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第5章 変化の予感 (1)
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昼食を食べた後、休憩として購入してきた情報紙をパラパラめくる。
昨日買ってきて、まずは女性情報紙『ネレノーラ』から、休憩時間や暇な時間を使ってちまちま読み進め中だ。
今読んでいるのは20ページ中10ページ目、公演情報や店舗情報の部分。
文法的なところは『言語Ⅰ』である程度やった。
わからない単語やイディオム等は知識魔法が教えてくれる。
だからゆっくりとであれば、記事を読むことは充分可能。
日本語の文章と比べると、ずっとずっと遅いペースになるけれども。
前回の外出で私とニナが前を通ったリラノ商業施設が載っていた。
『ペルリアの演劇界で最先端を行くヘケツタ率いる劇団ルヒロンの新作不条理劇『名づけえぬもの』、ついにポアノンで公演開始!』
そんな感じで公演場所である、リラノ商業施設にある劇場ハヒロンが載っていたのだ。
どれどれ、それではどんな内容の演劇なのだろう。
内容は……
私は理解した。私には難しい内容だと。
この説明のオーフ共通語が難しいのではない。その気になればかなりの精度で日本語に直せる自信がある。
ただそうやって日本語にしても、きっと理解出来ない。
とりあえず私向けではない事がよくわかった。
ついでに言うとこれを書いた批評家さんも、あまり理解していないだろうと感じる。
『斬新だ』、『前例が無い』、『難解』、『独自の世界』。
評価がこんな単語ばかりで、『面白い』とか『見るべきだ』とは一切書いていないから。
あとは服飾店についても、この近くに幾つかあるようだ。
ただここで長々と紹介している店は、やっぱり私向きではない気がする。
『流行の先端を行くブランド。ノルヒナ地方初出店!』
こういうのは今の私達向きではないだろう、きっと。
そんな事を思いつつ、店舗紹介欄を読んでいるところで、タブレットから通知音がした。
エノフ指導員が言っていた件だな。そう思いつつ、スマホを手に取る。
『一斉試験に向けて、情報提供体制を更新しました。また施設移動についての情報を公開しました。
① 寮の食堂に掲示板を設置しました。全員に知って欲しい情報を告知する他、新たな情報の提供や、提供情報の更新についてこちらで掲示します。また生徒同士の連絡にも使用可能です。
② 食堂の掲示板の内容は、タブレットからも見る事が可能です。またタブレットから書き込みの依頼をする事も出来ます。書き込み依頼については、毎日昼12時に掲示板に反映します。
③ 一斉到達度確認試験の成績と試験当日の学習の進度によっては、強制的に別の施設に移動になる事があります。詳細についてはタブレットで確認してください』
掲示板についても気になるけれど、まずは③について確認しておこう。
タップしてリンクを辿る。
『一斉到達度確認試験の結果等による、生徒に対する措置について』
そういった題の表示が出てきた。
『一斉到達度確認試験は、ここでの学習で必要な知識を得る事が出来ているかを確認する為、実施するものです。この到達度試験で常に8割以上の成績を確保出来ていれば、来年2月、義務教育学校10年生に編入しても問題ない学力が確保出来ます』
ここは妥当なことしか書いていないな。
そう思いつつ次へと読み進める。
『ですが、各生徒には各生徒に適した学習方針があるだろうと思われます。ですので試験の成績が多少悪い程度では、強制措置を実施する事はありません』
大規模に生徒を入れ替えるという事は無さそうだ。
成績が多少悪い程度というのが、少しだけ気になるけれど。
『ですが試験の総合成績が6割未満の場合は、何らかの障害が生じている可能性が高い。そう当方では判断します』
多少悪い程度というのは、8割未満で6割以上という事のようだ。
それでは障害が生じていると判断した場合は、どうなるのだろう。
『その場合、各自の学習の進度と達成度によって、当方が取るべき措置を判断します。
さて、ここでの学習は最低限24単位取得すれば、義務教育学校9年生で習った内容を概ね確保出来る様になっています。そして1単位には24単位時間の学習が必要です。
ここでの学習期間は8ヶ月です。ですので1ヶ月には72単位時間分の学習が必要となります』
確かに単純計算ではそうだなと思う。
1日に3コマ進めれば余裕でクリア出来る程度だから、本来なら問題はない筈だ。
