悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
72 / 148

おぉ?

しおりを挟む



「アーシェさん、大変申しわけないのですが、ユィリおぼっちゃまは今日はもうほんとうに限界なご様子です。
 くわしいお話は、どうぞ後日に」

 うやうやしく、でもはっきり、ばっきり割りこんでくれたカイの言葉に、ちょっと泣きそうだったアーシェが僕の肩を揺さぶるのをやめてくれました。

 ぐらんぐらんになりそうだったので、助かったよ。

 ありがとう、カイ──!


「僕、ちょっと気持ちわるくなっちゃったから、もう帰るね」

 よわよわな僕、撤退です!

「くわしいお話は、ケーキと一緒にね!
 どんなケーキを食べたいか、考えておいてね」

「チョコレートケーキ!!!」

 即答されました。
 拳をにぎられました。

「……え、いや、チョコレイト、きびしくない……?」

 この世界で見たことないよ!
 たぶん!

「……え……お貴族さまは、こっそり食べてるんじゃないの……?」

 アーシェの目がうろんだよ。
 ……貴族に、いやな目に遭わされたのかな……?

 は……! 僕だ──!

 あわあわ僕は首をふる。


「食べてません!
 あ、王族なら食べてるかも?
 今度、セゥス殿下に聞いてみたら?」

 ちょっとちくちくする胸で言ってみたら、アーシェのとびきり可愛い顔が複雑になった。

「……その話も、ケーキと一緒にするよ。
 とりあえず甘いケーキをお願いします。クリームたっぷりで!」

「まかせといて!」

 どんと胸を叩いてみました。

 ぴんくの髪を揺らして笑ってくれるアーシェが、とびきり可愛い主人公です。


 こんなに可愛くて優しくて一生懸命頑張るアーシェが可愛すぎて、やきもちを焼いてしまった、記憶がよみがえる前の僕のことも、ちょっとわかった気になったのでした。


 そしてせっかく学校に来たのに、全く講義を受けないどころか、校舎の中にさえ入らずに撤退する僕!

 いやもう一生懸命、謝ったら、僕、いっぱいいっぱいになっちゃったよ……!

 学校はまた今度ね!

 今日は謝罪という一大事業を成し遂げたから、もう帰ります!


「もう帰っていいよね」

 いちおうカイに確認してみました。

「もちろんでございます、ユィリおぼっちゃま」

 しゃっと、おひめさま抱っこしてくれようとするカイを止める。

「だいじょうぶ、歩けるよ。
 御者さん、まだ待ってくれてるかな」

「きっと。馬車を回してもらって参りますので、ユィリおぼっちゃまは、こちらの木陰でお待ちくださいね」

 校門の近くにある緑の木々に囲まれる白いベンチに僕を座らせてくれたカイが、馬車を呼びに駆けてゆく。

 木漏れ日の差しこむ、気もちのいい春の朝に、目を閉じた時だった。


「……うぅ……」

 うめき声が聞こえた。

 びっくりした僕は目を開ける。


「うぇええぇ……ぎぼぢわるぃよう……がっこう行きたくなぃよう……!」

 切ない嘆きが聞こえました。


「……え、いやもう学校に来てるよ?」

 突っこんでしまいました。


「ここまでは何とかなるんだよ! 校門が限界なんだよ! 校舎の中に入るとか真剣に無理──!」

 もしゃもしゃの月の髪で目も顔も覆われている、僕とおそろいの制服を着た背の高い青年が、校門でお腹を抱えてうずくまってた。






しおりを挟む
感想 326

あなたにおすすめの小説

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい

雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。 延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

もう観念しなよ、呆れた顔の彼に諦めの悪い僕は財布の3万円を机の上に置いた

谷地
BL
お昼寝コース(※2時間)8000円。 就寝コースは、8時間/1万5千円・10時間/2万円・12時間/3万円~お選びいただけます。 お好みのキャストを選んで御予約下さい。はじめてに限り2000円値引きキャンペーン実施中! 液晶の中で光るポップなフォントは安っぽくぴかぴかと光っていた。 完結しました *・゚ 2025.5.10 少し修正しました。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。

ivy
BL
⭐︎毎朝更新⭐︎ 兄の身代わりで望まれぬ結婚を押しつけられたライネル。 冷たく「帰れ」と言われても、帰る家なんてない! 仕方なく寂れた村をもらい受け、前世の記憶を活かして“投資”で村おこしに挑戦することに。 宝石をぽりぽり食べるマスコット少年や、クセの強い職人たちに囲まれて、にぎやかな日々が始まる。 一方、彼を追い出したはずの旦那様は、いつの間にかライネルのがんばりに心を奪われていき──? 「村おこしと恋愛、どっちも想定外!?」 コミカルだけど甘い、投資×BLラブコメディ。

処理中です...