ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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拾遺録2 イリアちゃんの寄り道

その12 作戦

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 宿屋買い取りの話はあっさりまとまった。

「建物が古いしボロいから最近は客も少ない。正直この歳では大々的に改装してなんて気にもなれん。だから大助かりだ」

 という事で宿屋の看板を外し、扉を閉め、商業ギルドへ行って査定と売買取引を依頼。
 全部の手続きが終わったのはお昼近い時間だった。

 このあとアリステラさんは荷物整理や引っ越しをするそうだ。

「次に住む部屋はもう空いているしな。商業ギルドの引っ越しサービスで大容量自在袋を借りたし、明日朝までには荷物運びも終わるじゃろう」

「それじゃ明日10の鐘の頃、受け渡しに此処へ来るという事でいいですか?」

 代表してカイルさんが尋ねた。

「そうじゃな。よろしく頼む」

「それではお願いします」

「こちらこそな」

 カイルさんと一緒に頭を下げ、商業ギルドの前でアリステラさんと別れる。

「とりあえず飯を食べながら今後の事を話そうぜ。エミリオならこの辺の安くて美味いお勧めの飯屋を知っているだろ。金は俺が出すからさ、案内頼む」

「わかった」

「出来ればエミリオが世話になったところがいいな」

「わかった。ちょうどいい店があるから案内するよ」

 エミリオ君、微妙に元気が無くなった感じに見える。
 何故だろう、そう思ってすぐ気付いた。
 おそらくこれで自分の仕事は終わりだと思っているのだろうと。

 カイルさんが頼んだのは拠点探しだけだ。
 それ以降の話はまだしていない。

 しかしだからこそ、『飯を食べながら今後の事を話そうぜ』なのだろう。
 だから私はまだ何も言わないでおく。

 エミリオ君が案内してくれたのは買った宿から歩いてすぐの場所だった。
 店は賑わっていたけれど、ちょうど端のテーブルが空いたのでささっと陣取らせて貰う。

「初めて来た店でおすすめがわからないからさ。注文はエミリオに任せる。俺もイリアもよく食べる方だから、そのつもりで」

「わかった。ならスパゲッティ大盛を3種類頼んでわけて食べる形でいい?」

「楽しそうだな。それでいこう」

 そんな感じで注文。

「さて、これで無事拠点も手に入った。それで改めてエミリオに頼みがある。あの家に住み込みで、買物や掃除、その他の作業で俺を手伝ってくれないか」

「いいのか」

 エミリオ君、あっさり食いついた。

「勿論だ。エミリオは市場の人達とも顔見知りでいい関係のようだからさ。俺もイリアもこの街に不慣れだし。
 あの宿屋なら部屋は余るほどある。俺が1部屋、イリアが1部屋使っても全然余裕だろ。何なら手伝いにあと何人か雇ってもいいくらいだ。すぐに増やすつもりは無いけれどさ。あまり俺の冒険者級を知られたくないから」

 つまり誰にも頼れない子供を見つけたら連れてきていい。
 そういう事だろう。
 エミリオ君は頭がいい。
 すぐにその事に気付いたようだ。

「いいのか、そんな……」

「そのかわり結構大変だと思うぞ。俺もイリアも冒険者だから、魔物や魔獣を狩ってくる。その始末で皮剥ぎや解体の技術は覚えて貰わなきゃならない。場合によっては討伐の現場についていって貰う事もある。当然それなりの腕、近接戦闘や魔法も身につけて貰わなきゃならない」

 つまり冒険者としての基本技術を教えるぞ、という事だな。
 当然その事はエミリオ君にも伝わっている筈だ。

「現場に行かない日も大変だ。部屋が多いという事は掃除も当然大変になる。ただこれはイリアが便利な魔法を知っている。それも当然学んで貰わないとな。あとは金勘定もいずれやってもらおうと思っている。だから今日から文字の読み書きと計算は特訓だ」

 それ以外の魔法や文字の読み書き、計算も教えるという事だ。
 勿論エミリオ君にも伝わっている。
 顔をみれば一目瞭然。

「見回りの事についてはイリアから聞いている。この街にとっても必要だろうから続けてくれ。ただ拠点は向こうの家ではなくこっちに移してくれ。部屋は幾らでもあるから問題ないだろ。条件は以上だ。ちょい厳しいかもしれないけれどどうだ?」

