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宣言
しおりを挟むぼうぜんと僕は、セゥスを見あげる。
「そ、それで王太子を辞めるって言ったの……?
そんなことのために……?」
セゥスは小さく笑った。
「ユィリは僕に『そばにいて』って言ってくれるためだけに、命をかけてくれたよ」
頬が燃える。
耳まで熱い。
ぎゅうっと抱きついたら、ぎゅうっと抱きしめてくれる。
……夢みたいだ。
さよならと、最敬礼をしたとき。
もう二度と、この手は届かないと思った。
もう二度と、あなたと話すことさえないと思った。
天上のところにいる、あなたに手が届いたことが奇跡で。
夢はいつか覚めるものだと思っていた。
ちょこっとしたすり傷しか治せない僕は、きっといつか伴侶(予定)契約を破棄される。
その時をのばそうと、アーシェくんに、いじわるまでした。
……そう、いつだって僕は、終わりを見ていた。
前世の記憶を取り戻してからも、ずっと。
悪役令息だから。
伴侶(予定)契約を破棄されたから。
何もかもが、終了したと思っていた。
断罪を回避しようと頑張ったのであって、あなたのそばに行こうと頑張ったんじゃない。
ちっともあなたにふさわしくない僕のために、ただまっすぐに『あいしてる』言ってくれるためだけに、あなたが頂点の地位を捨ててくれるだなんて。
「……はやいよ、セゥスさま。
主人公に励まされて、一生懸命頑張った僕が、あなたにふさわしい人になってから、お迎えに来てくれないと」
もごもごのつぶやきが、涙に揺れる。
「まだ全然頑張ってない、ちっともふさわしくない僕に、こんなに大きな、ごほうびをくれちゃうなんて、早すぎです。
そんなだから、僕はあまえたで、よわよわの悪役令息になっちゃうんだよ」
責任を押しつけてみました。
よわよわ悪役令息に、さよならすると誓った舌の根も乾かぬうちに……!
こ、これから頑張るんだよ!
ダイエットは明日からだよ!
ち、違う──!
「ユィリが甘えたで、よわよわになってくれたら、僕に頼ってくれるでしょう?
そうなったらいいなって、皆がユィリを甘やかしちゃうんだよ。ご家族も、僕も」
ふわふわ笑うセゥスの唇が、僕の髪にうまる。
「セゥスさまだけは、僕をしかってくれたよ。
……僕、うれしかったの」
ふわふわ熱い頬で笑う。
「あぁ、もう、ユィリかわいー!」
ぎゅうぎゅう抱きしめてくれるなんて、夢みたい。
──でも夢だって決めていたのは僕で。
もう終わってるって諦めていたのは僕で。
あなたにもう手が届かないと思っていたのも僕で。
悪役令息だって思ってるのも僕だ。
「僕ね、これからね、セゥスさまにふさわしい、かっこいい男になる──!」
ちっちゃな拳をにぎる僕に、セゥスは凛々しい眉を下げた。
「……ならなくていいよ?
かわいいもちもちが、ガチムチになっちゃうとか真剣に号泣しちゃいそうなんだけど」
ほんとに泣きそうだよ……!
「えぇ──!
が、がちむちになっちゃったら、セゥスさま、僕のこと、きらいになっちゃうの!?」
しょっく……!
「だいすきだけど、泣いちゃう」
……趣味じゃないみたいです。
きゃ──!
「ユィリおぼっちゃま!
病みあがりで早朝から出歩かれるなど、絶対また、あなただと思いましたよ、このくそ王太子──!」
カイの凛々しい眉がつりあがって、セゥスは笑った。
「元だよ」
「ご、ごめんなさい、セゥスさま……!
とっても素晴らしいと、ちょっと言い間違えちゃったみたいで……!」
あわあわ膝を折る僕に、緑の葉の瞳が、とても残念そうにカイを見た。
「あるじに謝罪させるのは、従僕としてどうなのかな?」
……おぉお……!
セゥスさま、攻撃モードが発動してる……!
そうなのです。
たおやかで繊細で風が吹いたら倒れちゃいそうな(ちょっと違う?)セゥスさまですが、王となる教育を生まれた時から叩きこまれているので、攻撃モードに移行すると、最強の大魔人になってしまいます……!
きゃ──!
「ユィリにとって僕の想いが迷惑なら、潔く身を引くけど。
『だいすき』って言ってくれたから」
緑の瞳が、切れあがる。
「ユィリの隣を、誰にも譲る気はない」
宣言するセゥスさまが、今まで見たなかで最高にかっこいいです……!
きゃ──!
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