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第13話 真実を掲げて
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帝都中央、灰白色の大理石で構成された円形議事堂――元老院。
わたしは、まっすぐにその中枢へ足を運んでいた。
帝国でもっとも厳格で、もっとも冷ややかな目が集う場所。
そして今日、わたしは“被告”としてその場に立つ。
不正資金、不適切な関係、大提督の権力を利用した私的介入。
ありもしない罪を並べ立てられた、恥辱の舞台。
だけど、逃げない。
わたしの胸に宿るものは、恐怖ではなかった。
信じてくれる人が一人でもいるなら、わたしは誇りを捨てない。
「――それでは、尋問を開始する」
司会を務める老齢の議員が静かに宣言した。
議場の半円形の席には、重鎮たちがずらりと並んでいる。
中央の演壇に立つわたしは、まさにその視線を一身に浴びていた。
「まず第一に。クレメンタイン令嬢、あなたが“大提督の愛人”として、軍から多額の資金を動かしたという記録がある」
ザガート・ターン議員の冷笑を含んだ声が響いた。
「こちらの帳簿記録には、あなたの名で出資されたと見られる書簡も残っている。これについて、どう説明されますか?」
「そのような出資記録は、わたしの名義では存在しません。
仮に存在するのであれば、正式な捜査機関が調べたはず。
ですが、貴族監査局は一切動いていません」
議場がざわり、と揺れた。
「つまり、それが事実であるならば、なぜ然るべき機関が動かなかったのでしょうか?
……“根拠が不十分だから”ではありませんか?」
わたしの言葉に、数名の若い議員たちがうなずく姿が見えた。
ザガートは口元をひくつかせながらも、次の手を放つ。
「ではこちらを。あなたのかつての侍女、ルイスが証言のために参りました」
彼の手振りに応じて、薄く化粧を施した若い女性が演壇の脇に現れた。
「わたしは……ノア令嬢が自ら、大提督に身体を預け、軍の力を手に入れていた現場を見ました。
彼女は大提督の寵愛を利用し、いくつもの貴族に圧力をかけていました……」
嘘。
明らかな嘘。
でも、その声はやけに滑らかで、用意されていたかのようだった。
議場がざわつく。
それまで信じてくれていた視線が、一部、疑念の色を帯びた。
わたしの口が、乾いた。
まさか、ここまで仕組んでくるなんて。
頭が熱くなる。視界がにじみそうになる――その瞬間。
「その証言は虚偽だ。黙って聞いていれば、いい加減にしろ」
雷のような低い声が、議場の空気を断ち切った。
扉が開かれ、レックスが現れた。
漆黒の軍服に銀の勲章、そして燃えるような視線。
「その女は、三日前にザガート派の議員と接触している。
こちらが調べた帳簿には、“報酬”として金貨二百枚が記されていた」
わたしは、息を呑んだ。
事実が――一気に反転した。
「さらに、出資記録も偽造。
情報部が入手した“原本”と照合済みだ。貴族監査局へも報告が上がっている」
レックスの言葉に、元老院は完全に沈黙した。
やがて、審議官の一人が立ち上がり、こう宣言した。
「これらの証拠を受け、ノア・クレメンタイン令嬢に対する尋問は中止。
名誉を毀損されたとして、逆に告発を受ける立場にあるのはザガート派である」
その瞬間――わたしの胸にあった重石が、すっと消えた。
議事堂の出口に立ったとき、背後から何人もの視線を感じた。
ざわつきの中で、誰かがぽつりと呟くのが聞こえた。
「……あの令嬢、あれだけの場で一歩も引かなかった……」
「大提督だけでなく、自分の足で立ってるんだな……」
わたしは振り返ることなく、まっすぐに前を向いた。
あの人の隣に、ふさわしい存在になるために。
わたしは、わたしを信じてくれた人のために――信じ続ける。
わたしは、まっすぐにその中枢へ足を運んでいた。
帝国でもっとも厳格で、もっとも冷ややかな目が集う場所。
そして今日、わたしは“被告”としてその場に立つ。
不正資金、不適切な関係、大提督の権力を利用した私的介入。
ありもしない罪を並べ立てられた、恥辱の舞台。
だけど、逃げない。
わたしの胸に宿るものは、恐怖ではなかった。
信じてくれる人が一人でもいるなら、わたしは誇りを捨てない。
「――それでは、尋問を開始する」
司会を務める老齢の議員が静かに宣言した。
議場の半円形の席には、重鎮たちがずらりと並んでいる。
中央の演壇に立つわたしは、まさにその視線を一身に浴びていた。
「まず第一に。クレメンタイン令嬢、あなたが“大提督の愛人”として、軍から多額の資金を動かしたという記録がある」
ザガート・ターン議員の冷笑を含んだ声が響いた。
「こちらの帳簿記録には、あなたの名で出資されたと見られる書簡も残っている。これについて、どう説明されますか?」
「そのような出資記録は、わたしの名義では存在しません。
仮に存在するのであれば、正式な捜査機関が調べたはず。
ですが、貴族監査局は一切動いていません」
議場がざわり、と揺れた。
「つまり、それが事実であるならば、なぜ然るべき機関が動かなかったのでしょうか?
……“根拠が不十分だから”ではありませんか?」
わたしの言葉に、数名の若い議員たちがうなずく姿が見えた。
ザガートは口元をひくつかせながらも、次の手を放つ。
「ではこちらを。あなたのかつての侍女、ルイスが証言のために参りました」
彼の手振りに応じて、薄く化粧を施した若い女性が演壇の脇に現れた。
「わたしは……ノア令嬢が自ら、大提督に身体を預け、軍の力を手に入れていた現場を見ました。
彼女は大提督の寵愛を利用し、いくつもの貴族に圧力をかけていました……」
嘘。
明らかな嘘。
でも、その声はやけに滑らかで、用意されていたかのようだった。
議場がざわつく。
それまで信じてくれていた視線が、一部、疑念の色を帯びた。
わたしの口が、乾いた。
まさか、ここまで仕組んでくるなんて。
頭が熱くなる。視界がにじみそうになる――その瞬間。
「その証言は虚偽だ。黙って聞いていれば、いい加減にしろ」
雷のような低い声が、議場の空気を断ち切った。
扉が開かれ、レックスが現れた。
漆黒の軍服に銀の勲章、そして燃えるような視線。
「その女は、三日前にザガート派の議員と接触している。
こちらが調べた帳簿には、“報酬”として金貨二百枚が記されていた」
わたしは、息を呑んだ。
事実が――一気に反転した。
「さらに、出資記録も偽造。
情報部が入手した“原本”と照合済みだ。貴族監査局へも報告が上がっている」
レックスの言葉に、元老院は完全に沈黙した。
やがて、審議官の一人が立ち上がり、こう宣言した。
「これらの証拠を受け、ノア・クレメンタイン令嬢に対する尋問は中止。
名誉を毀損されたとして、逆に告発を受ける立場にあるのはザガート派である」
その瞬間――わたしの胸にあった重石が、すっと消えた。
議事堂の出口に立ったとき、背後から何人もの視線を感じた。
ざわつきの中で、誰かがぽつりと呟くのが聞こえた。
「……あの令嬢、あれだけの場で一歩も引かなかった……」
「大提督だけでなく、自分の足で立ってるんだな……」
わたしは振り返ることなく、まっすぐに前を向いた。
あの人の隣に、ふさわしい存在になるために。
わたしは、わたしを信じてくれた人のために――信じ続ける。
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