9 / 14
8.新しい出会い(1)
しおりを挟む
隣領までの移動手段を探すため、僕は雪の降りしきる城の周りを散歩していた。
そして本館から少し離れた場所に暗い小屋があるのを見つけたのだった。
軋んだ木のドアを軽く押すと、中は真っ暗で手入れがされていないのが分かる。
「誰もいないですか…?」
もしここで人の声が聞こえたら、腰を抜かしている自身がある。
藁敷きの床にもつれながら奥へ進むと何かがうごめいている。
今の僕はどうかしていると思う。その何かを触ってみる。
「ブルっ!」
と、鼻息を立てて動いたのは体躯の立派な馬だった。
「なんだ馬か。それにしても綺麗な毛並み…ユーリス様の馬なの?」
厩は別にあったのを見たが…この馬は特別な事情があるのかもしれない。
馬は僕の問いかけが分かるかのように激しく横に首を振る。
「違う?ならここの兵馬か。ほんと艶々だね。」
とにかくこの馬なら放っておかれていそうだし、一日連れて行っても発覚することはなさそうだ。
近くにあった古びた手綱と鞍を着け、外に出してみるとそれは額に×の傷がついた黒い馬だということが分かった。
セントヘレナは北方の要塞とも言われており、この子はその呼び名にふさわしい名馬だろう。
僕の2倍はある巨体、乗りこなせるか?
「隣領まで乗せていってもらえる?」
と言うと、馬は姿勢を低くする。なるほどこれは賢い。
僕は落ちないようにするだけで、道中はこの子にお任せしたほうがよさそう…!
乗馬の経験?そんなものはない。秘訣は馬の気持ちをよく理解しているということだ。
「出発!」
予想通り、寄ったセントヘレナ城下町は寂れていて欲しいものが特段見つからなかった。
対して今着いた隣領、アイゼア領は中心部に向かうにつれて露店が並び活気づいている。
必須で買うものは服と食料。
流石に制服一枚でいるわけにはいかないし、この極寒を乗り越えるためにコートも欲しい。
この露店街で一番品数が多そうな店を見つけ、見てみると飾り気のない黒のドレスと毛皮のコートが目を引く。
できるだけ質素なものとはいっても持ち金の半分は消えてしまいそうだ。
「まいどあり!」
背に腹は変えられない…。
しかしながら初めて買い物を自分でしたが、買うか買わないかの葛藤がなかなかに楽しい。
後は食料調達を…部屋に置いておくものだから匂いの少ない、かつ保存がきくものがいい。
町をどんどん進んでいくと露店から一戸建てのお店に変化してくる。
「お嬢ちゃん、今日は肉が安いよ!」
声の方を見ると、気前のよさそうなおじさんが手招きしている。
お店に入ると生肉だけでなく、乾燥した肉の塊が置いてある。
「これは鹿の肉のハムさ。」
鹿の肉…帝都では食べたことがない。北方ならではの食べ物か。
値段もお手ごろだし保存もできそうだ。
味はつゆ知らず、好奇心からしっかり購入した。
以外にも買い物が早く終わり町を散策することにした。
それにしても目線が痛い…少女が一人、大きな馬を連れて町にいるなど目立って仕方ない。
だがこちらには僕の生命がかかっていた。今は気にしたら負け、そう思いながら町ブラする。
すると窓越しに青くきらきら光る石を見つけた。
その店に入ると中には人の気配がない。
不思議に思いながらも窓越しに見た石を手に取り太陽光に当ててみる。
きっと魔界から持ってきたものだろう、下から覗くと波のさざめきが見える。まるで水の中にいるようだ。
「海みたい…。」
「それは2万セシルだけど、買うかい?」
気づくと背後に背の低いおばあさんが立っていた。
「か、買います…。」
僕は驚きのまま、この高級品を購入した。
その後もお金が許す限り食料を買い足した。
いつの間にか斜め掛けのバッグはパンパンになっている。
手綱を引いて帰路に就いているとスカートを引っ張られた。
振り返ると小さい女の子が半泣きで僕のスカートを強く握っている。
「どうしたの?」
と言っても何も答えない。
孤児だろうか、施そうにも自分も明日生きるのに精一杯の身だ。何もしてあげられない。
「私、もう帰らないといけないの。」
「おねえちゃん、たすけて。」
「え?」
「ママがいなくなっちゃった。」
誘拐…?
