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第16話 偽りの密告
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その噂は、まるで悪意の毒霧のように広がっていた。
「クレメンタイン辺境伯令嬢が、ザガート議員と繋がっていたですって?」
「レックス大提督を籠絡するための策だったとか……」
「婚約破棄も、最初から仕組まれていたとしたら――こわいわね」
まるでわたしが、悪の女帝であるかのような噂話。どれもこれも、根も葉もない作り話。だけど、わたしの周囲の空気は確実に変わっていった。
街のカフェで視線を浴びる。すれ違いざまに陰口を囁かれる。……わたしは、帝都で孤立し始めていた。
そんな中でも、わたしは逃げなかった。逃げたくなかった。あの人に、誇れる自分でありたかったから。
「ノア、お前……今日の茶会、本当に出席するのか?」
屋敷の一角、レックスは珍しく眉をひそめていた。
「ええ。逃げるわけにはいきませんから」
「だが、相手はマルグレ侯爵家のリネッタ令嬢……。確か、帝都社交界でも屈指の毒舌家だったはずだ」
少しだけ不安そうな彼の声に、わたしは笑った。
「わたし、今までいろんな言葉に傷ついてきました。でも、それを越えてきました。――あなたが、信じてくれているから」
レックスの目が、静かに揺れた。彼は、まるで何かを飲み込むようにわたしを見つめ、最後にそっと頷いた。
「……なら、帰ったら報告しろ。お前の声で、聞きたい」
茶会の会場は、美しい庭園付きのサロン。完璧な装飾、完璧な令嬢たち――そして、完璧な悪意。
「まあまあ、噂のご令嬢じゃなくて?」
リネッタ・マルグレ。柔らかな笑顔の奥に、冷たい毒が光っていた。
「ザガート議員と親密だったって、本当なのかしら? あら、否定しても証拠がないと苦しいわよね?」
その言葉に、他の令嬢たちが小さく笑った。まるで狩られる小鹿を見るような目。
「……」
でも、わたしは目を逸らさなかった。
「リネッタ様。事実無根の噂で人を貶めることが、あなたの誇りなのでしょうか?」
会場の空気がぴり、と張り詰める。
「“悪意を笑いに変える令嬢”……その座、どうぞお譲りしませんわ」
一瞬、リネッタの顔が引きつる。そして、誰かがくすりと笑った。
その瞬間、空気は変わった。
その夜。屋敷に戻ると、レックスが待っていた。
「……見事だったな」
「見てたんですか?」
「いや。だが、報告はいらんなと思ってな」
そう言って、彼は一枚の紙をわたしに差し出した。
「これが噂の出所だ。帝都新聞の下請け記者、サリオ・カーン。ザガートの資金援助を受けていた」
わたしは目を見開いた。
「記者会見を開く。今度は、公式の場で、君の名誉を取り戻す」
次の日。帝国軍本部で異例の記者会見が開かれた。
「――私は、ノア・クレメンタイン令嬢を、心から信頼している」
レックスのその言葉が、帝都中を駆け巡った。
「彼女の働きがなければ、我々は補給路を守れなかった。これは軍の公式見解であり、私個人の誇りだ」
ざわつく記者たちの中で、わたしは静かに立っていた。
恥じることなんて、なにもない。
だって、わたしは――
「……あなたに、信じてもらえているから」
小さく呟いたその声は、誰の耳にも届かないはずだった。
だけど、レックスは微笑んだ。
「ちゃんと、聞こえてる」
わたしの胸は、誇りと――淡い恋心でいっぱいだった。
「クレメンタイン辺境伯令嬢が、ザガート議員と繋がっていたですって?」
「レックス大提督を籠絡するための策だったとか……」
「婚約破棄も、最初から仕組まれていたとしたら――こわいわね」
まるでわたしが、悪の女帝であるかのような噂話。どれもこれも、根も葉もない作り話。だけど、わたしの周囲の空気は確実に変わっていった。
街のカフェで視線を浴びる。すれ違いざまに陰口を囁かれる。……わたしは、帝都で孤立し始めていた。
そんな中でも、わたしは逃げなかった。逃げたくなかった。あの人に、誇れる自分でありたかったから。
「ノア、お前……今日の茶会、本当に出席するのか?」
屋敷の一角、レックスは珍しく眉をひそめていた。
「ええ。逃げるわけにはいきませんから」
「だが、相手はマルグレ侯爵家のリネッタ令嬢……。確か、帝都社交界でも屈指の毒舌家だったはずだ」
少しだけ不安そうな彼の声に、わたしは笑った。
「わたし、今までいろんな言葉に傷ついてきました。でも、それを越えてきました。――あなたが、信じてくれているから」
レックスの目が、静かに揺れた。彼は、まるで何かを飲み込むようにわたしを見つめ、最後にそっと頷いた。
「……なら、帰ったら報告しろ。お前の声で、聞きたい」
茶会の会場は、美しい庭園付きのサロン。完璧な装飾、完璧な令嬢たち――そして、完璧な悪意。
「まあまあ、噂のご令嬢じゃなくて?」
リネッタ・マルグレ。柔らかな笑顔の奥に、冷たい毒が光っていた。
「ザガート議員と親密だったって、本当なのかしら? あら、否定しても証拠がないと苦しいわよね?」
その言葉に、他の令嬢たちが小さく笑った。まるで狩られる小鹿を見るような目。
「……」
でも、わたしは目を逸らさなかった。
「リネッタ様。事実無根の噂で人を貶めることが、あなたの誇りなのでしょうか?」
会場の空気がぴり、と張り詰める。
「“悪意を笑いに変える令嬢”……その座、どうぞお譲りしませんわ」
一瞬、リネッタの顔が引きつる。そして、誰かがくすりと笑った。
その瞬間、空気は変わった。
その夜。屋敷に戻ると、レックスが待っていた。
「……見事だったな」
「見てたんですか?」
「いや。だが、報告はいらんなと思ってな」
そう言って、彼は一枚の紙をわたしに差し出した。
「これが噂の出所だ。帝都新聞の下請け記者、サリオ・カーン。ザガートの資金援助を受けていた」
わたしは目を見開いた。
「記者会見を開く。今度は、公式の場で、君の名誉を取り戻す」
次の日。帝国軍本部で異例の記者会見が開かれた。
「――私は、ノア・クレメンタイン令嬢を、心から信頼している」
レックスのその言葉が、帝都中を駆け巡った。
「彼女の働きがなければ、我々は補給路を守れなかった。これは軍の公式見解であり、私個人の誇りだ」
ざわつく記者たちの中で、わたしは静かに立っていた。
恥じることなんて、なにもない。
だって、わたしは――
「……あなたに、信じてもらえているから」
小さく呟いたその声は、誰の耳にも届かないはずだった。
だけど、レックスは微笑んだ。
「ちゃんと、聞こえてる」
わたしの胸は、誇りと――淡い恋心でいっぱいだった。
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