ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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第18章 再会の季節

第151話 予想外の権利

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 話すべきなのはたった2点。
 〇 カレンさんの家に誘われた事
 〇 カレンさんが元々王族だった事
 これだけだ。

 それでも説明し終えるまでには結構時間がかかった。これはきっと私の会話能力のせいだろうと思う。

「まさかカレンさんが元王女だったなんてね」

「私も驚きました。まさかそんな知り合いがいてあんな風に自然に話してくるなんて。どうして知り合ったのかは今の話でわかりましたけれども。
 でも何か私、あの時に問題なかったでしょうか」

 セレスが不安がっているようだ。ならば一言言っておこう。

「大丈夫。カレンさんならその辺問題ない。むしろ特別扱いするとかえって悲しい思いをすると思う」

 2人の反応については、まあそうだろうなと思う。
 ただリディナに対してこの件を言わなかった事について、少しばかり良心の呵責が無いわけでもない。

「言わないでいて悪かった。リディナに話さず今日この後の事も決めたし」

「ううん、それは仕方ないと思う。事情が事情だし。それにカレンさんなら、夕食や宿泊をお願いしても大丈夫だと思うよ」

 納得してくれたのでほっとする。
  
「それじゃあと1時間半ある訳か。買い物は終わった?」

 そう言えばカレンさん以外の事について言うのがまだだった。

「魔法金属は買った。そこでゴーレム製造者登録を勧められたから登録した」

「魔法金属を含め、金属類が国指定の鍛冶組合及び取引所で2割引きになるんです。また魔法金属を取り扱っていない場所でも、取り寄せる事が出来るようになるそうです。

 本来はゴーレム製造と販売を業務として行う際に必要となる資格らしいです。年間売上が正金貨10枚500万円を超える場合、及び商業ギルドでゴーレム販売を取次ぎする際には必要と言っていました。

 なお登録と同時に商業ギルドの正会員としても登録されるそうです。登録料は初回登録時のみ小金貨1枚10万円で、それ以外にはかからないそうです。

 登録後の義務は住んでいる場所の報告だけです。年1回以上、近くの商業ギルドで報告だそうです。
 拠点を持たずに移動している旨を話したら、3ヶ月に1度程度、商業ギルドに居場所を報告すれば十分と聞きました。

 もともと貴重なゴーレム登録者を国や商業ギルドが把握する為にはじめた制度。だから、基本的にはメリットを大きくしてあるそうです」

 セレスありがとう。私が説明するより遥かに早くて正確。本当に助かる。

「商業ギルドの正会員に登録もされるの。それで小金貨1枚10万円は安いよね」

 どうやらリディナは私達が思ったのと違う事に利点を感じたようだ。

「どういう事でしょうか」

 聞いたのは勿論セレス。

「商業ギルドの正会員はね。本来は正金貨100枚5,000万円以上の供託金と2名以上の正会員の保証がないとなれないのよ。だから普通の商家程度なら地方会員どまりで準会員にもなっていない方が普通。

 正会員ともなると地方の商会なら相当な大手よ。普通は最低でも3~4カ所以上の拠点を持っているような商会ね」

「正会員は他に比べてどんなメリットがあるんですか」

 セレス、私が思ったのと同じ事を聞いてくれるので大変に助かる。

「まずは信用かな。大きなお金を動かすような場合でも正会員ならまず問題は起こさないだろうという信用。でもこれはあまりうちのパーティには関係ないかな」

 確かにそうだ。そんな大金、そもそも持っていない。
 ただリディナの解説は終わっていないようだ。

「次に卸市場での売買が出来る事ね。正会員なら国内どこの卸市場でもどんな種類の物でも優先的に売買が出来る。一方で地方会員はその地方だけ。準会員は所属している部会の業種だけ。

 フミノのアイテムボックスならいくらでも物が入るよね。だから普通の市場ではなく卸市場で商人相手に売っている物を商人相手の値段で購入できる訳。

 金属は2割引き購入が出来ると言っていたけれど、卸市場で食料を買う場合ならもっと割引率が高くなる筈よ。概ね3割引き程度かな。その代わり購入単位は大きくなるけれどね」

「でもそうやって買うと1回に買う量が凄く多くなりますよね。普通に生活する分にはあまり関係ないような気がします」

 確かにセレスの言う通りだ。しかしその反論もリディナの予想の範囲内だった模様。表情を見てそう感じる。

「勿論そうだけれどね。あと一番大きいのが何処でも業務として商売が出来る事。勿論、国や領主等によって禁止されている場所は除くけれどね。

 地方会員は所属している地方でしか商売が出来ないし、準会員は所属している部会の業種に関わる商売しか出来ない。業態もそれぞれ細かく決まっている。大店舗販売とか訪問販売とか屋台専門とか。

 正会員は単一の商売ではなく様々な形態の商売をまとめて運営している事が多いからね、許可に業種や業態の縛りが無いの。つまりどんな業態でもどんな業種でも出来る。

 まあ収益が出る場合は帳簿に記載して商業ギルド経由で国に税金を納めなければならないけれどね。それは準会員でも地方会員でも同じだから。

 つまりフミノを代表にすれば何処でどんな業種でもどんな業態でも商売が出来る訳。買い付けも販売もあるいは何かの提供でも。商業ギルドの後ろ盾があるから他のギルドを通す必要は一切ない。

 これってかなり大きい事だよ。特権と言い換えてもいいくらい」

 うーむ、力説されてもいまひとつピンとこない。セレスも同じようだ。
 その雰囲気を察したのだろう。リディナは間を置いて、そして口を開く。

「たとえば正会員の資格を持っているとね、こんな事だって出来る。あくまで例だけれどね。

 貧しい村があったとする。その村が貧しいのは近くの商人が結託して安いお金で収穫物を買い取っているから。買取価格が低いからいつまでたっても村は貧しいまま。

 普通ならこれを是正する為には領主なり国なりに届け出るしかない。でも処理にそれなりにかかるだろうし、領主がそれらの悪徳商人と結託している場合すらある。

 でも商業ギルドの正会員だとね。その取引に介入できるの。買い付け時に相手が正会員なら同等の優先順位で、それ以外なら優先的に買取価格を提示して買い取る事が出来る。

 これは手元にそれだけのお金がある場合に限らない。買取価格より高く売れるという確信があれば商業ギルドにお金を借りてもいい。正会員なら低利で正金貨100枚5,000万円までは即座に借りられる。普通は入会金が担保になっているから。

 そして正会員だからこれを卸売り市場で売ることも当然出来る訳。その地方が駄目でもほかの地方でね。
 どうかな。どれだけの事が出来るか、想像出来た?」
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