「こわいおじさんが来て、ママのことひっぱってた。」
女の子は泣き出した。
そうだ、庶民の間では身売りというものがまだ残っていることを忘れていた。
きっとこの子の母親の件にはややこしいのが絡んでいるに違いない。
それに他人に助けを求めるくらいだ…身内は母親しかいないのだろう。
僕はしゃがんで頭を撫でる。
「そっか、怖かったね。」
力になってあげたい…。まずは何があったのか、現場を見る必要がありそうだ。
僕は非力だけど………いや、非力じゃなくなればいいんだ。
生きるためにも、これから僕を大切にしてくれる誰かを守るためにも。
母の二の舞は絶対に嫌だから。
「家に行こう。」
集合平屋に着き、周囲を捜索してみるも跡形もなく消えている。
「いないね…。」
「ママぁ!どこなの…!」
あぁ、この顔を見るのは嫌いかもしれない。
僕もきっと昔同じ顔をしていた。
母の死に耐えきれなくて現実逃避した、あのやるせない顔。
「いや!ママ、あたしのこときらいになった…?」
「よく聞いて。」
僕は女の子の顔を見て話すことはできなかった。
「ママは貴方を守るためにちょっとだけ消えちゃったんだよ。ママは貴方のことが大好きだから守ってくれたんだよ。」
女の子は滲んだ涙を拭い、僕の手を取る。
僕は強く握り返した。
「今日はどこかお店の人のとこに行こう。またお姉さんが迎えに来るから待ってて。」
「約束?」
「うん、約束。」
必ずやこの子(名前はサラサというらしい)の母親を見つけてみせる。
見ず知らずの他人に「助けて」と言った、 のその勇気を無駄にはしない。
僕は肉屋のおじさんに頼み込みサラサを置いてもらえるようにし、アイゼア領を後にした。
そして本館から少し離れた場所に暗い小屋があるのを見つけたのだった。
軋んだ木のドアを軽く押すと、中は真っ暗で手入れがされていないのが分かる。
「誰もいないですか…?」
もしここで人の声が聞こえたら、腰を抜かしている自身がある。
藁敷きの床にもつれながら奥へ進むと何かがうごめいている。
今の僕はどうかしていると思う。その何かを触ってみる。
「ブルっ!」
と、鼻息を立てて動いたのは体躯の立派な馬だった。
「なんだ馬か。それにしても綺麗な毛並み…ユーリス様の馬なの?」
厩は別にあったのを見たが…この馬は特別な事情があるのかもしれない。
馬は僕の問いかけが分かるかのように激しく横に首を振る。
「違う?ならここの兵馬か。ほんと艶々だね。」
とにかくこの馬なら放っておかれていそうだし、一日連れて行っても発覚することはなさそうだ。
近くにあった古びた手綱と鞍を着け、外に出してみるとそれは額に×の傷がついた黒い馬だということが分かった。
セントヘレナは北方の要塞とも言われており、この子はその呼び名にふさわしい名馬だろう。
僕の2倍はある巨体、乗りこなせるか?
「隣領まで乗せていってもらえる?」
と言うと、馬は姿勢を低くする。なるほどこれは賢い。
僕は落ちないようにするだけで、道中はこの子にお任せしたほうがよさそう…!
