月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第1章 はじめての話し相手

8 特別学習の通知

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 箱を出して、今日の朝食を並べる。
 薄切りハム3枚、卵焼き、サラダ、クリームスープ、パン2枚、バター代わりの塩・ハーブ入り脂という内容だ。
 昨日の朝食も同じだったし、朝食はこれで固定なのかもしれない。

 ただ固定といっても、けっしてまずくはない。
 良くある喫茶店のモーニングセット程度の品質はあると思う。
 朝食を外食するなんて機会はほとんど無かったので、イメージでそう感じているだけなのだけれど。

 強いて言えばパンに風味が足りない気がする。
 でも脂を塗って、魔法で焦げ目がつく程度まであぶってやれば、結構美味しい。

 この脂は、恐竜の肉から取れた脂を精製して、ハーブや塩で味付けしたもの。
 動物の脂肪という感じの癖はなく、ハーブ入りマーガリンという感じの味だ。
 
 ハムも恐竜肉だし、玉子も恐竜の卵。
 恐竜といっても巨大ではなく、豚サイズとか七面鳥サイズだけれど。
 地球の鳥類や哺乳類のような恒温動物由来の食物は、少なくとも今日までの食事には含まれていない。
 野菜もシダ類が多いし、中生代くらいの生物相なのだろうか。
 自然科学の課題をもう少し進めればわかるだろうと思うけれど。 

 食べ終わったら、本日の勉強開始。
 昨日は言語の課題を5回目分まで終わらせたから、今日は言語の課題6回目分から。
  
 ◇◇◇

 言語の課題を8回分まで終えたところで、最初の確認試験という項目が現れた。
 所要時間は20分程だそうだ。
 なお『これはあくまで、本人の理解度と到達度の確認の為に設定されています。この成績で査定等を行う事はありません』と記載されている。

 この記載が本当か嘘かはわからない。
 ただ8回分までの内容はアルファベットや数字の書き方と簡単な単語、発音や記述方法だけ。
 一通り覚えた自信はある。

 タブレットの時間表示は11時45分。後に残しておくより試験までやってしまった方が、気分的に楽だ。
 という事で、お昼ご飯は後回し。
 念のためこれまでの内容をさっと流し読みで確認した後、確認試験を受けてみた。

 わからない所はない。
 一度見直して大丈夫だろうと思ったので、まだ5分以上時間が残っていたけれど、『回答終了・採点』ボタンをタップする。

 結果が出た。100点満点中95点。一箇所だけスペルミス。
 我ながらしくじったなと思ったところで、タブレットから通知音がした。

『通知が届いています』

 何だろうと思いつつ、タップしてみる。

『特別科目追加のお知らせ』

 来たな。文面をしっかり全部読んで確認。
 特別科目の名称は『ペルリア共和国・生活実習』。
 目的は『ペルリア共和国の標準的な街と暮らしを知ること』。
 街に行って、買い物をしたり、店で食事をしたりという内容もあるようだ。

 生徒同士の交流が出来るかはわからない。
 けれど面白そうだなとは感じる。
 少なくとも部屋に籠もって課題をこなすだけよりはましだろう。

 現在は生徒の外出は『許可がでるまでは禁止』となっているので、街の様子は窓から見るだけ。
 だから外出だけでも結構楽しみだ。

 実習の開催日時は2月10日第4曜日。8時に集合で15時頃解散予定とある。
 今日が3日だから、7日後だ。

 費用は無料。これは私達がこの世界のお金を持っていないから当然だろう。
 服装は基準4、この施設の外に出ても問題ない程度のものとある。
 これは棚に入っているから問題ない。

 なお注意事項が幾つかある。
  ○ 参加希望者は、4日前の2月6日までに本端末で申し込むこと
  ○ 参加を申し込んだ者は、参加申し込みとともに受講可能となる課題『ペルリア共和国・生活実習』の1から3までを受講しておくこと
  ○ 他の生徒に話してもかまわないが、通知が来た者以外は『ペルリア共和国・生活実習』の受講は出来ない
  ○ 参加・不参加は本人の意思でのみ判断すること。他人の参加・不参加の意思決定を妨害しないこと
  ○ 上記のうち禁止事項を侵したものについては、それなりの措置がなされる事に留意すること

 なお通知には『この特別科目に参加を希望する場合は、下の『参加』をタップして下さい』と記されている。
 また体調不良等での不参加は当日集合時刻まで受け付けていて、不参加による罰則がない事も書いてあった。

 ならここは『参加』でいいだろう。私は『参加』とあるボタンをタップする。
 通知の画面が変化した。

『特別科目への参加希望を受け付けました。詳細については2月7日中に追って通知を入れます。
 また現在時から学習科目に『生活』が追加されました。この『生活』のうち、『ペルリア共和国・生活実習』の1~3までを、当日までに履修しておくようお願いします』

 どれどれということで、タブレットを操作して学習科目の選択画面にする。
 確かに『生活』科目が追加されていた。

 すぐに読もうかと思って、昼食がまだという事に気付く。
 お腹がすいたという感覚もある。

 昼食を食べながら、様子を見てみようか。
 別に食事しながら課題をする事は禁止されていないし、他に見ている人もいない。
 勿論管理者なる者がいて知識魔法を使えば、食べながら学習課題をしているなんて事に気付く事は可能だろう。
 でもそれで、問題が起こるとは思えない。

 という事で、収納から木箱を取出し、昼食を並べる。
 今日はハムと野菜、玉子のサンドイッチ、芋、豆、野菜を煮込んだとろみのあるスープ。

 サンドイッチをぱくつきつつ、画面の『生活』科目をタップ。
 表示された『ペルリア共和国・生活実習』を選択。

 なるほど、最初の学習内容はお金の外見と形、大体の物価、店の種類と買い物方法についてのようだ。
 更には犯罪被害や詐欺に遭いそう、または遭ったと感じた際の対処や、その場合の処理の流れなんてのも書いてる。

 更には地図も見る事が出来るようになった。
 ペルリア共和国全体から、この施設がある街ポアノンの詳細まで、縮尺を変化して表示可能だ。
 ある程度詳細にすると、店の名前まで表示される。

 まるで外国に行く時の情報収集だよな。なんて事を思いながら、私は文字や画像に目を走らせる。
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