ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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拾遺録2 イリアちゃんの寄り道

その6 別れ

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 翌朝の食事はテイクアウトではなく作る事にした。
 すぐ食べられるものを出来るだけ残しておきたかったから。
 勿論ここに残るエミリオ君用としてだ。
 それ以外の食料も全部置いていく。

 此処からカラバーラまでは結構遠いから、途中1食は必要だ。
 しかしそれくらいは途中で買えばいい。
 街は幾つかあるから。

 さて、今日の朝食で作るのは焼きそばにしよう。
 村の勉強会でもお馴染みのメニューだ。
 ただしリディナ先生特製ソースは此処には無い。
 だから味つけは猪魔獣の脂身と塩とハーブ。

 ただソースを使わないこの作り方も何度かやった事がある。
 だから味はそれほど悪くない筈だ。
 麺はまあパスタ用の乾麺を使ったけれど。

「この匂い初めて。でも美味しそう」

 作っている最中からジャン君がそう言って覗き込む状態。
 食べ始めたら案の定、好評で皆もりもり食べてくれた。
 エミリオ君が話を切り出すまでは。

「南にきちんとした設備があって、昨日教わったような魔法や文字の読み書きを教えてくれる場所があるそうなんだ。午前中は働いたり勉強したりする必要があるけれど、3食美味しいものが食べられるし家もちゃんとしていて服も貰えるらしい。

 今日、これを食べたら皆、そこへ行って貰おうと思う。イリアが馬車で連れて行ってくれるそうだから、途中の心配はいらない」
 
「エミリオ兄も行くんでしょ、一緒に」

 何かを感じたのかリアラちゃんがそう尋ねる。

「いや、俺は行かない。オースト爺から此処の見回りを引き受けたからさ。それをやらなきゃな」

「なら私も残る!」

「俺も!」

 リアラちゃんとジャン君が続けてそう言ったところで。

「駄目だ」

 エミリオ君が断ち切るように言った。

「ここを見回るのは俺1人でいい。向こうへいけばもっと魔法を覚えられるし文字の読み書きも出来るようになる。此処よりもっと美味しいものだって食べられる筈だ。
 だから皆はイリアについて行ってくれ」

 リアラちゃんとジャン君が黙り込む。
 代わりにレッツア君が不思議そうな顔で尋ねた。

「エミリオ兄は行かないの?」

「ああ、兄ちゃんは此処でやる事があるからさ。だからレッツアも向こうへ行って、しっかり毎日頑張るんだぞ」

 正直見ていられない。
 でもだからと言って私にはどうする事も出来ない。
 下手な事を言えば嘘になるし。

 皆を誘わなければよかったのだろうか。
 でもそれはそれでエミリオ君が余計大変な気がする。
 どうすれば良かったのか、どうすればいいのかわからない。

 先生達ならどう判断するのだろう。
 どういう結末にするのだろう。

「イリアもそんな顔をするなよ。俺は感謝しているんだ。此処でも1人なら余裕でやっていける。面倒な奴らもおかげでいなくなったしさ。
 ジャン、リアラ、サッチャ、ビーノ、レッツァ。向こうへ行けば今食べているのと同じくらい美味しいものが食べられる。それに魔法だってもっと覚えられるし使えるようになる。
 だからさ、皆向こうでしっかり勉強して一人前になってくれ。そうしたら向こうで暮らすなり、こっちへ戻ってきて俺を手伝うなりしてくれればいい」
 
「それまで待っていてくれる?」

「勿論だ」

 エミリオ君は食器を置いてリアラちゃんの頭を撫でる。

「俺はここにいる。何なら会いに来る事だって出来る筈だ。いなくなる訳じゃないからな。
 だから心配するな。いいな」

 私は間違った事はしていない筈だ。
 それにエミリオ君はこれで生活が大分楽になる筈なんだ。
 たとえ向こうへ行かないにしろ。

 そう思うのだけれど、それでも割り切れない何かが残る。
 いっそエミリオ君を睡眠魔法で寝かせて、起きる前に連れて行ってしまおうかなんて事も考えた。
 でもそうするのはやはり間違っている気がした。
 だから何もしないし、出来ない。

