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きみの傍
緑の庭
しおりを挟む緑ゆたかな春を待つラトゥナの宮殿の庭は、花の蕾でいっぱいだ。
ダルムの菓子を手土産に見舞いに行ったリイは、すぐに謁見を許された。
庭先に出された白い椅子に腰かけるラトゥナとロエナ、庭で走り回るセリスを見守るように、キールが控えている。
ああ、もう包帯は取れたみたいだ。
よかった。
リイが声を掛けるより早く、歓声があがる。
「おかあさん、見てください、りすですよ!」
王子の衣をまとうセリスが笑って、ラトゥナはとろけるように笑う。
「転ばないように気をつけてね」
ちいさな手足が、緑の庭を駆けてゆく。
淡い水色の瞳が、陽の光に輝いた。
セリスのちいさな背を見つめ、キールが微笑む。
「お傍におつきしましょう」
「休んでいなさい。重傷だったのですから」
ラトゥナが弓の眉をひそめ、駆け戻ってきたセリスが笑った。
「遠くに行ったりしないよ。きんしん、でしょ?」
きらめく水色の瞳に、キールは目を伏せる。
セリスは月光石のレイサリア王宮を見あげた。
「ふしぎ。
レイティアルト兄ちゃんが、ほんとに僕のお兄ちゃんで、花のきみがお姉ちゃんで…………おかあさんとおとうさんが、生きてる」
ゆれる水の瞳を、母の腕が抱きしめた。
みなしごだと言い聞かされていたセリスは、女の子が欲しかった里親の趣味で女の装いをさせられていると思っていたらしい。
突然できた家族と月光石のお家に口を開けたが、持ち前の明るさで、日々を元気に過ごしているようだ。
男に戻ったセリスは、萌え出づる若葉にきらめく水珠のようだ。
抱きしめあう母子に、ロエナは眉をしかめた。
「花のきみは、お兄ちゃんよ」
目を瞬いたセリスが、笑う。
「僕と一緒だ!」
「それにどうして私が入っていないの!」
突然できた弟に、ロエナは夢中らしい。
赤い頬でふくれるロエナに、水色の瞳が悪戯っぽく回って、ちいさな手がロエナの手をにぎる。
「ごめんなさい、ロエナお姉ちゃん」
ロエナの腕がセリスをぎゅむぎゅむして、キールはセリスの髪をなでる。
「リイを助けてくれて、ありがとう」
首を振ったセリスは、赤い頬で笑った。
「リイ兄ちゃん、光騎士なんだって。
月華のきみって言うんだよ。
レイティアルト兄ちゃんを守ってるんだ。
僕も、あんなになりたいな!」
目を輝かせるセリスに、ロエナの頬がほのかに朱くなる。
いつ出ようと、おろおろしていたリイは、更に出れなくなった。
「リイさまは、お姉さまよ」
ロエナの言葉に、首をかしげたセリスが笑う。
「僕と反対だね!」
ラトゥナが微笑んで、たおやかな指がセリスの髪をなでる。
「お茶にしましょう。
キール、お願い」
敬礼したキールは、ロエナのために選んだのだろうお茶に、侍従が持ってきてくれた湯を注ぐ。
山吹色の水色が白磁の茶器を染め、春をくゆらせる香りが満ちてゆく。
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