黒の聖女、白の聖女に復讐したい

夜桜

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◆婚約破棄

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「――分かったか、エイト。俺はもうお前の妹のノインと関係を持ってる! 婚約破棄だ!!」

「言ってしまいましたね、伯爵」
「それがなんだ。もうエイト、お前に用はない。白の聖女だか、なんだか知らんが……ぬッ!? ぐ……」

 伯爵は首を押さえ、突然苦しみだした。

 呪いが発動したんだ。

 黒の聖女であるわたしには特殊な能力があった。

 言霊ことだまとか呪詛じゅその類だ。

 言葉で相手を絶望に叩き落とすという強力な魔法。その力は大魔法にすら匹敵すると呼ばれている。

 今回の場合『婚約破棄』がそのキーワードになっていた。他にもあるけど。


「伯爵、この世界には言ってはならない言葉があるのですよ」
「キ、キサマ……なにを、した」

 苦しみ悶える伯爵は、充血した目でわたしを追う。

「よりによって白の聖女である妹に浮気するだなんて……最低のゴミクズですね」
「や、やめろ! 俺を殺す気か!!」

「いいえ、わたしが殺すのではないのです。あなたが自ら命を絶つだけの話。わたしは何もしておりません」

「ふ……ふざけるな!! エイト、お前の力がこうさせているのだろう……グッ! 魔法を解け!」

「わたしを捨てるということは、己の命を捨てると同義。わたしは言ったはずですよ、一生を共にすると」

「…………く、くそぉ」


 バタッと床に倒れて意識を失う伯爵。
 憐れで最低な男。

 少なくとも、わたしは彼を愛していたのに。
 彼の愛は醒めていた。
 色褪せてしまって、枯れてさえいた。

 とても残念。

 でもいい、彼は言ってはならない言葉で罪を償った。


 ◆


 妹のノインがいるという別の屋敷・・・・へ向かった。


 ここは侯爵家。
 アインスという貴族が構えているお屋敷だ。

 中へ踏み入れ、広間へ入ると……


 そこにはノインとアインスが抱き合っていた。


 そう、やっぱりね。


「……ノイン、あなた……伯爵すら眼中になかったのね」
「お、お姉様!? どうして!」

「いえ、伯爵はキープあるいはストック対象だったってわけか」

 慌てて離れるノインは、ズカズカと乱暴にこちらへ。

「ちょっと、お姉様! 無断で入ってきてなんて言い草よ!! あたしとアインスは本気よ。浮気なんてこれっぽっちも」

「嘘をおっしゃい。わたしから伯爵を奪い、貴女は別の男と幸せになろうとしていた。そういうことでしょう」

 この光景が物語っていた。
 もう妹に言い逃れはできない。

「なによ、いつもお姉様ばかりいい男が寄ってきて……ズルいじゃない。所詮、黒の聖女のくせに! この穢れた聖女が!!」

「……また言ってはならないことを。死ぬわよ」

「はあ? なに言ってるの。お姉様には魔法らしい魔法なんてないじゃない。今まで見せたことあった? 白の聖女であるあたしは違うわ。この通り、炎とか氷を生み出せるの」

 ――しかし、その瞬間は訪れた。

 余裕の表情を見せていたノインは、悲痛を浮かべ胸を押さえた。


「どうした、ノイン」
「く、くるしい……なぜか胸が苦しいの」

「でしょうね」
「!? お、お姉様……なにをしたの!!」

「……“穢れた聖女”それは禁句だった。それも最大のね」

「まって……まってよ、お姉様!! あたしを殺す気!? ていうか、なんの魔法よ!!」

 わたしは妹にすら自分の力を黙っていた。
 この言霊の力は、発動してしまえば恐ろしすぎるからだ。

 相手は禁止ワードをつぶやくだけで――死ぬ。


「さようなら、ノイン」
「そ、そんな………うぅ」

 バタッと倒れるノイン。
 辛そうに表情を浮かべ、ずっと苦しみに耐えていた。

 ……わたしから幸せを奪うから、そうなる。

 妹を見下していると、アインスがやって来た。


「やったのか、エイト」


 口元を押さえ、苦しむノインを憐れむアインス。
 わたしと彼は幼馴染だった。

 もともとアインスが好きだったけど、伯爵を紹介してくれた。わたしは直ぐに伯爵に恋して婚約した。でも、妹との関係が赤裸々になっていくにつれ、心が穏やかではなくなっていた。

 だから、一ヶ月ほどアインスに相談に乗って貰っていた。

 結果、アインスにも協力してもらい、妹を懲らしめることになった。


「いいえ、まだです。彼女には苦しんで死んでもらいます」
「そうか。これでようやくか。僕はずっとノインからストーカーされていた。僕はノインと恋人になんてなりたくなかったのに……けど、エイトを守る為と思って耐えてきた」

 そう、アインスも被害者だった。
 ノインからずっと付き纏われ、包丁で脅されたこともあったとか。

 二人の関係は、ノインが一方的に作り上げた偽りのもの。

 アインスは、ずっと苦しんでいたみたい。
 だから今回のノインへの復讐は、わたしとアインスの意見が一致した上でだった。


「はい、アインス様。これでもうノインは……」


 気づけばノインは眠るように息を引き取っていた。


「……あとは僕に任せてくれ」
「分かりました」

「それと……エイト。よかったら僕と一緒にならないか」
「アインス様。よろしいのですか? わたしは……その」
「言わなくていい。その言葉は命を絶ってしまう」

「わたしなんかを愛してくれるのですか」
「僕はずっと独身を貫こうと思っていたんだけど、気が変わった。エイト、君が好きになってしまっていたよ」

「まあ、嬉しい。わたしもアインス様となら……」


 手を優しく握ってくれるアインス。

 言葉はもういらない。

 唇と唇を重ね合わせ、思いだけ交わし合った。
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