月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第3章 新しい特別科目

24 他の特別科目

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 ニナが魔法で姿を隠していた理由は、すぐに理解した。
 並んでから食堂を出るまでの間に、ニナを見つけて近寄って、話しかけてくる生徒が4組ほどいたのだ。
 並んで、夕食の箱を受け取って、朝食と昼食が入っていた箱を返して、共用棟から出るまでの間に。
 
 内訳は男子1件、男子2人組1件、女子2人組1件、女子3人組1件。髪の色は違うけれど、いずれも私から見て白人風。
 言葉は男子1人がフランス語、残りは英語。話しかけた内容は、一緒に話をしないかというお誘い。

 なお言語と内容は、知識魔法で確認した。だから多分間違いない。
 ついでに言うとただ話をしないかだけではなく、人種差別的な言葉を並べた奴も2組いる。
 程度の低い人種とではなく、私達と付き合うべきだというような感じで。

 ニナは全部、オーフ共通語で断った。
 どの組も素直に諦めず食い下がろうとしたけれど、ニナが昨日夕方の一斉連絡の件を持ち出すと、離れていった。

「大変だね」

「ええ。本当に面倒くさいです」

 ニナ、本気で嫌そうな顔をしてため息をつく。
 
「今朝も並んでいる最中、ほぼ同じ人達に囲まれたんです。その時は施設側が囲んでいる人達に直接警告を入れて、それで引き下がったのですけれど」

 それでもまだ諦めず、ニナを狙ってきたわけか。
 あまりに気の毒なので、おもわずこう言ってしまう。

「もし大変なら、明日の朝食も一緒に並ぼうか。言ってくれれば 時間を合わせるから」

「申し訳ないですけれど、お願いしていいですか。時間はチアキに合わせます」

 私は朝風呂があるから、本来ならば少しゆっくり派。
 でもニナと待ち合わせなら、早い方がいい。
 駄目駄目連中は食堂で延々とだべっているから、遅くなるほど人数が増える。

「なら明日は7時ちょうどくらいにニナの部屋に行こうか。それとも共用棟1階の方がいい?」

「共用棟の方がいいです。万が一チアキでない人がノックした場合、ドア越しではわかりません」

 なるほど。
 そういえば部屋のドアをノックされたとも言っていたなと思い出す。
 階段を上って、廊下を歩いて、そしてニナの部屋へ。

「チアキは机を使って下さい」

「ありがとう」

 私は机で、ニナはベッドで木箱を開ける。
 今日の夕食は、
  ○ ペルリアンシチュー
  ○ 芋入り玉子焼き
  ○ ポテトサラダ
  ○ パン
というメニュー。

 ペルリアンシチューは今までにも2回くらい出てきた、おなじみのメニューだ。
 シチューというより肉じゃがっぽい見た目で、味は塩とハーブと、奥にちょっと苦み。
 慣れるとこれは、なかなか美味しい。肉のほろほろ具合からみるに、結構ちゃんと美味しく作ってくれている気もする。

「パンはこれを試してみて下さい」

 ニナがスライスされた長円形のパン2枚を渡してきた。

「いいの? せっかく探して買ってきたんでしょ」

 外出で探して買ってきた、ちゃんと発酵させているパンだろう。
 私が貰ってもいいのだろうか。

「チアキにも感想を聞いてみたいですから。それにこれだけ買ったので大丈夫です」

 そう言って、ラグビーボールっぽい形と大きさのパン2個、ドーム型球場っぽい形のパンを出して見せてくれた。

「結構買ったんだね」

 確かにこれだけあれば、毎食食べても来週までは余裕で持ちそうだ。

「どのお店が美味しいか知りたいと思いました。知識魔法でもある程度の感想は拾えますけれど、自分で食べて確かめないと本当のところはわかりません」

 なるほど。
 ならという事で、まずは何もつけずに食べてみる。

 うん、確かに此処で出るパンとは明らかに違う。
 此処で出るパンに比べて表面がごわごわで、内部はしっとりもっちりしている。
 味は甘さが少なく、ちょっと酸味があって、かみしめると旨みを感じる。

「確かに全然違うね。私でもわかる」

「パンの味が強いから、シチューの汁につけても美味しいと思います」

 どれどれ、早速試してみる。
 あ、確かにこれは違いがわかりやすい。
 単に味が足し算になるのではなく、相乗効果が出る。

「美味しいね、これ」

「チアキにもそう感じてもらえて良かったです」

 うん、これは確かにこだわるのもわかる。
 パン文化圏ではなかった私でも、比べるともうこっちしかない位に感じるから。

 そうやって味わいつつ食べていると、おかずもパンも割とあっさり無くなってしまう。
 食べ終わった食器を箱にしまい、箱を魔法で収納すれば、夕食終了だ。

「さて、今日ここへ来て貰ったのは、チアキにお願いというか、考えてほしい事があったからです」

 ニナが本題らしき話を切り出した。

「実は今日のお昼、また新しい特別科目が出てきました。科目名は『ペルリア自然観察』。事前に2単位時間ほど学習した後、自然公園を半日回るという内容です。
 チアキにはこの特別科目は、出てきましたか?」

 私の知らない特別科目だ。
 
「ごめん。私の方はまだ出ていない。自然科学をあまり進めていないからだと思う」

 私は自然科学Ⅰは、まだ4コマしか進めていない。
 魔法は既に1単位24コマ分終わり、言語もあと1コマで1単位終わるというのに。
 流石に言語と魔法以外も、もう少し進めた方がいいだろうか。
 地理歴史Ⅰも5コマしか進んでいないし。 

 あと私も新たな特別科目が出た事を言った方がいいのだろうか。

『他の生徒に話してもかまいませんし、何ならタブレットの画面を見せても結構です。ですが通知が来た者以外は、その特別科目の受講は出来ません』

 なら話してしまう方が気分的に楽だ。

「実は私も、今日の昼過ぎに新しい特別科目が出た。『独自魔法作成Ⅰ』という名前」

 私のタブレットは魔法収納の中に入れてある。
 そして下手に口で説明するより、実際に通知を見て貰った方が早いだろう。
 だから私はタブレットを取り出し、電源を入れ、ささっと操作してあの通知を開く。

「私の方の通知も見て貰うね」

 タブレットを交換して、そして私はニナのタブレット画面に目をやる。
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