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獲物は狩人の毒牙にかかり、死んでゆく2
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ノースミンスター寺院
朝ごはんを食べ終わった俺たちが馬車に乗って向かったのは、アニエスさんの夫でありアリスとカロルの父にあたるケルツさんが埋葬されているノースミンスター寺院。ちなみにシエスタさんが馬車を運転した。
「……お父様」
「パパ……」
ケルツさんのものと思しき墓に花を手向けるアリスとカロル。二人の表情を見ると、ケルツさんが自分の娘たちをどれほど愛していたのかがよくわかる。涙こそ流してないが、在りし日に思いを馳せているアリスとカロルからは俺が踏み込めないオーラが漂っているように見える。
「きっと、夫が生きていたら、ハルトくんと仲良くなれたと思うわ……」
アニエスさんが色っぽい声で俺の耳に囁く。
「きっとそうですわ。ハルトお兄様と一緒にいたら、私たちを愛してくれたパパと同じ匂いを感じますの」
「そうね。だから私たちがハルトをもっと好きになったと思うわ。血が繋がってない異性をこんなに好きになったことは初めてだから……」
「みんな……」
三人の美人母娘は俺が感じている壁を簡単に壊して手を差し伸べてくれる。
生まれ育った環境も違って価値観も違う俺たち。だけど、俺の心は満たされている。だから、
俺の気持ちをちゃんと三人に伝えよう。
「俺は両親を亡くしていら、ずっとドス黒い気持ちを抱えて生きていました」
俺が話し始めると、3美女は俺に向き直って耳をそばだてる。
「この気持ちが一体なんなのか、俺は頭を必死に振り絞って探していました。けど、探せば探すほど俺の心が締め付けられるように苦しくなって」
「「……」」
「だけど、アニエス様とアリスとカロルに出会ってからは、全てが変わりました。俺を優しく包み込んでくれたアニエス様と妹みたいに甘える可愛いカロル、そして俺をいつも助けてくれるアリスまで……もうこのドス黒い感情を感じることはありません。今は全てが抉り取られたように心が空っぽで……だから俺は感謝の気持ちを伝えたいです。アニエス様に、アリスに、カロルに……そして三人に愛を注いでくれたケルツさんにも!」
潤んだ目を誤魔化すように俺は笑顔を作る。
すると、
「ハルトくんが抱えてきたドス黒い感情はおそらく寂しさだと思うわ」
「寂しさ……」
「そうですわ!お兄様は私たちと同じく悲しい過去を背負っていますから、私、わかる気がしますの!」
「ええ、それはきっと寂しさよ」
「そうか……」
俺は、日本にいる間、ずっと寂しさを感じていたというのか。それが寂しさとわからずに黙々と生きていたというのか。
長年、俺を悩ませた謎の答えを教えてくれたアニエスさんたち。もう俺たちの間に壁など存在しない。
そう安堵のため息をついて、俺とアニエスさんは花を手向けた。
ケルツさん
俺、この三人を守り抜いて見せます。
そう心の中で誓うと、
三人はまた俺にねちこい視線を送ってくる。
アニエスさんが話し始めた。
「ハルトくん」
「は、はい」
「実は私たちもずっとドス黒い感情を抱えていたわ」
「そ、そうですか?」
「そう。でも、ハルトくんとは違って、だんだん大きくなっていくのよね」
「それは大変だ……」
「ううん。大変じゃないわ。だって、このドス黒い感情を、空っぽになったハルトくんの心に全部注ぎこむから」
「っ!」
色っぽく粘っこい声音でアニエスさんが言うと、カロルがバトンを継ぐ。
「ハルトお兄様は……私、もっと甘えたいんですの……とろけるほどに……」
「か、カロル!?」
ルビーのような瞳で俺を捉えるカロルは、目が死んでいる。
「ハルト……私たちはまだ婚約したばかりよ。だから、溺れるほどの重い愛を晴翔にずっと向けるから……」
「アリスまで……」
生気のないRGBの光は鎖につながった俺の心を徐々に手繰り寄せる気がする。
おい……ここは墓地だぞ。
微かに残る俺の理性は、ここから早く抜け出すようにと必死に訴えかけるが、
『ハルトくん、頑張れ!俺の妻と娘たちの愛はとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっても重いよ~』
と、誰かが俺に囁きかける気がした頃には、
俺の目も死んでいた。
まるで、狩人の毒牙にかかった獲物のように。
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