氷のように冷たい王子が、私だけに溶けるとき

夜桜

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永遠を君と

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 あれから、どれほどの時が過ぎただろう。

 村の畑には緑が芽吹き、小屋の数も少しずつ増えていった。
 子どもたちの笑い声が風に乗って聞こえ、村の人々の表情には、かつてなかった安らぎが宿っている。

 辺境という名にふさわしくなかった。
 ここにはもう、“命を落とすような過酷さ”ではなく、“命を育む豊かさ”があった。

 その中心にいたのは――ケラウノスだった。


 彼は、わたしの力を信じ、わたしの存在を認めてくれた。
 そして今日、彼は新たな決断を口にした。


「独立しよう。この地を“国”としよう」


 食卓に並んだ朝のパンとスープを前に、静かに、けれど強く彼は言った。


「アズール王国にも、オルジア帝国にも頼らない、自分たちの手で築く国を」


 その言葉に、わたしは一瞬だけ、迷いのような影を心に落とした。
 だって、それはあまりにも大きな夢だったから。
 でも、彼はまっすぐにわたしを見つめてくれた。


「君の力があればできる。いや、君とじゃないと、意味がない」

 そう言ってくれたその瞬間、わたしの中にあった迷いはすうっと消えていった。


「……はい。どこへでも、ついていきます。ケラウノスとなら」


 それが、わたしの答えだった。

 村人たちも賛同してくれた。
 騎士を志す若者たちが集まり、治療を学ぶ女たちが集い、小さな村は少しずつ“国家”としての形を帯び始めた。

 そして、春の柔らかな風が吹くある日。
 わたしたちは、丘の上に立っていた。

 村を見下ろす一面の花畑。
 新たに建てられた礼拝堂の前。

 そこで、わたしとケラウノスは、永遠の誓いを交わした。


 彼は紺のタキシードに身を包み、わたしは白いドレスを纏っていた。
 風にベールが揺れ、陽光が花々を照らす。


「ネリネ。君を、永遠に愛すると誓う」


 彼の瞳は、どこまでも澄んでいた。
 この世界で、わたしがもっとも信じられる光だった。


「わたしも、あなたを永遠に愛します」


 声が震えていた。
 でも、それは恐れではなかった。
 嬉しくて、誇らしくて、幸せで……涙が止まらなかった。

 拍手が上がり、花びらが舞った。

 そして彼は、そっとわたしの腰を引き寄せ、静かに唇を重ねた。


 世界が、柔らかく光に包まれたようだった。


 涙も、痛みも、孤独も、すべてが遠く溶けていった。


 ここから、ふたりの国が始まる。
 ふたりで築く、愛と祈りの国が――。


 [完]
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