悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ

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いってみよう!

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 久しぶりの登校です──!

 こわい……!

「……はぁあぁあ……ど、どきどきする……!」

 僕、ちょっと、泣きそうです……!


「やっぱりやめましょう、ユィリおぼっちゃま」

 僕を心配してくれるカイまで、泣きそうです……!


「ゆりちゃん、無理しなくていいんだよ……!」

「やめよう、ゆりちゃん……!」

「家にいればいいじゃないか……!」

「ゆりちゃん……!」

 ロドお兄ちゃん、サザお兄ちゃん、おかあさん、おとうさんが、泣きながら僕を抱っこしてくれる。

 ……学校に行くんじゃなくて、今生の別れみたいだよ……!

 こうして甘やかされに甘やかされると、僕は立派な悪役令息になってしまうのです……!

 きゃ──!

 というわけで、悪役令息フラグをへし折るためにも、僕は学校にゆくのです!


「い、いってきます……!」

 ちょっと泣いちゃいそうな僕を、カイが抱っこしてくれる。

「ほんとうに、ゆかれますか?」

「が、がんばるよ……!
 カイは一緒に来てくれるよね……!?」

「もちろんでございます。
 わたくしはずっと、ゆりさまの、おそばに」

 とろけるようにあまい微笑みで、ささやいてくれるカイが、かっこよすぎる件について──!

 きゃ──!



 カイのアップにどきどきしたら、学校へ行く恐怖が、ちょっと遠のきました。

 しばらくお休みしてた後に復帰すると、かなり怖いよね。

 その恐ろしさを超えてくるカイのかんばせが、強すぎる──!


「はー、ちょっと落ちついた。
 カイ、いい匂いする」

 ごとごと揺れる馬車の中で、抱っこしてくれるカイの胸に顔をうずめたら、怖いのも、気が重いのも遠くなる。

「ゆりさまも、とってもいい香りがします」

 ふわふわカイが笑ってくれる。

 ぬくぬく抱っこしてもらっていたら、ゆっくり馬車が止まった。

「ユィリおぼっちゃま、学校でさあ!
『無理!』ってなったらすぐに帰れるように、しばらくおりやす。
 無理しねえでくだせえ」

 心配そうに眉をさげる御者さんに、ぷるぷるの手をあげた。

「が、がががががががががんばって、くくくくくるねねねねね……!」

 コチコチだよ──!

「ゆりさま……!」

 カイが泣いちゃいそうだよ……!


 ぼ、ぼぼぼく、が、がががががががんばるるるる──!


 主人公に謝るために、僕は前世を思いだしたんだから──!






 朝の登校時間の学校は、たくさんの生徒でいっぱいだ。
 そびえ立つ白亜の学舎に、白と藍の制服の生徒が次々と吸いこまれてゆく。

 流れてゆく人波のなかに混じる、右手と右足が一緒にでるコチコチの僕に降ってくるのは、かわいそうな子を見る目だった。

「あれ、学校に来てる」

「昏睡して記憶が混濁って聞いたよ」

「伴侶(予定)契約の破棄だろ」

「かわいそー」

 見くだされる感じ、笑われる感じは、いつもの通りだ。


「ちょっところしてきますね」

 やさしく微笑むカイが、光の速さになりそうなのを、あわあわ止める。

「だ、だいじょうぶだよ!
 いつものことだから!」

 ひとりぽっちで想像して、ぐるぐるしていた時のほうが、つらかったかもしれない。


 現実の世界は、春のひかりがやさしくて、鳥が歌っていて、緑がさやさや風に揺れて、カイが隣で、ふるえる僕の手をにぎってくれる。

 ぎゅう

 にぎり返したら、身体の奥から勇気がわいてくるんだ。


 ……だいじょうぶ。

 祈るようにとなえて、ふるえる足を踏みだした。



 たくさんの人に囲まれた向こうで、ぴんくの髪が揺れる。

 とびきり愛らしい顔で、主人公が笑ってる。







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