『ですので試験実施時、直前1ヶ月の学習進度が72単位時間より短かった場合は、自主学習が不足していると判断します。ですが体調不良等の個人的事情がある場合も稀にありますので、強制措置の判断はもう少し低く、60単位時間を基準とします』
多少体調が悪い日があろうと、1日2単位時間分は進められるだろう。
1日4単位時間分やれば、半月は遊べるという計算だ。
若干甘いくらいの気がするのだけれど、どうだろう。
『以上の判断基準により、試験の総合成績が6割未満の場合は、次のような措置を講じることとします。
① 試験直前までの1ヶ月間に進めた学習の単位時間が60時間以下の場合は、自主的に学習をする事が困難な環境にあると判断します。
この場合は、余分な事項にとらわれる事無く、学習に専念できる環境へと移動していただきます。
現在ポアノン第二施設にいる生徒の場合は、ポアノン第一施設の一号棟へと移動となります』
『チアキが今いるのが、ポアノン第二施設です』
知識魔法が補足してきた。
そして画面には、『ポアノン所在の移民施設概要』についてのリンクがある。
そちらについても後で確認しよう。
という事で、その次の説明へ。
『② 試験直前までの1ヶ月間に進めた学習の単位時間が60時間以上の場合は、自主学習という方式が生徒に見合っていないと判断します。
この場合は、教師がいて、一斉授業を行う方式のカリキュラムへと変更になります。こちらはポアノン第一施設の二号棟への移動となります』
つまり『サボり』と『バカ』は区別して考えるという事か。
この辺の割り切り方は、日本の義務教育では出来ないなと感じる。
人権とか平等とかという名目で。
続いて『ポアノン所在の移民施設概要』へと飛んでみる。
『ポアノンには初期に建てられた第一施設と、より街に近い場所に建てられた第二施設があります。それぞれの施設の概要は、次の表の通りです』
どれどれ、ざっと表を目で追って確認。
まず規模が圧倒的に違う。
第二施設の定員が80名のところ、第一施設の移民の定員は最大400名。
専任職員数は第二施設が5名のところ、第一施設は10倍の50名もいたりする。
施設で行っている内容も違う様だ。
私のいる第二施設は、長期課程(Ⅰ)専用の学習施設。
一方ポアノン第一施設は、短期課程(Ⅱ)と長期課程(Ⅱ、Ⅲ)の生徒の指導・教育と、短期課程(Ⅰ)の生徒の学習を行うとある。
短期と長期とは、何が違うのだろう。
例によって知識魔法が起動する。
『長期課程は8ヶ月間学習し、卒業後に義務教育学校10年生に編入するコースです。概ね地球上での年齢が15歳以上30歳未満で、死に瀕する状態からこの惑星に転移させられた者を対象としています』
なるほど、ここの生徒は地球上での年齢が15歳から29歳だったのか。
そんな事を思ったところで、次の説明が流れる。
『短期課程は3ヶ月で、卒業後は直接社会へと出るコースです。本人が地球上で30歳以上で、死に瀕する状態からこの惑星に転移させられた者を対象としています。
また地球で学習を行い、惑星オーフ上での学習を行わないタイプの移住コースも存在します。これは20歳以上で本人の希望により転移した者が対象です』
長期、短期、なしのコースについては理解した。
あと説明の『指導・教育』と『学習』の違いは何だろう。
日本語というより、翻訳元のオーフ共通語のニュアンスの違いなのだろうけれど。
『オーフ共通語の『教育』と『学習』をそのまま置き換えています。当施設の場合は、学ぶべき内容と学習進度を主に担当官がコントロールするか、生徒が自主的に行うかで分類しています』
第一施設の場所が気になった。
第二施設の並びで400mほど海側、強制労働施設の隣。
今の説明とこの位置が何かを暗示しているような気がする。
私の気のせいだろうとは思うけれど。
『南岸地区のニトレ大通りより海側は、公共施設用地として整備しています。ですので公共施設やそれに準じる存在である移民関係施設、国や街の資材置き場等が主体です』
知識魔法もそう言ってはいる。
しかし、エノフ指導員は、こう言ったのだ。
『自主的に学習してくれればコストは少なめで済む。しかし強制的に指導するとなると、その分の人件費なり場所代なりが必要だ』
そしてコストは、生徒の待遇に反映される。
これもエノフ指導員が、はっきり言っていた。
なら学習と記載されている短期と長期の(Ⅰ)の課程は、指導・教育となっている(Ⅱ、Ⅲ)の課程よりいい筈だ。
