月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第1章 はじめての話し相手

10 実習の作戦

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 学習課題を進めて、ニナの部屋に1回行って、ニナも私の部屋に1回来て。
 そうこうしていると7日の昼過ぎ、通知が届いた。

『特別科目『ペルリア共和国・生活実習』詳細について』 
 
 ついに来たか。
 実は朝から、そろそろ来るだろうと思って待ち構えていたのだ。
 早速タップして、内容を確認する。
 
  ○ 集合は2月10日第4曜日8時、解散は13時頃
  ○ 集合場所は共用棟2階第1教室。
  ○ 参加者は5名の予定……

 そんな項目や注意をだだっと一読。
 どうやら今回の実習は、街へ出て食事をする事と買い物をする事がメインのようだ。

 スケジュールは、
  ① 集合して、氏名入りの外出許可証と、ペルリア共和国通貨で300Cカルクフを受け取る
  ② 自由に外出して、街で次の行動をしてくる
   ⅰ 朝食を食べる
   ⅱ 公設市場に入り、中を見て回る
   ⅲ 昼食を食べる、またはテイクアウトとして購入する
  ③ その他、寄りたい場所があれば寄ってもいいし、余ったお金は使い切っていい
  ④ 13時までに施設に戻り、共用棟2階の学習相談室へ行って帰ってきたことを報告する
 という形。

 なお配られた外出許可証は回収しない。
 だからこの実習に参加した生徒は、以降自由に外出可能だ。
 
 なるほど、この実習が『外出は許可が出るまでは禁止』の許可条件のようだ。
 こうやって選抜することで、問題がない生徒だけの外出を許可していくのだろう。

 さて、今やっている課題をささっと終わらせて、どこを回るか計画を立てるとしよう。

 ◇◇◇

 この施設があるポアノンは、ペルリア共和国の北部にある人口9千人ちょっとの街。
 日本的な常識では9千人では田舎。
 でも国の人口は2,000万人ちょっとだし、惑星オーフ全体の人口も5億人程度。
 この程度の人口でも、国内有数の街だったりする。
 
 店も結構揃っているし、国営の公設の市場の他、民間の商店街もそこそこ発達しているそうだ。
 更には治安がいい地区も、悪い地区もある。
 だから見て回る場所は、しっかり調べておいたほうがいい。

 なお治安が悪いと行っても、日本よりはましのようだ。
 ある程度以上の犯罪は魔法で認知され、その場で魔法的に拘束されるようだから。
 知識魔法がある世界なのだから、そういった事が充分可能なのだろう。

 さて、今回の実習ではどう回ろうか。
 何処を、何人で回ろうか。
 ポアノンの地図を見ながら考える。

 ポアノンはコリウ川の河口部にある街だ。西側が海で、南北を丘陵部に挟まれている。
 街の中心には河川改修をしただろう太くて真っ直ぐな川が東西方向へと流れ、西側で海に注いでいる。
 また太い川の街の東側端部分から、南北それぞれに細い川が分岐して、街の北側と南側をそれぞれ流れ、海へと注いでいる。

 ポアノンの街はこの3本の川で、中心部が2つの大きな島のようになっている。
 このそれぞれを南島フツア インフト北島ノルツア インフトと呼んでいるそうだ。

 なお北側の細い川より更に北側、台地に近い方は北岸ノルツア ポルツオ
 そして南側の細い川より南側で台地の手前までの低地は、南岸フツア ポルツオと呼ばれている。

 そして公設市場があるのは、南島フツア インフトの北側中央で、此処の施設があるのが南岸フツア ポルツオ
 コースとして正しいのは、この施設と公設市場の往復だろう。

 公設市場は、必ず回らなければならないことになっている。
 そして公設市場内には、一通りのお店がそろっているようだ。
 朝食や昼食を食べられる店も、食料品を買うことができる店も。

 だから課題となっている
  ⅰ 朝食を食べる
  ⅱ 公設市場に入り、中を見て回る
  ⅲ 昼食を食べる、またはテイクアウトとして購入する
は、すべて公設市場だけで可能。

 施設から公設市場までは700mくらい。
 なお惑星オーフというか此処ペルリアでは、ほぼメートル法に即した単位を使っている。
 オーフ標準語での発音や表記はメートルではないけれど。
 kmキロメートルcmセンチメートルも同様だ。

 というのは余談として、公設市場は国の施設だから治安は悪くない。
 商品の価格と品質もつり合いがとれている。
 つまりは『間違いのない店で、間違いのない買い物ができる』わけだ。
 私のようなこの国の初心者が最初に買い物をする場所として、正しいだろう。

 どうせ今後は外出が自由にできるようになる。
 だから下手にあれこれ回って、問題が起きるなんてのは避けた方がいい。

 それはわかっているのだけれど、実は行ってみたいところがある。
 海だ。
 公設市場から西へ1km歩けば河口、西側の海を見る事が出来る。

 海に行けとという課題があるわけではない。
 ただ海に行ってみたい、見てみたいと思っただけ。
 海なし県で育ったからか、海という存在に何となく心がひかれるのかもしれない。

 今回は余分な場所へ行かないのが正解。
 それはわかっているのだけれど。

 あと1人で回るか、何人かで回るかという問題もある。
 安全を考えれば、2人で回るのが正しいだろう。
 1人より2人の方が、何かあったときに対処しやすいし、道を間違えるなんて可能性も低くなる。
 それ以上多いと、同じ店に入る際に席が空いていないなんて可能性がある。

 ただ私は本来、単独行動派。
 一人で回った方が気を使わなくて済むし、自分の行きたい場所で、自分のペースで楽しめるから。

 この辺りは、ニナと相談した方がいいのだろうか。
 回るとすれば、ある程度知っているニナとが安心だから。
 それともあえてニナ以外と組んで、交友を広げるのが正解だろうか。
  
 うーん、難しい。そう思った時。
 コンコンコン、ドアをノックする音がした。
「こんにちは、入ってもクニ ポウアフいい?エニリ

 ニナの声だ。
 
「どうぞ」

 部屋には椅子はひとつしかないから、私はベッドへ移動。
 寝て勉強をするだけの部屋だから、仕方ないけれど。

「今度の実習でどのように回るか、決めたでしょうか?」

 ニナがオーフ共通語で、そう私に尋ねてきた。
 この世界に来てから、私は日本語を会話で使っていない。
 ニナもきっと同じなのだろう。私はニナの母国語を知らないけれど。

 ちょうどいい機会だから、相談してみよう。
 頭の中と知識魔法でオーフ共通語の回答を組み立てる。

「考え中。安全を考えれば2人くらいで公設市場まで大きい道で往復するのが正解だと思う。でも独りの方が自分のペースで回れる。それに個人的に行きたい場所がある」

 ニナはうんうんと頷いた。

「公設市場まで2人で往復する。安全を考えれば正しいでしょう。しかし此処の服を着て出れば、外の人もこの施設の生徒と気づくかもしれません。でしたら移民差別的な問題が起こる可能性があります」

 なるほど、差別なんて可能性には私は気づかなかった。
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