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第20章 是正基準
110 この特別科目の意味
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そんな業務に人を充てがったり、10%程度自殺することがわかった上で精神操作魔法を使うなんて、人道的におかしい。
そういう考え方はあるし、きっと正しいのだろう。
ただここ、惑星オーフではどう考えるか、私はいいかげん学習している。
「他人の人権を尊重しない者は、自分の人権も尊重されない。惑星オーフではそこまで面倒をみるほど余裕はない。だから他人の人権を尊重しない行動をとる者は、自殺のリスクがある処分を受けても仕方ない。またそのことを受け入れ先が認識しているなら、副作用というほどの問題にはならない。そういうことですね」
「その通りだ。こちらの考え方を理解してくれている様で助かるよ。その辺りを理解していただけない結果、面倒なことになる生徒も多いからさ。
こちらは移民を集める際、集める地域しか選べない。そしてあちらの先進国と呼ばれる国で集めると、学力的な素地は高い代わりに余分な知識や考え方を持っている連中もそこそこいる。配慮を間違えた人権とか、自分の不快と感じるものを犯罪として糾弾する正義とか、一神教的思考による人種差別的な思考とかね。その度に集める地域を変更して対処しているのだけれどさ。とまあ、余談はこのくらいにして」
移民は、集める地域でしか選べない。
これはきっと、他では得られない情報だ。
エノフ指導員はきっと、このことをわざと漏らしたのだろう。
その意図は私にはまだわからないけれど。
「是正化措置を生徒全員に行わない理由に戻るよ。是正化措置を行った人間は、確かに無難でそこそこ真面目に働く、そこそこ有用な性格と知能になる。でもそれだけなんだ。何か新しい発想を生み出したり、新たな発見をしたりするような独創性がある人間は生み出せない。むしろスポイルしてしまう方かな。平均的に優秀な知能と温和で癖のない社会的性格に矯正するのだから、独創性が薄れるのは当然だけれどね」
なるほど、独創性もまた有用な資質だ。
だから独創性が残るよう、是正化措置を全員にかける事は無いということか。
なら、もう少し踏み込んだ質問をしてみよう。
この場ではそれが許されそうだし、こういった機会はなかなかなさそうだから。
「独創性という意味ならば、成績や社会性に関係なく発生しそうな感じがしますけれど」
「まあそうだね。ただ独創性を生かすには、最低限の知識や思考力、社会性が必要なんじゃないかな。だから卒業後のコースでB基準、最終試験が7割以上の層は、基本的に是正化措置はかけない。もちろん犯罪的な趣向とか、そうでなくとも周囲にとって不利益になるだろう人格の場合は別だけれども」
つまりB基準、最終試験が7割未満の場合は、是正化措置を講じる可能性があるということか。
なら長期課程(Ⅲ)辺りは、ほぼ全員是正化措置の対象になっていてもおかしくない気がする。
長期課程(Ⅱ)でも、半数以上は対象になるだろう。
恐怖を感じて戻ってきたというエトの判断は、ある意味間違ってはいなかったようだ。
そう思いつつ、続いているエノフ指導員の説明に耳を傾ける。
「もちろんB基準未満でも独創性があって、有用な人間はいるだろう。可能性としては。ただB基準未満でB基準以上に有用な独創性と知性を活かせる割合は、B基準以上で有用な者と比べると多くはない筈だ。ある程度の知識や学力がなければ、せっかくの独創性も有用な方向に生かしにくいだろうからね。もちろん例外はあるだろう。だがそこまで落ち穂拾いが出来るほど、惑星オーフは豊かじゃない」
独創性と聞いて、少し思いついたことがあるので、聞いてみる。
「なら芸術的才能なんてのはどうでしょうか?」
「同じさ。確かに芸術は社会を豊かにするけれど、それだけで生存できるわけじゃない。それにB基準以上の者がC基準以下の者より芸術的センスで劣っているとか、芸術的才能が無いなんてこともない。
なら僅かな可能性にかけるあまり全体の基準を下げて使えない層を増やすより、使えない層は何とか使える様に是正化措置をした方が有用だろう。少なくとも余裕がそれほどない社会では。違うかい?」
なるほど。ならこれについても聞いてみよう。
「その、どのくらいの基準で是正化した方がいいというのは、どうやって決めるのでしょうか」
「ほとんどは統計データだ。義務教育学校の卒業試験の成績と年収との相関とか、同じく卒業試験の成績と強制労働施設入りした者との相関とか。調査方法は、今回の表計算でチアキさんが覚えた通りだよ。
もちろんオーフの社会全体が、そういった統計的手法で管理されているわけではない。でもここ、移住準備施設は、各国に移民を引き渡すのが業務だ。そして商品でもある移民の価値を保証するには、統計データが有用だろう。もちろん施設側だけではなく、各国側も統計データを使用して、よりよい移民が入るよう、考える。そのあたりを考察した結果が、卒業後に選べる各コースの基準だったり、さっき言った是正化措置の基準だったりするわけだ。
