【完結】きみの騎士

  *  ゆるゆ

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半分こ

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 真っ赤になるルフィスに笑って、大事に懐に仕舞ったお饅頭を取り出した。


「父ちゃんの饅頭。
 売れ残りだけど、持って帰ると叱られるから。あげる」

 ちょっと潰れたお饅頭を差し出したら、受け取ろうとしたルフィスが止まる。


「……きみのお昼ご飯じゃないの?」

「俺は帰ったら食べられるから、いいんだ」

 にこりと笑ったら、ルフィスは目を瞬いた。


「リイ、自分のこと、俺って言うの?
 女の子だよね?」

 ぴょこんと跳びあがる。


「は、初めて逢った人に、初めて女って言われた!」

「え、いや、女の子でしょ。……めちゃくちゃ……きれ、いだし」

 もごもご言う最後の方はよく聞こえなかったけど、熱くなった頬で笑う。


「ありがとー。
 いつも女男とか、気持ちわるいとか、言われるから。
 じゃあ最初っから俺って言っておけばいいかなって思って」

「勿体ない!!」

 目を剥くルフィスに、笑う。


「そんなの言ってくれるの、ルフィスだけだよ」

「……田舎の人の価値観が信じられない……!」

 仰け反るルフィスに、声をたてて笑った。


「ぐぅううう」

 ルフィスのお腹が音を立てる。
 真っ赤になるルフィスに、微笑んだ。


「食べて」

「……じゃあ、半分こ」

 ルフィスがお饅頭を割ると、木の実の餡が顔を覗かせた。
 ちょっと大きくなった方をくれようとするルフィスの手から、ちょっと小さい方を貰って頬張る。

 砂糖が高くて買えないから、森で採ったはちみつと砕いた木の実を混ぜた餡をつくって、麦の粉で包んで蒸したお饅頭は、父の特製だ。

 地元の人にも評判だし、秘湯として有名な療養地なので、やってきた貴族も興が乗ると買ってくれる。

 蜜蜂の世話と、木の実拾い、木の実砕き、麦を挽くのはリイの担当だ。

 不思議そうに饅頭を見つめたルフィスは、お腹の音に急かされるように、そっと口をつけた。

 カリリと白い歯が木の実を砕く。

「…………美味しい」

 呟いたルフィスの瞳から、涙が落ちた。

 目を見開いたリイは、そっとルフィスの背を撫でる。
 ちいさな肩が、震えてる。

「……――っ」

 目を擦って泣き止もうとするのに、ルフィスの瞳から零れる涙は止まらない。


「……つらかったね」

 何にも解らないくせに、と叫ばれるかと思ったけれど、ルフィスはちいさく頷いた。

 嗚咽を堪えるように泣くルフィスのちいさな頭を、そっと撫でる。


「わんわん泣いていいのに」

 首を傾げたら、赤い鼻をルフィスが啜る。


「かっこわるいから、いや」

 拗ねたように尖る唇に、笑う。


「ルフィス、きらきらなのに、かっこいーね」

 蒼碧の瞳が、瞬いた。


「……僕のこと、女の子みたいって言わないの?」

「ルフィス、どう見ても男だよ。
 きらきら!
 今まで見たなかで、一番かっこいー!」

 拍手したら、真っ赤になったルフィスが、もごもごする。


「……は、初めて言われた。
 あ、あの……ありがとう。
 ……リイは……その……今まで見たなかで、一番、き……れ、いだよ」

 最後の方は、もごもごしててよく聞こえないけど。
 はにかんで笑うルフィスは、めちゃくちゃ可愛い。
 見たことないけど、お人形さんってこんな感じかも!


「きゅるるるる」

 ルフィスのお腹が、寂し気に鳴った。
 真っ赤になるルフィスに、首を傾げる。


「家に帰ったら、お饅頭つくれるよ。
 もっと食べる?」

「……リイの家?」

 こくりと頷く。


「……行ってもいいの?」

 こくりと頷く。


「…………行きたい」

 赤い頬で呟くルフィスの手を、握る。


「行こう!」

 こくりと頷くルフィスの亜麻色の髪が、ふわふわ揺れる。


 ふたりで手を繋いで、駆けだした。







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