月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第一部プロローグ 異世界初日

3 食事の配給

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 あれこれ確認して作戦を練っていると、突如タブレットが鳴動しはじめた。
 そして画面にこんな表示が出現する。

『まもなく夕食の配給時刻です。私室の外へ出る事が出来る格好で、共同棟1階食堂まで受け取りに来て下さい』

 確認ボタンをタップした後、タブレットの電源を切って、そして私はふと思う。
 そういえば充電していないけれど、大丈夫なのだろうかと。

 わからない時は確認だ。
 説明の中に、こんな記述があった。

『もしわからない事があれば、知識魔法で確認するのがおすすめです。知識魔法は惑星オーフ上でなら、誰にでも使える魔法です。知識魔法を使おうとする意思があって、知りたいことを質問形式の文章等で具体的に思い浮かべると起動します。
 知識魔法は事実として正しい内容を回答します。ですが使用者の知識、経験、思考、理解度にあわせて、回答そのものは変化します。複数の人が同じ事について知識魔法で考えても、同じ返答となるのは稀です。このことは留意して下さい』

 誰にでも使えるということは、私でも使えるという事だろう。
 まだ魔法の訓練は一切していないけれど。

 なら魔法のお試しも兼ねて、知識魔法を使ってみよう。
 思い浮かべた質問は『このタブレットは電源に繋いでいないしコンセントも無いけれど、電気が切れて使えなくなるという事はないだろうか』。

 答えが瞬時に頭の中に思い浮かんだ。

『このタブレットは魔法的にエネルギーを得て動作しています。電源に接続する必要はありません』

 なるほど、確かに知識魔法が起動したようだ。
 こんなに簡単に魔法を使えていいのだろうかとも感じるけれど、便利だしありがたい。

 ただ回答は大雑把だ。これはきっと、私に魔法についての知識が足りないからだろう。
 学習を進めれば、より納得のいく説明になる可能性がある。

 でもとりあえず電源に接続する必要がないことと、私でも知識魔法を起動出来ることがわかっただけでも収穫だ。
 今後も疑問があれば、知識魔法を使ってみることにしよう。

 さて、それでは次の課題は、どれくらいの時間に食事を受け取りに行くか。
 今すぐに行った方が、他の生徒と出会う可能性が高い。

 問題は会った方がいいか、会わない方がいいか。
 此処の生徒は、日本人とは限らない。
 あのタブレットの最初の質問から考えると、ほぼ世界中から集めているような気がする。 
 だから会ってもすぐにコミュニケーションを取れる可能性は低い。

 また同じ日本人でも、コミュニケーションがとれない相手や、とらない方がいい相手なんてのもいる。
 それに日本の学校と違い、此処では集団で授業を受ける訳ではない。
 一ヶ月に1回、到達度試験を受ける為に集まるだけだ。

 なら現時点では、どうでもいい気がする。
 有害だとか気が合わないなと思えば、以降無視するまで。
 どうせ8ヶ月でおさらばだ。

 そんな考え方をするから、可愛げが無いなんて言われるのだろうか。
 そう言われた場所からは遠く離れてしまったけれど。

 なら特に何も考えず、食事を取りに行くとしよう。
 私は着替える為に立ち上がる。

 他に場所はないから、服は作り付けの棚に入っているのだろう。
 私はそう判断して、扉タイプの棚の戸を開く。
 予想通り、服だの靴下だの靴だの色々と入っていた。
 ついでだから上から下までざっと確認して、大体の内容を確認しておく。

 服は幾つかあるが、今回着るつもりの服は決めてある。
 主に此処の建物や敷地内で着用する為の、基準2と書いてあった服装だ。
 
 具体的には今の裾長シャツの上に、同じような形の前開きの服を重ねた状態。
 色は生成りの色を煮染めたような黄土色。あと布そのものは綿じゃなくて麻っぽい感じがする。

 あと胸が気になるから、ブラをしておこう。
 いわゆるスポブラだけれど、今のサイズならこれで充分。

 ささっと着替えて、ついでにあった櫛で髪をさっと整える。
 髪型や服装を鏡で見て確認。地球年齢で12歳相当で、なおかつ寮内なら化粧とか必要ないだろう。
 そもそも化粧品は棚の中になかったけれど。
 化粧水やリップクリームすら無かったのを、先程棚を見た時に確認済みだ。
 
 部屋の外だからスリッパではなく、靴の方がいいだろう。
 なお靴はいわゆるローファー、デザインは高校の指定でありがちな奴そのままだけれど、色は褐色。
 革そのものは比較的柔らかく、割と履きやすい。

 忘れ物というか、食事を取りに行くのに必要なものは無いだろうか。
 確か持ち物については何も書いていなかったと思う。
 けれど念のため、知識魔法で確認してみよう。

『これから配給の食事を取りに行くのですけれど、何か必要なものはあるでしょうか』

『特にありません。私室の外に出られる程度の服装という以外の指定はありません』

 なら大丈夫。
 私は部屋の扉を開けて、廊下に出る。

 ◇◇◇

 食堂には今の私と同じくらいの年齢に見える者、たぶん生徒が6人ほど並んでいた。
 ただ進みは早い。待つことはなさそうだ。
 なお並んでいる6人は、白人風男子3、女子2、アジア系風男子1。
 アジア系男子が日本人かどうか、知識魔法でわかるだろうか。

『個人情報についてはプライバシー保護の観点から、知識魔法ではわからないようになっています。ただし知識魔法以外で知った情報について、知識魔法で確認することは可能です』

 この世界にも、プライバシー保護という概念はあるようだ。
 そして知識魔法に、プライバシー保護なんて機能があることもわかった。
 何かご都合主義的過ぎて怪しさも感じるけれど、取りあえず便利だから放っておこう。

 並びながら先頭の動きを見て、此処での配給方法を確認する。
 どうやら食堂内の配膳口で重箱くらいの箱を受け取るだけの模様。
 特に何か確認されたり、注文する事はなさそうだ。

『今回此処で配給される食事は一種類です。また受け取りは本人限定となっています』

 特に質問したつもりがなくても、頭の中で疑問を明文化すると自動的に知識魔法が起動するようだ。
 誰かに思考を読まれているというわけではないし便利だから、まあいいとしよう。
 すぐに私の番になり、木箱を受け取る。

 さて、それでは部屋に持ち帰って食べるとしよう。
 そう思ったところで、声がした。

「そこの君、こっちこっち」
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