という訳で、今回履修を完了した特別科目の有用性についての話は終了だ。他に何か、質問はあるかい?」
そういう考え方はあるし、きっと正しいのだろう。
ただここ、惑星オーフではどう考えるか、私はいいかげん学習している。
「他人の人権を尊重しない者は、自分の人権も尊重されない。惑星オーフではそこまで面倒をみるほど余裕はない。だから他人の人権を尊重しない行動をとる者は、自殺のリスクがある処分を受けても仕方ない。またそのことを受け入れ先が認識しているなら、副作用というほどの問題にはならない。そういうことですね」
「その通りだ。こちらの考え方を理解してくれている様で助かるよ。その辺りを理解していただけない結果、面倒なことになる生徒も多いからさ。
こちらは移民を集める際、集める地域しか選べない。そしてあちらの先進国と呼ばれる国で集めると、学力的な素地は高い代わりに余分な知識や考え方を持っている連中もそこそこいる。配慮を間違えた人権とか、自分の不快と感じるものを犯罪として糾弾する正義とか、一神教的思考による人種差別的な思考とかね。その度に集める地域を変更して対処しているのだけれどさ。とまあ、余談はこのくらいにして」
移民は、集める地域でしか選べない。
これはきっと、他では得られない情報だ。
エノフ指導員はきっと、このことをわざと漏らしたのだろう。
その意図は私にはまだわからないけれど。
「是正化措置を生徒全員に行わない理由に戻るよ。是正化措置を行った人間は、確かに無難でそこそこ真面目に働く、そこそこ有用な性格と知能になる。でもそれだけなんだ。何か新しい発想を生み出したり、新たな発見をしたりするような独創性がある人間は生み出せない。むしろスポイルしてしまう方かな。平均的に優秀な知能と温和で癖のない社会的性格に矯正するのだから、独創性が薄れるのは当然だけれどね」
なるほど、独創性もまた有用な資質だ。
だから独創性が残るよう、是正化措置を全員にかける事は無いということか。
なら、もう少し踏み込んだ質問をしてみよう。
この場ではそれが許されそうだし、こういった機会はなかなかなさそうだから。
「独創性という意味ならば、成績や社会性に関係なく発生しそうな感じがしますけれど」
「まあそうだね。ただ独創性を生かすには、最低限の知識や思考力、社会性が必要なんじゃないかな。だから卒業後のコースでB基準、最終試験が7割以上の層は、基本的に是正化措置はかけない。もちろん犯罪的な趣向とか、そうでなくとも周囲にとって不利益になるだろう人格の場合は別だけれども」
つまりB基準、最終試験が7割未満の場合は、是正化措置を講じる可能性があるということか。
なら長期課程(Ⅲ)辺りは、ほぼ全員是正化措置の対象になっていてもおかしくない気がする。
長期課程(Ⅱ)でも、半数以上は対象になるだろう。
恐怖を感じて戻ってきたというエトの判断は、ある意味間違ってはいなかったようだ。
そう思いつつ、続いているエノフ指導員の説明に耳を傾ける。
「もちろんB基準未満でも独創性があって、有用な人間はいるだろう。可能性としては。ただB基準未満でB基準以上に有用な独創性と知性を活かせる割合は、B基準以上で有用な者と比べると多くはない筈だ。ある程度の知識や学力がなければ、せっかくの独創性も有用な方向に生かしにくいだろうからね。もちろん例外はあるだろう。だがそこまで落ち穂拾いが出来るほど、惑星オーフは豊かじゃない」
独創性と聞いて、少し思いついたことがあるので、聞いてみる。
「なら芸術的才能なんてのはどうでしょうか?」
「同じさ。確かに芸術は社会を豊かにするけれど、それだけで生存できるわけじゃない。それにB基準以上の者がC基準以下の者より芸術的センスで劣っているとか、芸術的才能が無いなんてこともない。
なら僅かな可能性にかけるあまり全体の基準を下げて使えない層を増やすより、使えない層は何とか使える様に是正化措置をした方が有用だろう。少なくとも余裕がそれほどない社会では。違うかい?」
なるほど。ならこれについても聞いてみよう。
「その、どのくらいの基準で是正化した方がいいというのは、どうやって決めるのでしょうか」
「ほとんどは統計データだ。義務教育学校の卒業試験の成績と年収との相関とか、同じく卒業試験の成績と強制労働施設入りした者との相関とか。調査方法は、今回の表計算でチアキさんが覚えた通りだよ。
もちろんオーフの社会全体が、そういった統計的手法で管理されているわけではない。でもここ、移住準備施設は、各国に移民を引き渡すのが業務だ。そして商品でもある移民の価値を保証するには、統計データが有用だろう。もちろん施設側だけではなく、各国側も統計データを使用して、よりよい移民が入るよう、考える。そのあたりを考察した結果が、卒業後に選べる各コースの基準だったり、さっき言った是正化措置の基準だったりするわけだ。
という訳で、今回履修を完了した特別科目の有用性についての話は終了だ。他に何か、質問はあるかい?」
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