ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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拾遺録6 俺達の決断

27 イレーネも気付いた

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 ただ現状を、エルネストさんが一方的に話しただけではない。
 イレーネが図書館等で調べた結果をもとに質問して、エルネストさんが答えてというやりとりを繰り返した結果。

「これでは経済活動を殺して領を貧しくしているようなものです。ここまで酷い状態になっているとは、私も気づきませんでした。領主家の一員として、恥ずかしい限りです」

 イレーネがうなだれる気持ちはわかる。 
 図書館で調べた状態でも、すでに十分に酷い状況だった。
 だが今エルネストさんと話してわかった実情は、それ以上に酷く、深刻なものだったのだ。

「レノアが何を考えているのかは、私にはわかりません。ですが個人的な贅沢のためだけにしては、不可解な点があまりに多いと感じます。
 それにベニーニ商会はアコルタ領が貧しくなると、経営的に不利になるはずです。それにベニーニ商会の商会長であるマルコミュゼルですが、そこまでのことを自分で仕出かすほどの頭脳や構想力があるようには思えません。領内一の商会という資金力で関係者を縛ったり、前例踏襲的に物事を進める他は、誰でも思いつく程度のことをするのがやっと程度です」

 意外な話が出てきた。
 これまでのエルネストさんの話では、黒幕はレノアとベニーニ商会会長のマルコミュゼルだったはずだ。
 しかしエルネストさんは、黒幕はマルコミュゼルではないと考えているらしい。
 またレノアのせいと考えるのも不可解だと。

「現状がマルコミュゼルの仕業ではないとすれば、全てはレノアの仕業ということでしょうか」

 イレーネも疑問に感じているようだ。
 エルネストさんは首を横に振り、そして返答する。

「わかりません。経済的に競争関係にある近隣の領主家が関わっていることも考えられます。しかしそうだとした場合、領主館かベニーニ商会に指示役がいるのが普通です。ですがそうのような人物の情報は一切ありません。
 そして現在の領政は、これ以上ないという勢いで悪化しています。領内事情をよく知っている者が、アコルタ領を潰すために綿密に計画を立ててやったとしか思えないほどです」

 そうエルネストさんが言う根拠は、説明の中で何度も出てきた。
 騎士団を廃止し衛士隊を再編した際、部隊が相互監視して動けない様に中隊長や小隊長級の人事を調整したこととか。
 独自の新税によって領内の3つの村を一気に寂れさせたこととか。
 領主館の管理職の要所要所に無能な人間を入れ、業務が滞らせ、領内の状況把握すら出来ない状況にしていることとか。

 エルネストさんの説明に出てきた出来事のほとんどは、実際に起こった出来事なのだろう。
 それでも全面的に信じるにはどこかおかしい。
 何処かがごまかされている。事実を推論で上書きしている。
 そんな違和感があるのだ。

 ただ領政が危機的にあって、早急に対処する必要があるのは確かだ。
 破滅に向かっているのは間違いない。
 止めるためには、一刻も早く領主館を制圧し、領政を正常化させる必要がある。

 そしてそれは、アコルタ子爵家自身の手で行うのが望ましい。
 ならば現在も領主であるダニエーレの命令という形を使うのが無難だろう。
 一刻も早くブッカロの村に行き、身柄を確保する必要がある。

「わかりました。本日まで長い間、大変な苦労をおかけしました。これは今まで動かなかった私の怠慢です。早急に動いて、正常化を図ろうと思います」

「いえ、こちらこそ力及ばず、このような事になって申し訳ありません。ですがイレーネ様、十分にお気をつけください。背後で指示をしている人物の姿が見えません」

「わかりました。十分に気をつけましょう。それでは本日はこれで失礼します」

 エルネストさんの家を出て、衛士がまだ寝ったままの門を過ぎてから、ゴーレム車を出して乗る。

 深刻な表情のイレーネが口を開いた。

「どうやらアコルタ領は、思った以上にひどい状態だったようです。エルネストさんはアコルタ家に恩義があるので、フリスト叔父のことを悪く言えません。ですがどうやら、おじの時代からかなりおかしくなっていたとしか考えられません」

 イレーネも気付いていた様だ。

「エルネストさんの話が確かなら、フリスト叔父が領主代行になって2年目の時点で、すでに領政はおかしくなっていたのでしょう。レノア一派に押し切られた結果としては早すぎます。私が調べたうちの、2年より更に前の一見正しそうに見えた書類も、巧妙に改ざんされたものだったのかもしれません。あの通りの支出がされていたのなら、この道に草が生えるのが早すぎます」

 俺が感じた事と同じだ。

「ああ。おそらくはその通りだろう。それにレノアは領主代理の妻に過ぎない。いくら領内事情に詳しいからといって、それだけでフリスト氏を抑え、ベニーニ商会と組んで領政を操るというのは無理だろう、普通ならば」

「その通りです」

 イレーネは頷いて、そして続ける。

「原因が何かは、まだはっきりしていません。ですが今のエルネストさんの話を考えると、フリスト叔父が主因のような気がします。レノア一派やベニーニ商会ではなく。
 どちらにせよ、アコルタ家の問題であり、責任であるのは間違いありません。子爵家としてふさわしくない。そう認めざるを得ないかもしれません。
 ですからカイルさん、もしアコルタ家が力を貸すのに値しないと判断するなら、容赦なく手を切っていただいて構いません。もし手伝っていただいても、領地運営がこの状況では、冒険者としての報酬を支払うのは難しいでしょうから」
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