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ちがうのです
しおりを挟む皆で手をふって海くんをお見送りしました!
背中も、かっこいー海くん。
さすが多紀くんの、おにいちゃん!
ぷにぷにの頬で、ぶんぶんしていた僕を、ひょいと抱きあげたのは、セゥスさまです。
「じゃあユィリ、さっそくだけれど、出発しよう。僕の腕のなかで眠っていたらいいからね」
なでなでしてくれるセゥスさまが、僕を抱っこしたまま移動するつもりみたいです?
「……まあ、ほんとに兄貴は、ゆーりを一番、持ってるよな……」
僕、持ちものみたいです?
せめて、だいふく……ちがう、ぬいぐるみがよかった!
「もうロベナ王国に帰るのか!? なにか謝礼をと考えていたんだが……」
きんにくひめが、あわあわしてる!
「はやくない!? 観光しようよ、おいしいお菓子のお店があるんだよ!」
トトラが僕の腕を引っ張ろうとするのを、セゥスさまが、はたき落としてる。
「きゃ──♡」
トトラが、よろこんでるみたいです……?
「すぐ帰ったほうがいい。はやく準備を」
うながしてくれる、おかあさんを止めたのは、アーシェくんだった。
「俺のことは、いちおう噂になってて、セゥスさまが護衛の衛士もつけてくれてて『国で保護する伝説の治癒士』みたいになってるし、皆が顔を知ってくれてるし、あんまり他に見たことない、ぴんくの髪とぴんくの目で目立つし、さらっても、すぐバレちゃうから狙いにくいと思うんだけど、ユィリくんのこと、誰も知らないよね?」
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ちょこっとした、すり傷しか治せないっていうのも、嘲笑うネタみたいになってたから、誰も本気で治癒魔法が使えると思ってないと思う。
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埋没する僕!
こっくりうなずく僕に、アーシェくんの、いつも可愛い瞳が鋭く光った。
「危険だよ。狙われる。ロドア家はお金持ちっていう噂だけど、貴族でも下位貴族でしょう。高位貴族街みたいに衛士がたくさんいて、出入りが厳しく監視されるわけじゃない、自前の衛士もいないでしょう?」
僕の家族みんなの顔が、けわしくなった。
「いくらカイが強い、サザさんが強いって言ったって、ふたりでしょう。10人なら何とかなっても、20人、30人ってなったら?
ちょっとした隙をついて、ユィリくんが、さらわれちゃったら?」
『そんなことはない』誰も、言い切れなかった。
僕は、ほんのさっきまで、さらわれていた。
透夜でさえ、毒の海は越えられない。
その向こうに連れていかれたら、僕はもう、帰ってこられない。
皆に、もう逢えない。
「ロベナ王国のロドア家に戻るのは、危険だと思う。できるなら別の場所を──」
「俺の家に来ればいい」
のーすちゃんが胸を叩いてくれるのに、アーシェは眉をさげた。
「ユィリくんのことを調べたら、すぐにノゥス殿下やセゥスさまに行きあたるだろうね」
ぐ、とふたりが唇をかんだ。
「……どうすれば……」
顔をゆがめる、凛々しいおかあさんに僕はちっちゃな手をあげる。
「はい!」
「どうした、ゆりちゃん。
今、おかあさんは大事な話をしてるんだ。
すこしだけ、いい子で待てるかな?」
心配そうに眉をさげてくれるおかあさんが、僕に激甘です。
じゃなかった! 待って、おかあさん! 僕の発言が
『おなかへった!』とか
『おやつは?』とか
『セゥスさま、抱っこして!』とかだと思ってない!?
「ゆーり、ほら、お菓子」
のーすちゃんが、お菓子を渡してくれる。
「お茶を淹れてあげるからね」
アーシェくんが、お茶を淹れてくれる。
「ごはんは、もうちょっとだけ待ってね」
従僕さんに「すぐにご飯を用意してくれる?」言ってくれたトトラが、申しわけなさそうに眉をさげる。
「はい、ユィリ、抱っこ」
ぎゅう
とろけるように微笑んだセゥスさまが、抱っこしてくれました!
うれしいけれど、ちがうのですー!
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