私としては今の待遇を守る為に、優等生であることを続けるべきなのだろう。
試験の成績と学習進度で。
昨日買ってきて、まずは女性情報紙『ネレノーラ』から、休憩時間や暇な時間を使ってちまちま読み進め中だ。
今読んでいるのは20ページ中10ページ目、公演情報や店舗情報の部分。
文法的なところは『言語Ⅰ』である程度やった。
わからない単語やイディオム等は知識魔法が教えてくれる。
だからゆっくりとであれば、記事を読むことは充分可能。
日本語の文章と比べると、ずっとずっと遅いペースになるけれども。
前回の外出で私とニナが前を通ったリラノ商業施設が載っていた。
『ペルリアの演劇界で最先端を行くヘケツタ率いる劇団ルヒロンの新作不条理劇『名づけえぬもの』、ついにポアノンで公演開始!』
そんな感じで公演場所である、リラノ商業施設にある劇場ハヒロンが載っていたのだ。
どれどれ、それではどんな内容の演劇なのだろう。
内容は……
私は理解した。私には難しい内容だと。
この説明のオーフ共通語が難しいのではない。その気になればかなりの精度で日本語に直せる自信がある。
ただそうやって日本語にしても、きっと理解出来ない。
とりあえず私向けではない事がよくわかった。
ついでに言うとこれを書いた批評家さんも、あまり理解していないだろうと感じる。
『斬新だ』、『前例が無い』、『難解』、『独自の世界』。
評価がこんな単語ばかりで、『面白い』とか『見るべきだ』とは一切書いていないから。
あとは服飾店についても、この近くに幾つかあるようだ。
ただここで長々と紹介している店は、やっぱり私向きではない気がする。
『流行の先端を行くブランド。ノルヒナ地方初出店!』
こういうのは今の私達向きではないだろう、きっと。
そんな事を思いつつ、店舗紹介欄を読んでいるところで、タブレットから通知音がした。
エノフ指導員が言っていた件だな。そう思いつつ、スマホを手に取る。
『一斉試験に向けて、情報提供体制を更新しました。また施設移動についての情報を公開しました。
① 寮の食堂に掲示板を設置しました。全員に知って欲しい情報を告知する他、新たな情報の提供や、提供情報の更新についてこちらで掲示します。また生徒同士の連絡にも使用可能です。
② 食堂の掲示板の内容は、タブレットからも見る事が可能です。またタブレットから書き込みの依頼をする事も出来ます。書き込み依頼については、毎日昼12時に掲示板に反映します。
③ 一斉到達度確認試験の成績と試験当日の学習の進度によっては、強制的に別の施設に移動になる事があります。詳細についてはタブレットで確認してください』
掲示板についても気になるけれど、まずは③について確認しておこう。
タップしてリンクを辿る。
『一斉到達度確認試験の結果等による、生徒に対する措置について』
そういった題の表示が出てきた。
『一斉到達度確認試験は、ここでの学習で必要な知識を得る事が出来ているかを確認する為、実施するものです。この到達度試験で常に8割以上の成績を確保出来ていれば、来年2月、義務教育学校10年生に編入しても問題ない学力が確保出来ます』
ここは妥当なことしか書いていないな。
そう思いつつ次へと読み進める。
『ですが、各生徒には各生徒に適した学習方針があるだろうと思われます。ですので試験の成績が多少悪い程度では、強制措置を実施する事はありません』
大規模に生徒を入れ替えるという事は無さそうだ。
成績が多少悪い程度というのが、少しだけ気になるけれど。
『ですが試験の総合成績が6割未満の場合は、何らかの障害が生じている可能性が高い。そう当方では判断します』
多少悪い程度というのは、8割未満で6割以上という事のようだ。
それでは障害が生じていると判断した場合は、どうなるのだろう。
『その場合、各自の学習の進度と達成度によって、当方が取るべき措置を判断します。
さて、ここでの学習は最低限24単位取得すれば、義務教育学校9年生で習った内容を概ね確保出来る様になっています。そして1単位には24単位時間の学習が必要です。
ここでの学習期間は8ヶ月です。ですので1ヶ月には72単位時間分の学習が必要となります』
確かに単純計算ではそうだなと思う。
1日に3コマ進めれば余裕でクリア出来る程度だから、本来なら問題はない筈だ。
『ですので試験実施時、直前1ヶ月の学習進度が72単位時間より短かった場合は、自主学習が不足していると判断します。ですが体調不良等の個人的事情がある場合も稀にありますので、強制措置の判断はもう少し低く、60単位時間を基準とします』
