ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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拾遺録6 俺達の決断

39 考えないようにしていたこと

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 ヒューマ達が部屋を去ったところで、俺は思わずため息をついてしまった。

「何というか、ヒューマがここまでしゃべりまくるとは思わなかったな。結果的には正しいけれど、してやられた気分だ」

 思い切り本音だ。
 確かにここまで話をまとめたことについては、感謝している。
 しかしそれ以上に、してやられたという感じが抜けない。

「それでも上手く話が進んだことは事実です。それにやるべきことはまだ残っています」

 サリアの言う通り、ここで話すべきことがあるのは確かなようだ。

『拠点に戻るよりも、ここで話を続けて決めるところまで決めてしまった方が、後が楽でしょう』

 ヒューマもそう言っていた。
 しかしこの先、どういう話をすればいいのだろう。
 俺にはわかっていない。

 ヒューマの話の続きと考えれば、どういった内容の話をするべきか、方向性くらいはわかる。
 信用が落ちたアコルタ子爵家、アコルタ領を再興させるためにどうするかについてだ。
 そしてヒューマはイレーネに、こうも言っていた。

「誰かの手を借りることを考えた方がいい。方法はすでに思いついているはずです。落ちているアコルタ子爵家の評判を挽回させることが可能な、反則技に近い方法論を」

 つまりイレーネは、その方法を思いついているのだろう。
 ヒューマ曰く、反則技に近い方法論を。
 しかし俺は、そんな一気に情勢をひっくり返せるような方法なんて思いつけない。

 ならこの場は、イレーネに話を聞いた方がいいのだろうか。
 そう俺が思った時だ。

「カイルさんは気付いていないと思うよ。気付いていないというより、考えないようにしているというのが正しいかも。西海岸、特に王都ラツィオでは色々な目にあったようだから、極力そういった方向から距離をとるようにしている関係で」

 これはイリアだ。
 なぜここで、俺が出てくるのだろう。
 考える前に、サリアの言葉が続く。

「ヒューマさんのやり方が強引だったのは事実です。それでも結論は間違っていないと私は思います。そしてカイルさんの方も、おそらく問題はありません。嫌っていたり苦手だったりする場合、割とわかりやすく出る人ですから」

 俺が、嫌っていない。
 そして今のサリアの言葉は、イレーネに向けたものだ。
 なら俺が嫌っていないというのは、イレーネか、それとも今まで会った誰かか。

 可能性として高いのは、イレーネ本人だろう。
 確かに俺は、イレーネを嫌ってはいない。
 むしろ好意を持っていると言っていい。

 そこまで考えたところで、俺はある可能性に気付いてしまった。
 まさか、これは……

「でもイリアさんやサリアさんはいいのでしょうか。私よりずっと長い付き合いですのに」

「大丈夫、カイルさんとはお互いそういう気は無いから」

「そうですね。パーティや集団クランのリーダーとしての能力は認めていますが、好みとは少し外れます」

 この話の流れは、間違いない気がする。
 しかしちょっと待って欲しい。
 こういう事態は想定していない。

 昨年4月の悪夢を思い出す。
 寝ている間に宿の俺の部屋、それも俺が寝ているベッドが、某貴族家の令嬢に侵入されるという事案が発生したのだ。

 翌朝何か騒いでいるなと感じて目を覚ましたところ、ご令嬢とその家の使用人を発見。
 さらに当該貴族家の当主だの何だのが宿に集まってきて、『俺が結婚を誓って令嬢を部屋に引っ張りこんだ』等と主張した。

 もちろんそんな覚えはなかったから、同意だの同行だのを断固として拒否。
 そのまま審判庁へ直行して、審査請求を実施。
 関係者の言動を心理魔法で確認し審判した結果、俺の潔白が証明された。

 ただ彼女は自分の意思ではなく、家の命令でやったのだろう。
 現場で動いた者のほとんども、やはり家の命令なり、貴族家の威光に逆らえなかったりで、動かざるをえなかったのだろう。
 だから処分決定時に、本当は情状酌量的な意見を入れたかった。
 しかしタウフェン公爵に反対された。

「もしもカイルが情状酌量を求める意見を出した場合、当該貴族家は情状酌量を出したということをもとに、『本件政治的に潰されたが、事実は違う。本人が情状酌量を出したのがその証拠だ』と喧伝されるおそれがある。気持ちはわかるが、やめておくべきだろう」

 結果、当該貴族家そのものは罰金で済んだが、ご令嬢はナイケ教会のトラン修道院送りとなり、貴族家の使用人のうち2人と貴族家を引き入れた宿の従業員1人は鉱山奴隷送り。
 さらに当該貴族家に雇われて俺に睡眠魔法をかけた魔法使いは、冒険者免許没収となった。

 後味が悪すぎたので、以後は十分に注意するようになった。
 結果、宿に入り込まれることは以後もあったけれど、審判庁に審査請求を実施するような事態は避けられている。
 最近は王都ラツィオでは、宿にすら泊まらないようにしている。

 そして、そういった話題だの考えだのから遠ざかるようにした。
 もちろんそういった心配がない相手なら、問題はないかもしれない。
 ただ一般の平民なんて場合は、相手の家族が貴族家に取り込まれてしまう可能性がある。
 それこそ先生の家の出身者のような特異な連中でもない限り、相手や相手の家に迷惑がかかる可能性が高い。

 だから余計に、そういったことを考えないようにしていたのだ。
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