乗馬の経験?そんなものはない。秘訣は馬の気持ちをよく理解しているということだ。
「出発!」
予想通り、寄ったセントヘレナ城下町は寂れていて欲しいものが特段見つからなかった。
対して今着いた隣領、アイゼア領は中心部に向かうにつれて露店が並び活気づいている。
必須で買うものは服と食料。
流石に制服一枚でいるわけにはいかないし、この極寒を乗り越えるためにコートも欲しい。
この露店街で一番品数が多そうな店を見つけ、見てみると飾り気のない黒のドレスと毛皮のコートが目を引く。
できるだけ質素なものとはいっても持ち金の半分は消えてしまいそうだ。
「まいどあり!」
背に腹は変えられない…。
しかしながら初めて買い物を自分でしたが、買うか買わないかの葛藤がなかなかに楽しい。
後は食料調達を…部屋に置いておくものだから匂いの少ない、かつ保存がきくものがいい。
町をどんどん進んでいくと露店から一戸建てのお店に変化してくる。
「お嬢ちゃん、今日は肉が安いよ!」
声の方を見ると、気前のよさそうなおじさんが手招きしている。
お店に入ると生肉だけでなく、乾燥した肉の塊が置いてある。
「これは鹿の肉のハムさ。」
鹿の肉…帝都では食べたことがない。北方ならではの食べ物か。
値段もお手ごろだし保存もできそうだ。
味はつゆ知らず、好奇心からしっかり購入した。
以外にも買い物が早く終わり町を散策することにした。
それにしても目線が痛い…少女が一人、大きな馬を連れて町にいるなど目立って仕方ない。
だがこちらには僕の生命がかかっていた。今は気にしたら負け、そう思いながら町ブラする。
すると窓越しに青くきらきら光る石を見つけた。
その店に入ると中には人の気配がない。
不思議に思いながらも窓越しに見た石を手に取り太陽光に当ててみる。
きっと魔界から持ってきたものだろう、下から覗くと波のさざめきが見える。まるで水の中にいるようだ。
「海みたい…。」
「それは2万セシルだけど、買うかい?」
気づくと背後に背の低いおばあさんが立っていた。
「か、買います…。」
僕は驚きのまま、この高級品を購入した。
その後もお金が許す限り食料を買い足した。
いつの間にか斜め掛けのバッグはパンパンになっている。
手綱を引いて帰路に就いているとスカートを引っ張られた。
振り返ると小さい女の子が半泣きで僕のスカートを強く握っている。
「どうしたの?」
と言っても何も答えない。
孤児だろうか、施そうにも自分も明日生きるのに精一杯の身だ。何もしてあげられない。
「私、もう帰らないといけないの。」
「おねえちゃん、たすけて。」
「え?」
「ママがいなくなっちゃった。」
誘拐…?
「こわいおじさんが来て、ママのことひっぱってた。」
女の子は泣き出した。
そうだ、庶民の間では身売りというものがまだ残っていることを忘れていた。
きっとこの子の母親の件にはややこしいのが絡んでいるに違いない。
それに他人に助けを求めるくらいだ…身内は母親しかいないのだろう。
僕はしゃがんで頭を撫でる。
「そっか、怖かったね。」
力になってあげたい…。まずは何があったのか、現場を見る必要がありそうだ。
僕は非力だけど………いや、非力じゃなくなればいいんだ。
生きるためにも、これから僕を大切にしてくれる誰かを守るためにも。
母の二の舞は絶対に嫌だから。
「家に行こう。」
集合平屋に着き、周囲を捜索してみるも跡形もなく消えている。
「いないね…。」
「ママぁ!どこなの…!」
あぁ、この顔を見るのは嫌いかもしれない。
僕もきっと昔同じ顔をしていた。
母の死に耐えきれなくて現実逃避した、あのやるせない顔。
「いや!ママ、あたしのこときらいになった…?」
「よく聞いて。」
僕は女の子の顔を見て話すことはできなかった。
「ママは貴方を守るためにちょっとだけ消えちゃったんだよ。ママは貴方のことが大好きだから守ってくれたんだよ。」
女の子は滲んだ涙を拭い、僕の手を取る。
僕は強く握り返した。
「今日はどこかお店の人のとこに行こう。またお姉さんが迎えに来るから待ってて。」
「約束?」
「うん、約束。」
必ずやこの子(名前はサラサというらしい)の母親を見つけてみせる。
見ず知らずの他人に「助けて」と言った、 のその勇気を無駄にはしない。
僕は肉屋のおじさんに頼み込みサラサを置いてもらえるようにし、アイゼア領を後にした。
360
あなたにおすすめの小説
【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~
TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】
公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。
しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!?