多少体調が悪い日があろうと、1日2単位時間分は進められるだろう。
1日4単位時間分やれば、半月は遊べるという計算だ。
若干甘いくらいの気がするのだけれど、どうだろう。
『以上の判断基準により、試験の総合成績が6割未満の場合は、次のような措置を講じることとします。
① 試験直前までの1ヶ月間に進めた学習の単位時間が60時間以下の場合は、自主的に学習をする事が困難な環境にあると判断します。
この場合は、余分な事項にとらわれる事無く、学習に専念できる環境へと移動していただきます。
現在ポアノン第二施設にいる生徒の場合は、ポアノン第一施設の一号棟へと移動となります』
『チアキが今いるのが、ポアノン第二施設です』
知識魔法が補足してきた。
そして画面には、『ポアノン所在の移民施設概要』についてのリンクがある。
そちらについても後で確認しよう。
という事で、その次の説明へ。
『② 試験直前までの1ヶ月間に進めた学習の単位時間が60時間以上の場合は、自主学習という方式が生徒に見合っていないと判断します。
この場合は、教師がいて、一斉授業を行う方式のカリキュラムへと変更になります。こちらはポアノン第一施設の二号棟への移動となります』
つまり『サボり』と『バカ』は区別して考えるという事か。
この辺の割り切り方は、日本の義務教育では出来ないなと感じる。
人権とか平等とかという名目で。
続いて『ポアノン所在の移民施設概要』へと飛んでみる。
『ポアノンには初期に建てられた第一施設と、より街に近い場所に建てられた第二施設があります。それぞれの施設の概要は、次の表の通りです』
どれどれ、ざっと表を目で追って確認。
まず規模が圧倒的に違う。
第二施設の定員が80名のところ、第一施設の移民の定員は最大400名。
専任職員数は第二施設が5名のところ、第一施設は10倍の50名もいたりする。
施設で行っている内容も違う様だ。
私のいる第二施設は、長期課程(Ⅰ)専用の学習施設。
一方ポアノン第一施設は、短期課程(Ⅱ)と長期課程(Ⅱ、Ⅲ)の生徒の指導・教育と、短期課程(Ⅰ)の生徒の学習を行うとある。
短期と長期とは、何が違うのだろう。
例によって知識魔法が起動する。
『長期課程は8ヶ月間学習し、卒業後に義務教育学校10年生に編入するコースです。概ね地球上での年齢が15歳以上30歳未満で、死に瀕する状態からこの惑星に転移させられた者を対象としています』
なるほど、ここの生徒は地球上での年齢が15歳から29歳だったのか。
そんな事を思ったところで、次の説明が流れる。
『短期課程は3ヶ月で、卒業後は直接社会へと出るコースです。本人が地球上で30歳以上で、死に瀕する状態からこの惑星に転移させられた者を対象としています。
また地球で学習を行い、惑星オーフ上での学習を行わないタイプの移住コースも存在します。これは20歳以上で本人の希望により転移した者が対象です』
長期、短期、なしのコースについては理解した。
あと説明の『指導・教育』と『学習』の違いは何だろう。
日本語というより、翻訳元のオーフ共通語のニュアンスの違いなのだろうけれど。
『オーフ共通語の『教育』と『学習』をそのまま置き換えています。当施設の場合は、学ぶべき内容と学習進度を主に担当官がコントロールするか、生徒が自主的に行うかで分類しています』
第一施設の場所が気になった。
第二施設の並びで400mほど海側、強制労働施設の隣。
今の説明とこの位置が何かを暗示しているような気がする。
私の気のせいだろうとは思うけれど。
『南岸地区のニトレ大通りより海側は、公共施設用地として整備しています。ですので公共施設やそれに準じる存在である移民関係施設、国や街の資材置き場等が主体です』
知識魔法もそう言ってはいる。
しかし、エノフ指導員は、こう言ったのだ。
『自主的に学習してくれればコストは少なめで済む。しかし強制的に指導するとなると、その分の人件費なり場所代なりが必要だ』
そしてコストは、生徒の待遇に反映される。
これもエノフ指導員が、はっきり言っていた。
なら学習と記載されている短期と長期の(Ⅰ)の課程は、指導・教育となっている(Ⅱ、Ⅲ)の課程よりいい筈だ。
私としては今の待遇を守る為に、優等生であることを続けるべきなのだろう。
試験の成績と学習進度で。
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