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はじめてごはん
しおりを挟むお粥もスープも、ぐつぐつぐつぐつしてる。
焦げないように透夜は水を手から継ぎ足しつつ、くつくつを見守った。
透夜とでっかいお鍋を見守る皆が、ちょっと遠巻きで、期待と不安のないまぜになった顔をしてる。
でも、いい匂いするよ!
ちょこっと食べてみた透夜は、ようやく『おーん?』じゃなく拳を掲げた。
固くない!
噛んだ時『うーん?』ってならない! よし、いける!
「精霊さん、どうよ! 毒もないし、だいじょぶだよな?」
『だいじょぶー!』
すぐ答えてくれる、ありがとう!
「よし、やーらかくなった、毒もない! 喰ってみよう!」
お皿とお匙は鍋と一緒に皆でこのみのを買ったから大丈夫だ。
皆が自分のお気に入りのお皿を持って、一列に並んでくれる。
番号順じゃない。
それだけで、涙が滲んでしまうほど、うれしい。
「よし、皆に注いでくからな。スープとお粥、熱いから気をつけて」
「う、うん!」
いい匂いのする、湯気のたつ料理に、皆の顔から不安が消えてゆく。
「わあ!」
歓声と一緒に、食器と一緒に買った、皆が並んで座れる大きな食卓に着いてゆく。
お匙を持つ、皆の瞳が、きらきらだ。
「召しあがれ!」
スパダリっぽく言ってみた!
おそるおそる皆が匙をスープに入れる。
もぐもぐしたロロァのちいさな顔が、輝いた。
「おいしー! とーや、すごい!」
真っ赤な頬で笑ってくれる。天使だ。
「うめー!」
「食えるよ、トゥヤ!」
仲間の皆も笑ってくれる。
『あったかいご飯』を孤児の皆は、食べたことがなかった。
黴の生えたパンに水、たまに牛乳やチーズ、干し肉が配られるくらいだ。極々稀にもらえる果物はごちそうだった。
ロロァも似たような食事だったのだろう。
皆の弱った胃には、よく煮えた野菜スープとお粥は、ちょうどよかったのかもしれない。
「……おいしー……」
皆の目に、涙が浮かぶ。
見つめたユィルは、噛み締めるようにもぐもぐした。
「野菜と、お肉の味がする」
まるで初めて野菜とお肉を食べたように、不思議そうに瞬いた。
たぶん、こってりソースまみれで、素材本来の味がよく解らないままだったのだろう。
「食べられる?」
ほんのり赤くなったユィルが頷く。
「おいしー。ありがとう、トゥヤ」
宮廷の料理とは比べ物にならないだろうに、笑ってくれた。
ちょっと真面目に料理を勉強しよう。
決意した透夜は、寝台と布団と食卓と鍋とお皿とお匙を完備し、雨漏り対策もした小屋に胸を張る。
「皆で住みやすい家にしよーな!」
「おー!」
拳を掲げて笑ってくれる仲間たちが、天使だ。
「前金を貰ってしまったから、仕事はちゃんとしよう。まずは帝宮の見取り図と偵察だな。事前に警備と、誰が来るのかを把握しておきたい。俺と紅蓮、常葉で行こう」
「了解」
「えー、俺は!?」
ぷくりと膨れる空に笑う。
「声がデカイ」
「あぁうぅうー」
「話せるようになって、ほんとによかった」
空色の髪をなでなでして笑う。
赤くなった空が、ちっちゃな鼻を擦った。
感情を得て、言葉を得た皆は、無個性だった暗殺人形時代が嘘のように、ひとりひとり性格も得意なことも違って、話し方も違う。
当たり前のことが、ものすごく新鮮だ。
いつも無表情だった皆に、性格が生まれてく。
その瞬間に立ち会えたことが、皆が、ほんとうに生きてくれることが、ものすごく、うれしい。
スパダリっぽくないけど
「……泣きそうになっちゃうよ」
ぐすぐす鼻を啜ったら
「いーこいーこ」
ロロァが頭を撫でてくれる。
天使だ。
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