悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ

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だいすき

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 セゥスが、僕の手をひいてくれる。
 ちっちゃかった、あの頃みたいに。

 頬が熱くて。
 胸が熱くて。

 心が、ぎゅうっとする。


 あなたと手をつなぐ。

 それだけで、泣いてしまいそうになる。


「みんな、まだ寝てるから、こっそりね。ふたりで話がしたいから」

 隣国の離宮だなんて、詳しくないはずなのに、セゥスは迷いなく僕の手をひいてくれた。

 花の庭の奥には、水やりのためだろうか、ちいさな泉がたたずんだ。
 ぱしゃりと魚の尾が飛沫を散らす。

「わぁ!」

 駆け寄る僕に、セゥスが笑った。


「ユィリはずっと、生きものがすきだね」

「みんな、すきでしょう?」

 首をかしげる僕を、セゥスが背中から抱きしめてくれる。
 早朝の冷たい大気から、僕を守るように。


「人間のことは、あまりすきじゃないみたいだったけど。鳥も魚もうさぎも、りすも、犬も、だいすきでしょう」

「さ、最近は、人間にも、やさしくしようって……!」

 あわあわする僕の頭を、ごつごつのセゥスの手がなでてくれる。
 ずっと、ずっとがんばってきた手を見るだけで、僕の目は熱くなる。

「ユィリには希少な治癒の力があるから、ない人をあなどってしまうところはあったし、言い方がきついところがあって、それで誤解されてしまったけれど。
 ユィリはずっと、やさしかった」
 
「……そんな風に言ってくれるの、セゥスさまだけだよ」

「王太子じゃなくなる。王族でもなくなる。
 ただのセゥスだよ」

「だ、だめ──! セゥスさまは、ずっと、ずっと頑張ってきたのに……!
 ぼ、僕が……僕が、セゥスさまに、ふさわしくなるから──!」

 なれるかどうかも、わからない。
 目標は、あまりにも高くて、目指す前から無理だって思ってしまいそうでも。

 それでも。

 自分から、あなたを、あきらめたくない。


「……王太子じゃなくなる、王族でもなくなる僕は、ユィリにとって、価値がない……?」

 ふるえる声に跳びあがった僕は、叫ぶ。


「そんなわけない──!」

 振りかえった僕は、青いセゥスの頬に、手をのばす。


「そうじゃないよ。だって、セゥスさまが、あんなに必死で頑張ってきたのは、王になるためだ。
 僕は、世界でいちばん、セゥスさまが王にふさわしいと思ってる」

 ふるえる身体を、抱きしめる。


「がんばっても、がんばっても、だめなことはあるよ。でも、届くなら、つかんでいいんだよ。
 セゥスさまも、のーすちゃんも、やさしすぎて、譲りあいで、でも王になるためにずっと、ずっと頑張ってきたのは、セゥスさまだ」

 ちいさな頬をつつんで、笑う。


「あなたが王になるなら、僕は王配としてふさわしい人になりたい。
 ……こわいよ。無理だって思うよ。
 でも、そんなのを、ぜんぶ飛び越えちゃうくらい」

 ささやいた。


「あなたが、だいすき」


 ふうわり、セゥスの頬が紅くなる。
 見開かれた緑の瞳が、こぼれる涙に揺れてゆく。


「……ユィリが、だいすき」

 抱きしめてくれる腕が、ふるえてる。


「……隣国の元王太子を治癒するために、ユィリが向かったって聞いて……僕のあの激痛を治してくれたユィリなら、謎の昏睡さえ治せるかもしれないと思った。
 ……アーシェが治せない病を、ユィリが治せたら……?
 ユィリは、王配として、ふさわしい。きっと、皆が認めてくれる。
 僕は、堂々とユィリを愛してるって言える。
 そんなことを思ってしまった僕が、最低に思えたんだ」

「……え……?」

 きょとんとする僕を、ぎゅうぎゅう抱きしめて、セゥスがささやく。


「すごい治癒の力がなくたって、皆に認められなくたって、そんなの何にも関係なくて、ユィリを愛してる」

 誓うように、あいしてるが、おでこにふれる。


「僕の心からの気もちを捧げたくて、ユィリがすごい力を発揮する前に、王太子を捨てようと思った」

 ごつごつの手が、頬をつつんでくれる。


「身分もお金も、すべてを失くした僕は、素晴らしい治癒の力をもつユィリにふさわしくないと言われるようになるかもしれない。
 ……それでも、素晴らしい才を発揮させたユィリに、王太子のままで『ほんとうはずっと愛してる。王配になって』だなんて、最低だと思ったんだ」






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