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あなたのために
しおりを挟む自分なら、どうしたろう。
……レミリアが……ルフィスが望むなら──……コルタを、キールを斬ったかもしれない。
腹から血が、流れ落ちてゆく。
息をつく。
腹が軋んだ。
銀の光が、リイの黒髪を舞いあげる。
リイの光剣には、レミリアから賜りし雷精の力が宿っている。
いつもリイを支え、リイを守ってくれるレミリアの力だ。
レミリアに頼るのではなく、友はこの手で。
リイは剣の柄を握り締める。
銀の光がおさまってゆく。
息を吸った。
「ゆくぞ」
「来いやあ!」
ああ、決勝戦の時みたいだ。
ずいぶん昔のことの気がした。
キールの目を見つめたリイは、目を閉じた。
明く。
飛び込んだ。
白銀の光が、一閃する。
剣花が、闇に散る。
閃光の剣を、キールは止めた。
本気の剣を、今まで誰にも止められたことがなかった剣を、止められた。
「すまない、リイ」
力技は、キールに分がある。
押し込まれ、足が下がる。
腹から滴る血で濡れた足元が、滑った。
腹が、燃える。
痛みという言葉で足りない衝撃が、頭を突き抜けた。
「──ぐ……っ──」
キールがどれだけ日々鍛錬しているか、傍で見ていた。
変形し、皮が幾度も剥けて分厚くなった手を、知っている。
決勝戦で勝ったと思いあがり、怠けたのはリイのほうかもしれなかった。
キールは、いつもリイの愚痴を聞いて、励ましてくれたのに。
ルフィスを捜してくれたのに。
ロエナのことを、キールの苦悩を、リイが聞いたことは、なかった。
「──……すまない、キール」
リイの呟きに、脂汗の滲む額でキールは笑った。
「急所を外そうとするから剣が鈍る。
らしくないぞ、リイ」
「お互い様だ!」
跳んで離れる。
疾風のように、打ち込んだ。
上段から、抜いて左中段から、躱されて、右下段から左上段へと切り上げる。
光騎士のなかで、リイは最速を誇る。
そのリイの突きに、キールはついてきた。
どれだけ鍛錬しているか、どれだけロエナを想っているか、重なる刃から伝わった。
鋼が火花を散らすたび、リイとキールの目から涙が散った。
かけがえのない友なのに、真剣で斬りあうなんて。
「あぁあアアァア──っ!」
歯を、食い縛る。
血を噴く腹を、身を裂く痛みを殺し、リイは剣を振りかざす。
キールが、ロエナのために闘うように。
俺は、あなたのために、闘う。
「──……レミリアさま」
刃が、光になる。
肉を裂く手応えが、これほど痛かったことは、なかった。
「…………リイ……」
かすかに笑ったキールが、くずおれる。
「キール──っ!」
リイの悲鳴に、刺客を焼き尽くし駆けてきたレミリアが、リイとキールに銀に輝く手をかざしてくれた。
「…………レミリアさま」
「さすが、私の騎士です。
……って言いたいから。
私の騎士の位は、リイのために空けておきます」
涙に濡れた星の瞳で、笑ってくれた。
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