 わからないまま食事終了。
 そして出かける支度となる。
 支度と言っても大した事はない。

「服も寝具も食器も向こうにあるから心配しなくて大丈夫だよ。
 だからコップとか、本当に身の回りで使うもの中心で」

 本当は何も持って行かなくても問題無い。
 身の回りで必要なものは全部農場にある筈だから。
 それでもある程度の物は持っていった方がいい。
 此処で暮らしたという思い出の為に。

 集めたものを持って行く方の自在袋に入れる。

「それにしても悪いな。何から何まで世話になって」

「ううん。私もかつて世話になった身だしね」

 昨日も通った足場の悪い場所を通って、街へと続いている道へ。

「それじゃゴーレムとゴーレム車を出すよ」

 自在袋から出した瞬間。

「えっ!」
「うわっ!」
「何だ!」

 エミリオ君達から驚きの声が響いた。

「こんな物まで自在袋に入るのか」

 私はエミリオ君に頷く。

「ゴーレムもゴーレム車もそこまで大きくはないよ。自在袋に入れる事を前提にして作ってあるから」

 ゴーレムのジェーンは普通の馬よりやや小柄。
 サリア達のパーティが使っているグラニーと同じシリーズだ。
 ゴーレム車も農場にある大きいのやサリア達のより小さい。
 勉強会を2番目に卒業したルチア達が使っているのと同じタイプ。

「ゴーレムって、これが動くの?」

 リアラちゃんに言われて、そう言えばゴーレムはあまり一般的ではないのだなと気付く。

「そうだよ。これから行く農場には犬型や人型のゴーレムがいっぱいあって、大変な作業はそれを使うの。
 皆もすぐ使えるようになると思うよ」

 さて、そろそろお別れだ。
 でもお別れする前にこれを渡しておかないと。

「それじゃ最後にエミリオ、これ受け取って」

 ベルトで腰に固定するタイプの自在袋をエミリオ君に渡す。

 私は自在袋を3つ持って来たけれど、2つは私専用に調整してあって私しか使えない。
 でも今エミリオ君に渡した自在袋だけは汎用仕様なので誰でも使える。

 今回は納品の為、ゴーレムを10台運ぶ必要があった。
 自在袋2袋だとぎりぎりなのでもう1つ持たされていたのだ。
 これならエミリオ君でも使える。 
 サイズ調整可能なベルトで固定するタイプなので、エミリオ君の身体に装備するのだって問題ない。

 中にはテイクアウトの食事や肉、野菜、パン等の食品とおまけが入っている。
 今朝、他の自在袋から移動させておいたのだ。

「これって……こんな高価なもの受け取れねえよ」

 エミリオ君は自在袋が高価な事を知っているようだ。
 しかし問題ない。
 ちゃんと言い訳は考えてある。

「これは買ったものじゃなくて私の先生が作ったものだから大丈夫。中も食べ物だけでお金は入れていない。
 それにこれを渡すのはエミリオだけの為じゃない。私や皆が少しでも安心する為。だから受け取って」

 お金はあえて入れなかった。
 エミリオが受け取りにくいだろうと思ったからだ。

 おまけに入れたのは寝袋一式。
 寝袋を入れたのはここで使っている布団、ボロボロで寝心地が悪そうだったから。

「わかった。大事に使うよ」

「それじゃ皆、エミリオに挨拶してゴーレム車に乗って」

 離れがたいが仕方ない。
 そうしないと出発できないから。

「それじゃ、またね」

「ああ。皆、元気で頑張るんだぞ」

 全員がしっかり乗っていることを確認して私はゴーレム車の扉を閉め、中の椅子に座る。
 ゴーレムのジェーンがゆっくり歩き出した。
 偵察魔法で見えるエミリオの姿が小さくなっていく。

 普通の視力で見えなくなったところで私は高速移動魔法を起動した。
 早く着きたいからというのもある。
 でもそれ以上に後を振り返らない為だ。
 ジャン君達ではなく私が。
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