【完結】きみの騎士

  *  ゆるゆ

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あなたのために

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 自分なら、どうしたろう。

 ……レミリアが……ルフィスが望むなら──……コルタを、キールを斬ったかもしれない。

 腹から血が、流れ落ちてゆく。


 息をつく。

 腹が軋んだ。


 銀の光が、リイの黒髪を舞いあげる。

 リイの光剣には、レミリアから賜りし雷精の力が宿っている。
 いつもリイを支え、リイを守ってくれるレミリアの力だ。

 レミリアに頼るのではなく、友はこの手で。


 リイは剣の柄を握り締める。

 銀の光がおさまってゆく。


 息を吸った。


「ゆくぞ」

「来いやあ!」


 ああ、決勝戦の時みたいだ。

 ずいぶん昔のことの気がした。



 キールの目を見つめたリイは、目を閉じた。

 明く。


 飛び込んだ。

 白銀の光が、一閃する。


 剣花が、闇に散る。


 閃光の剣を、キールは止めた。


 本気の剣を、今まで誰にも止められたことがなかった剣を、止められた。


「すまない、リイ」

 力技は、キールに分がある。
 押し込まれ、足が下がる。

 腹から滴る血で濡れた足元が、滑った。

 腹が、燃える。

 痛みという言葉で足りない衝撃が、頭を突き抜けた。

「──ぐ……っ──」

 キールがどれだけ日々鍛錬しているか、傍で見ていた。
 変形し、皮が幾度も剥けて分厚くなった手を、知っている。

 決勝戦で勝ったと思いあがり、怠けたのはリイのほうかもしれなかった。


 キールは、いつもリイの愚痴を聞いて、励ましてくれたのに。
 ルフィスを捜してくれたのに。

 ロエナのことを、キールの苦悩を、リイが聞いたことは、なかった。


「──……すまない、キール」

 リイの呟きに、脂汗の滲む額でキールは笑った。

「急所を外そうとするから剣が鈍る。
 らしくないぞ、リイ」

「お互い様だ!」

 跳んで離れる。

 疾風のように、打ち込んだ。

 上段から、抜いて左中段から、躱されて、右下段から左上段へと切り上げる。

 光騎士のなかで、リイは最速を誇る。
 そのリイの突きに、キールはついてきた。

 どれだけ鍛錬しているか、どれだけロエナを想っているか、重なる刃から伝わった。

 鋼が火花を散らすたび、リイとキールの目から涙が散った。


 かけがえのない友なのに、真剣で斬りあうなんて。


「あぁあアアァア──っ!」

 歯を、食い縛る。

 血を噴く腹を、身を裂く痛みを殺し、リイは剣を振りかざす。


 キールが、ロエナのために闘うように。


 俺は、あなたのために、闘う。


「──……レミリアさま」


 刃が、光になる。


 肉を裂く手応えが、これほど痛かったことは、なかった。


「…………リイ……」

 かすかに笑ったキールが、くずおれる。


「キール──っ!」

 リイの悲鳴に、刺客を焼き尽くし駆けてきたレミリアが、リイとキールに銀に輝く手をかざしてくれた。


「…………レミリアさま」


「さすが、私の騎士です。
 ……って言いたいから。
 私の騎士の位は、リイのために空けておきます」

 涙に濡れた星の瞳で、笑ってくれた。






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