月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第12章 楽しい情報交換?

68 課題提出

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 さらにこの弁当を出している、ヒラリア共和国の商家の商品を確認したり。
 一通り商品を見て、これは間違いなく元日本人が関わっているだろうと、アキトと2人で頷き合ったり。

 表計算のほかに医療基礎も取ったほうがいいか、取るとしたらどれくらい学習を進めれば条件を満たすのか。
 そんなことを2人で考えたり。

 あれこれ話しながら何気なく時計を見て、そして気付いた。
 もう11時30分を過ぎている。
 つまり2時間半以上も話し込んでしまったということだ。

「ごめん。つい話し込んじゃって」

 話を長引かせたのは、私だという自覚がある。
 あれこれ聞いていたのは、主に私だったから。

「僕も気付きませんでした。でも、楽しかったです。それでは施設に戻りましょうか」

「だね」

 元々、人付き合いがあまり得意ではない私でも、アキトとはかなり話しやすい。
 ここにいる数少ない日本人だから、かもしれないけれど。
 2時間半も話し込むなんて、前世を含めても、1人の人間相手では私の最高記録じゃないだろうか。
 ちょっと前まで一階を占拠していたゾンビ連中を笑えない。

 なんてことを思いつつも、あれこれ話しながら施設へ。
 食堂前の廊下で別れて、私は2階の学習指導室へ向かう。
 もちろん『独自魔法作成Ⅱ』の課題提出のためだ。

 扉をノックしようとしたところで、『相談中』という札がかかっているのに気付いた。
 何の相談だろう。私と同じように、課題提出だろうか。
 知識魔法で確認できないか、試してみる。

『あと1分以内に終了します。終了後に入室可能です』

 なるほど、こういったことも知識魔法で分かるわけか。
 しかし、これはどうやって残り時間を判定しているのだろう。
 未来予知魔法みたいなものがあるのだろうか?

『そういった魔法は使用していません。今回は指導員が中で終わりを宣言したことと、この後の指導員の予定が入っていないことから判断しています』

 つまり予知魔法は使っていないし、そういう魔法が存在するかどうかについても、手がかりはないということか。
 そう思ったところで知識魔法の反応を待ったけれど、何も返ってこない。
 どうやら本当に、手がかりを与えない方針のようだ。

 さて、終わったようなので、扉の前を少し開けて待つ。
 30秒も経たないうちに扉が開いた。
 不機嫌そうな表情の女子生徒が出てきて、私を無視して扉を勢いよく閉め、そのまま階段へと去っていった。

 今の女子には見覚えがある。
 並んでいる順番を抜かして朝食を受け取ろうとして、動けない魔法をかけられていた女子だ。

 まあ、とりあえず指導室は空いたようだ。
 扉の『相談中』の札も裏返っている。
 きっと札は指導員が魔法で反転させているのだろう。
 なんて思いつつ、指導室の扉をノック。

「どうぞ」

 この声はナラハ指導員だな、と思いつつ中へ。

こんにちはハルトン。『独自魔法作成Ⅱ』の課題提出に来ました」

「わかりました。その魔法は、ここで使用可能でしょうか。また、必要な道具や素材はありますか?」

「ここで使用可能です。ただ、材料が必要なので、ここに出してもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

 ならば遠慮無くということで、相談室の机の上に、牛乳、グネタム粉、卵、砂糖、バター、テッテレルジャム、パルニナ豆、ミランダ酒、小鉢2つ、今朝の朝食のパンが入っていた平皿を準備。

「それでは、独自魔法『スイーツ作成魔法』を起動します」

 起動するとすぐ、知識魔法が私に問いかけてくる。

『この材料で作れるスイーツの種類と最大数は次の通りです。
 プリン5個、クレフポがテッテレル、クリームあわせて12枚、ナークラフント5個、テッテレルケーキ5個、タートデネーラソ4個、テオプロ5個、チーズケーキ5個、バスク風チーズケーキ5個、レアチーズケーキ5個、タポラ・クポ5個、ハレリナクランツ5個、ウエルフがジャム、砂糖がけ、クリームあわせて5個、クレンポロポ(クリーム選択可)10個、リクリアクケト22枚。
 何を何個作りますか?』

 我ながら、アイテムをたくさん入れたなと思う。
 これでも材料の関係で出てこないスイーツがいくつかあるのだけれど。

 そして今回、作るつもりだったメニューはちゃんと表示されている。
 割と手間がかかるし、材料も多数必要なスイーツだけれど、今回は「こんなこともできますよ」という見本として作ってしまおう。

「ハレリナクランツ、2個」

『ハレリナクランツ2個、了解しました。完成品はどこに出しますか? もしくは収納しますか?』

「その平皿に出して」

『わかりました。それでは調理します』

 卵2個をはじめ、いくつかの材料が消えたり、減ったりする。

『材料を確保しました。出ている材料は収納して構いません』

 私は残りの材料を収納。あとは待つだけだ。
 完全に魔法で調理している場合、時間はかなり短い。
 攪拌や泡立てだけでなく、加熱や冷却まで、ほぼ一瞬で済んでしまうから。

 30秒も経たないうちに、平皿の上に円形のケーキが2個、出現する。
 三層にバタークリームを塗り、外側に細かく粉砕して乾煎りしたパルニナ豆を張り付けた、ペルリア伝統のバターケーキが完成だ。

『魔法を終了します』

 知識魔法のこのメッセージが流れれば、魔法は終了。

「魔法は以上です」

 ナラハ指導員にそう申告する。
 指導員は頷いた。

「確認しました。一部、独自魔法作成Ⅱでまだ習っていない機能を使っているようです。ですが完全にオリジナルで作成されたものであることは、知識魔法によって確認しました。
 また、今回の課題である知識魔法を使った入力と出力も、きちんと使用されています。魔法の動作も意図通りのようです。評価はA、課題は合格と認めます」

 よし、これで来週から収入が200Cカルクフ増える。
 水着と外出用の服が、一歩近づいた。
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