【完結】きみの騎士

  *  ゆるゆ

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らんくだうん、再び?

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「もう少し顔と名前を憶えて、敬礼が板についてきたら、ひめさま方への挨拶回りだ。
 はげみに頑張れ!」

 ぽふりと頭にのったザインの掌を、リイは恨めしく見あげる。


 どんなに美しいひめに逢えようと、ルフィスに逢えないなら、全然全く励みにならない。
 精霊みたいな花のきみを遠くからでも見られないなんて、楽しみもない。

 呟きそうになったリイは、あわてて口をつぐんだ。
 言ったらだめなことは、ちょこっと解るようになった、かも!

 どちらかというと、ひめさまより、かっこいーお兄さんに逢う方がうれしいな、とか言うと、生温かい目が降り注ぐのは解ってる!

 それにかっこいー人に逢いたければ、周りを見ればいいだけだ。
 光騎士は、レベルが高い。

 武技は勿論のこと、顔面がね!
 イケオジパラダイス!

 ……そう、王宮には、あまり若いのはいない。
 騎士や衛士に若めなのがちらほらいるくらいだ。

 光国議会に出席する当主もしくは当主補佐の青年貴族がいるにはいるが、物凄く目立つくらい少ない。

 若いと経験が少なくて領地や税収を奪われたりするらしいので、それを躱せる優秀な人か、他に人がいなくて仕方なく来る人しかいないらしいよ。
 さすが生き馬の目を抜く光都!

 びみょうなうれしさ、イケオジ王宮だ。

 そんななか、コルタは本人の自覚どおり、輝く美少年だ。

「最初の1年くらいは暗記期間だよ。
 根性でしか乗り切れないけど。
 がんばれ!」

 瑞々しいアイドルさんみたいな笑顔でコルタが応援してくれるけど、書の滝に打たれながら返す笑みは、空ろだ。




 暗記すべき資料をまとめたリイは、足早に噴水の中庭に向かう。
 春の陽が初夏へと移りゆくのに、昼休みのたびに水の苑を覗いてしまう。

 精霊みたいな方だった。
 いい匂いがした。

 ルフィスみたいに、きらきらしてた。

 思い出すと逢いたくなって、つい足が噴水のほうへと向かってしまう。

 セレネの花の香りと鳥の歌、流れ落ちる水の音に包まれたリイは、濃くなりゆく緑の草のうえに布を敷いて座った。

 …………直接草のうえに座ったらね、光騎士の装束は真っ白だからね、

「ちょ……!!
 リイ、お尻が緑なんですけど――――!!」

 コルタに指され、

「うける――――!!」

 通りすがりのキールに爆笑され、

「ぐ……! ごほ……!
 光騎士の威厳を地に落とすな!!」

 吹き出して笑うのを堪えたザインに、噎せながら叱られた。

 周りにいた衛士や騎士たちにもお腹を抱えて笑われた。

「いけすかない顔面騎士だと思ってたけど、親しみが湧いたよ!」

「意外にいい騎士だったんだな、リイ!」

「誰が捜すかと思ってたけど、ルフィスのこと、ちょっと聞いてみてやるよ」

 ぽふぽふ肩や背を叩いてくれた。

 ルフィスのことを聞いてくれるなら、ありがたいよ!
 恥ずかしさで涙目になりながら、こくりと頷く。

「ありがとう。
 ルフィスのこと、よろしくお願いします」

 丁寧に頭をさげる。

「…………ぐ…………!」

 皆が心臓を押さえて蹲って、

「気をつけて!
 気がついた時には落ちてるよ!!」

 コルタの警告に、皆が真っ青になってリイを見た。


「ま、魔性か――――!」

 叫ばれた。


 …………女男→人間じゃない→魔性……化け物ってこと?

 更にランクダウンした!?


 ということがあったのです。

 草のうえに座るには、敷物必須だよ!!
 学習したよ! 


 野山で育ったリイには、椅子や机より地面や草が心地いい。
 前世も勉強が苦手だったみたいだから、余計だろう。

 草のうえに広げた書には、難しい字を簡単に書き直した注釈が真っ黒になるほど書き込んである。
 原本は意味不明だ。

 前世の漢字みたいなシステムの字だったらまだ覚えやすいのに、レイサリアの文字は象形文字+絵文字みたいな感じで、覚えるつもりがないと『ファンタジーだ!』で楽しいけれど、難しい字は暗号にしか見えない。

「……字の勉強をさせてくださいって言うの、情けな……」

 何とかかんとかごまかしてきたけれど、限界だ。
 主についたら書類を読んだりまとめたりも、気が向けばさせてくれるらしい。

 できませんでは困るだろう。
 溜息をついたら、脳髄の芯まで、とろける香りがした。


 レミリアさま!


 息をのんだリイは、あわあわ若草の上に散らばった注釈だらけの書を掻き集める。
 その指の先で、白い靴に気づいた。

 そうっと顔をあげる。


 レミリア王女殿下が腰に手をあて、ふんぞりかえるように立っていた。







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