ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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第18章 再会の季節

第150話 勉強と鍛錬の時間

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 その後無事に褒賞金を受け取りギルドを出る。
 少し歩いたところでセレスが私に尋ねた。

「フミノさんどうしたんですか? 難しい顔をしていますけれど」

 セレスも読めるようになったようだ。無表情と言われた私の表情を。
 その通りだ。カレンさんの事をどう説明しようか悩んでいる。ただ説明が難しい。それに誰かに聞かれるかもしれないこんな場所でカレンさんの素性を話す訳にもいかない。

 しかしカレンさんが誤解されるのは嫌だ。だから少し考えた結果はこんな台詞になる。

「カレンさんはいい人。でも説明が難しい。ゴーレム車でリディナと一緒に話したい」

「わかりました。それじゃまっすぐリディナさんのところに戻るという事でいいでしょうか」

 少し考える。
 魔法を教えるなら2~3時間くらいはあった方がいいだろう。そしてリディナ達と別れてからまだ2時間経っていない。

 一刻も早くリディナにカレンさんの事を言いたいのは確かだ。しかしあと1時間くらいは時間を潰した方がいいだろう。6の鐘までまだまだ時間もある事だし。

 1時間くらい時間を潰せて、かつセレスと行くのにふさわしい場所。
 ならこんなのはどうだろう。言いたい事、台詞の文章を考えて、間違っていないか考えてから口に出す。

「魔法を教えるならあと1時間くらいはあった方がいい。だから市場を少し回ろうと思う。
 出来合いの料理デーリシーはまだ買っていない。けれどそれはリディナと一緒の時に買いたい。
 それ以外には特に買わなければいけない物はない。でもセレス視点でこれからの旅にあった方がいいものが見つかるかもしれない」

「わかりました。確かにそれくらい時間がある方がいいですよね。それでは4の鐘が鳴るくらいまで市場を回りましょうか。どんなものが売っているか見てみたいです」

 私は頷いた。

 ◇◇◇

 セレスと市場を歩くと勉強にもなるし鍛錬にもなる。

 勉強とは買い物の仕方や話し掛け方だ。セレスとリディナ、割と違う。

 例えば買い物の方針。リディナは品物が並んでいたらその中で『一番いいもの』を基本的に購入する。他の同種のものと比べて多少高くても。
 値段も基本的に店の値付け通りだ。

 更に言うと購入する物を選ぶ際は自分の知識で選ぶ。リディナは基本的に知識が豊富で、一般的な産物や流通についても当然よく知っている。その知識と図書館等で得た最近の市況等から自分で判断する。

 一方でセレスは『一番お得なもの』を選ぼうとする。多少傷んでいる部分があってもそれ以上にお得なら選んだりする。多少見てくれが悪くても実際の使用に問題なければ気にしない。

 更にリディナ程の知識がない分相手に聞く。品物の状態を確認しながらとにかく話しまくる。その会話で今の時点でどれを買うべきかの情報を引き出して判断する。

 その辺はきっとリディナとセレスのいままで生きて来た環境の違いなのだろう。

 リディナの場合は私が対人恐怖症だという事を知っていて気にしてくれている。だから会話等を少なくしようとしている面もあるのだけれど。

 そしてそんな買い方をする分、セレスの買い物はどうしても会話が多くなる。そして店主等との距離も近い。 
 これが私にとっての鍛錬になる。対人恐怖症に対する。
 
 向こうからみればお客さん。そしてセレスは見た目も可愛いし会話も上手い。忙しい状況で無理に時間をとらせない等の配慮もしている。

 だから向こうがこっちに悪意を持つことはない。だから問題ない筈だ。

 その問題ない筈の人間の近くにセレスと一緒にいて、セレスの会話術を勉強。これが私にとっては安全かつそれなりに厳しい鍛錬となる訳で……

◇◇◇

 4の鐘が鳴るのが聞こえた。鍛錬の時間、終了。

「それじゃリディナさんのところに戻りましょうか」

 頷きつつ、厳しい時間が終わった事に心底ほっとしたりする。
 さて、市場から公園までは割とすぐ。行ってみるとリディナ達はゴーレム車の外で魔法の練習をしていた。魔力の動きから見るとどうやらひととおり教え終わった後のようだ。

「フミノ、セレス、おかえり」

「あ、フミノさん、本当にありがとうございました。おかげで3人とも魔法を使えるようになりました」

 あの普段は丁寧だが時に迫力のあるミリィさんを中心に3人とも私に向かって頭を下げる。

「お礼はいい。大した事ではないから」

「でもこんなに簡単に使えるなんて思わなかったよね」

「そうそう。確かに誰でも使えるようになるっていう発表はあったけれど、その後何にもなかったし」

 イーリアさんとサアラさんがそう説明。なるほど一般にはそんな感じだったのかと私は理解する。

「ところでフミノ、セレス。注文したあの布が出来るの、明日の夕方だよね。出来れば明日はその頃まで、私1人で出かけていいかな。少し昔の知り合いのところを回りたいのだけれど」

 私と違ってリディナは此処が嫌いで逃げて来た訳では無い。ならそういう事も必要だろう。

「問題ないと思う」

「私もそれでいいと思います」

「ありがとう」

 リディナが私達に頭を下げる。

「それじゃ明日9の鐘過ぎに、寮の前ね」

「わかりました。それでは明日」

「またね、リディ」

「それでは本当にありがとうございました」

 3人はもう一度私達に頭を下げると、公園の外へ向かって歩き始める。

「ごめんね、わざわざ時間をとらせてしまって。それじゃ宿をとりに行こうか」

「それなんだけれど実は話がある」

 リディナに説明しなければならない。セレスにも。

「何? どうしたの?」

「詳しくはゴーレム車の中で」

 特にカレンさんの隠している出身については他に聞かれたくない。
 リディナは何かあるとすぐに察したようだ。

「わかった。それじゃ中で聞くね」

 私達3人はゴーレム車の中に入り、そして扉を閉めた。
 
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