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ゆらゆら
しおりを挟むノゥスとカイ、セゥスは馬で早駆けしてバギォ王宮へと向かう。
同じ帝国の属国で親善国ともなったバギォ王国の王は、さきほども突然やってきたセゥスたちに馬を貸してくれ、今もまた快くノゥスとカイ、セゥスを迎えてくれた。
「ああ、いらっしゃい、待ってたよ。転移門だね、どうぞ使って」
やさしく微笑んでくれたバギォ王は、トゥヤとトコハとお茶を飲んでた。
「……えぇえええ……?」
転移門は、帝国の各地と属国を繋ぎ、一瞬で移動を可能にする魔導門だ。
朝早くに出立したのに、まだ陽は中天に差しかかってもいない。
あっという間にラゼン王宮に戻ってきたノゥスとカイ、セゥスに、皆があんぐり口を開ける。
「は、はやくない……!?」
トトラといっしょに、アーシェも、ラディまでのけぞってる。
離宮のユィリが使っていた寝室に入ると、いつも鋭いトゥヤの瞳がさらに切れあがった。
「ここでユィリがいなくなったんだな。ちょっと皆、出ていてくれ」
仕切ってくれるトゥヤに、皆がすぐに従った。
14歳の少年なのに。
その強さが分からないだろうトトラもアーシェも、ぷるぷるしてる。
「……僕は残っても構わないだろうか。隅で気配を消しているから」
セゥスの言葉に、ちょっと眉をあげたトゥヤが、ちらちら瞬く光と話をしてる。
「わるい、出てくれるか。
他の人の気配があると、あまりに微かな残滓は消えてしまう」
「……わかった。すまない」
胸に手をあてて、心からの謝罪を表したセゥスに、トゥヤが微笑む。
「ユィリのことが、ほんとにすきなんだな」
「ああ」
うなずいたら、トゥヤは不思議そうに首をかしげる。
「それでも伴侶(予定)契約を破棄した?」
「……間違った。……僕は、人形で……父上の屈辱をそそぐことが僕の使命だと……思っていたんだ。
それでユィリを傷つけた。周りの皆も」
「反省した?」
ふかく、うなずく。
「ユィリを、大事にする?」
まっすぐ顔をあげる。
「命を懸けて」
──きみのためなら
どんなことも、成してみせる。
きっと、間違わないほうがいい。
ユィリを傷つけるなんて、絶対だめだった。
でも間違ったからこそ僕は、きみへの愛を、知ったんだ。
「なら、たすける」
いつも鋭い目をほそめたトゥヤが、ふうわり、笑ってくれた。
* * *
「着いたぞ、ゆり。またしばらく揺れる。今度は馬だ」
丸太みたいにかつぐんじゃなくて、おひめさま抱っこして船から降ろしてくれたらしい海の言葉に、目隠しされたままの僕は、しょんぼりだ。
「まだ揺れるんだね……」
「とうぶん揺れる。疲れただろう、寝てていい」
「いや、僕はさらわれてるだけだから、疲れてるのはウミでしょう」
とんと、海の胸をたたいたら、低い声が落ちる
「……ゆりをさらった悪人に、あんまりやさしくするな」
「ウミは、わるい人じゃないでしょう」
僕を抱きしめる腕が、強くなる。
「弟のために、ゆりをさらう、酷い人だ」
声は、馬のいななきに、かき消された。
目隠しされたままの僕の身体が、揺れる。
強い潮の匂いが遠くなり、大地の緑の香りが鼻をかすめる。
あったかい海の腕に抱っこされて、揺すられて、酔い止めの治癒魔法で、ぽかぽかしてる僕は、ゆらゆらされて…………馬って、想像以上にものすごく揺れるんだけど、海の抱っこが、かんぺきだ……!
ゆらゆら……ゆらゆら……ゆらゆら……
…………ぐぅう…………
……寝ちゃったみたい、で、す……!
緊張感の、まるでない僕……!
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