「んなの、断れる訳ねえだろ……」

 エミリオ君、泣き出してしまった。
 
「ずるいぜA級冒険者、最初からそのつもりだっただろ」

「そんな事は無い、というと嘘だな。ずるいのも確かだ。エミリオが信用できるか知る為、今まであえてこの事を言わなかったんだから。
 ただおかげでエミリオが信用できる奴だという事がよくわかった。街の人からも好かれているようだしさ。
 だからこれは一般依頼じゃない。A級冒険者である俺からエミリオへの指名依頼だ。どうだ、受けてくれるか」

「んなの、断る訳ねえだろ」

 微妙にエミリオ君、拗ねている感じだ。
 一方カイルさんはにやりと笑みを浮かべて頷く。

「なら決まりだ。それじゃ次の話だ」

「まだ先があるのかよ」

 ここは私も同意だ。
 てっきりエミリオ君が同意してくれてハッピーエンドだとばかり思っていた。
 しかしカイルさんの感じだと、まだまだ先があるようだ。

「今のままだとエミリオはこの街を離れられないだろ。孤児院も頼りになる教会も無いんだからさ。
 それに俺達3人だけでは孤児が増えた場合、養いきれなくなるかもしれない。更に言うと冒険者は儲かる代わりに収入が不安定だ。この辺の魔物や魔獣が減ればそれだけで収入は激減する。
 だから出来れば定期的な収入源の確保とかを考えたいんだ。安心出来る場所として定着させる為にもさ」

 カイルさん、そこまで考えている訳か。
 これは流石というべきなのか、考えすぎと言うべきなのか。 
 私にはちょっと判断がつきにくい。

「今すぐそこまで考えなくても大丈夫じゃないのか」

 エミリオ君も私と同じ考えのようだ。

「まあそうかもしれないけれどさ。実際収入がゼロでも2~3年は俺の貯金でどうにでもなる。でもそれ以上先の事を考えれば、これだけじゃまずい気がするんだ。
 俺は冒険者しか能が無いからその辺よくわからねえ。だから俺より詳しい奴を2人程呼ぼうと思う。1人は教会とか孤児院の事について詳しい奴、もう1人は金儲けが得意かつ大好きな奴、どっちも俺と同じパーティのメンバーで、イリアとも知り合いだ。奴らを呼んで話を聞けば、もう少し安心して此処にいられるだろう」

 カイルさんの説明ですぐに誰かはわかる。

「アギラさんとヒューマさんですか?」

「ああ」

 カイルさんは頷いた。

「アギラは元々セドナ教会の開拓農場出身で、今も教会傘下の施設にいる。孤児院とかにも当然詳しい訳だ。
 ヒューマを呼んだのは勿論金関係について教わる為だ。あいつの事だ、此処でも孤児院を何とかする程度には金を稼ぐ方法を知っているだろう」

迷宮消去者ダンジョン・イレーサーの2人が来るの?」

 エミリオ君が身を乗り出す。
 それだけ憧れの存在だったのだろう。
 A級冒険者という存在が。

「来てくれるかはわからないけれどな。とりあえず手紙を出そうと思う」

 カイルさんはそう言うが、来てくれると思っているに違いない。
 勉強会の皆はそういう仲間なのだから。
 少なくとも私はそう思うし、信じられる。
 あ、でも待てよ。

「アギラさんはともかく、ヒューマさんは行商をしていて動き回っているんだよね。何処か固定の連絡先があるの?」

「ああ。レズン経由で全員と連絡が取れるようになっている。といってもすぐに連絡がとれるかはわからないけれどな。
 レズンは店を買ったから移動する予定はない。だから残りの俺達は3ヶ月ごとに居場所を報告する約束をしているんだ。ついでにレズンが手紙の取り次ぎもしてくれるって訳さ。
 まあこういう仕組みだから、最悪半年は連絡がつかないなんて事もある。でもまあ、アギラはラテラノの開拓地にいる筈だし、ヒューマも時々はレズンの店に顔を出すらしい。
 だから半年まではかからないとは思うけれどな」
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