆく人波のなかに混じる、右手と右足が一緒にでるコチコチの僕に降ってくるのは、かわいそうな子を見る目だった。
「あれ、学校に来てる」
「昏睡して記憶が混濁って聞いたよ」
「伴侶(予定)契約の破棄だろ」
「かわいそー」
見くだされる感じ、笑われる感じは、いつもの通りだ。
「ちょっところしてきますね」
やさしく微笑むカイが、光の速さになりそうなのを、あわあわ止める。
「だ、だいじょうぶだよ!
いつものことだから!」
ひとりぽっちで想像して、ぐるぐるしていた時のほうが、つらかったかもしれない。
現実の世界は、春のひかりがやさしくて、鳥が歌っていて、緑がさやさや風に揺れて、カイが隣で、ふるえる僕の手をにぎってくれる。
ぎゅう
にぎり返したら、身体の奥から勇気がわいてくるんだ。
……だいじょうぶ。
祈るようにとなえて、ふるえる足を踏みだした。
たくさんの人に囲まれた向こうで、ぴんくの髪が揺れる。
とびきり愛らしい顔で、主人公が笑ってる。
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