王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。
これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。
※別で投稿している作品、
『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。
設定と後半の展開が少し変わっています。
※後日譚を追加しました。
後日譚① レイチェル視点→メルド視点
後日譚② 王弟→王→ケイ視点
後日譚③ メルド視点
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
冤罪で追放された悪役令息、北の辺境で幸せを掴む~恐ろしいと噂の銀狼将軍に嫁いだら、極上の溺愛とモフモフなスローライフが始まりました~
水凪しおん
BL
「君は、俺の宝だ」
無実の罪を着せられ、婚約破棄の末に極寒の辺境へ追放された公爵令息ジュリアン。
彼を待ち受けていたのは、「北の食人狼」と恐れられる将軍グリーグとの政略結婚だった。
死を覚悟したジュリアンだったが、出会った将軍は、噂とは真逆の不器用で心優しいアルファで……?
前世の記憶を持つジュリアンは、現代知識と魔法でボロボロの要塞を快適リフォーム!
手作りスープで将軍の胃袋を掴み、特産品開発で街を救い、気づけば冷徹将軍から規格外の溺愛を受けることに。
一方、ジュリアンを捨てた王都では、破滅の足音が近づいていて――。
冤罪追放から始まる、銀狼将軍との幸せいっぱいな溺愛スローライフ、ここに開幕!
【オメガバース/ハッピーエンド/ざまぁあり/子育て/スパダリ】
虐げられた令息の第二の人生はスローライフ
りまり
BL
僕の生まれたこの世界は魔法があり魔物が出没する。
僕は由緒正しい公爵家に生まれながらも魔法の才能はなく剣術も全くダメで頭も下から数えたほうがいい方だと思う。
だから僕は家族にも公爵家の使用人にも馬鹿にされ食事もまともにもらえない。
救いだったのは僕を不憫に思った王妃様が僕を殿下の従者に指名してくれたことで、少しはまともな食事ができるようになった事だ。
お家に帰る事なくお城にいていいと言うので僕は頑張ってみたいです。
BLゲームの悪役に転生したら攻略対象者が全員ヒロインに洗脳されてた
さ
BL
主人公のレオンは、幼少期に前世の記憶を思い出し、この世界がBLゲームで、自身は断罪される悪役だと気づく。
断罪を回避するため、極力攻略対象者たちと関わらないように生きてきた。
ーーそれなのに。
婚約者に婚約は破棄され、
気づけば断罪寸前の立場に。
しかも理由もわからないまま、
何もしていないはずの攻略対象者達に嫌悪を向けられてーー。
※最終的にハッピーエンド
※愛され悪役令息
姉の代わりに舞踏会に行ったら呪われた第三王子の初恋を奪ってしまった
近井とお
BL
幼少期、ユーリは姉によく似ていることから彼女の代わりに社交の場に出席することが多々あった。ある舞踏会の夜、中庭に姿を眩ませたユーリに誰かがぶつかってくる。その正体は呪われていると噂の第三王子であったが、ぶつかられたことに腹を立てたユーリは強気に接し、ダンスを踊った後、彼を捜している気配を感じてからかいながら立ち去る。
それから数年後、第三王子は初恋の令嬢を探し始めたが、それはユーリに違いなく……。
初恋の相手を捜す第三王子×軽口令息
塩対応だった旦那様が記憶喪失になった途端溺愛してくるのですが
詩河とんぼ
BL
貧乏伯爵家の子息であったノアは家を救うことを条件に、援助をしてくれることとなったラインドール公爵家の若気当主のレオンに嫁ぐこととなった。
塩対応で愛人がいるという噂のレオンやノアを嫌う義母の前夫人を見て、ほとんどの使用人たちはノアに嫌がらせをしていた。
そんな中、レオンが階段から転落し、レオンは記憶を失ってしまう。すると――
悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される
木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー
※この話は小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる