元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀

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第1章 とりあえず最初の釣りをするまで

第16話 住む家の決定

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 ミーニャさんが似たような条件の物件を幾つか出してくれた。
 その中から家賃や間取り、場所を考慮して絞っていく。
 
 5分程度考えて三カ所に絞った。
 いずれも海沿いなのは俺にとっての必須条件だから。

 海と川両方に近いのはクリスタさんから資料を貰った物件。
 しかし海岸の状態がどんな状態かは今までの地図ではわからない。
 あと家の様子も実際に見ないとわからない。

「それではこの3件を実際に見て決めましょう」

 という事で、ミーニャさんと部屋の下見だ。
 商業ギルドから出て10歩位のところでミーニャさんは大きく両手を上げて伸びる。

「ふにゃあ。外へ出るとほっとするにゃ。商業ギルドは疲れるにゃ」

 ミーニャさん、先程までと口調が変わった。

「どうかしたんですか?」

「商業ギルドニャと言葉遣いまで注意されるニャ。ニャのでギルド内にいる時は疲れる発音して丁寧に喋っているのニャ。でも猫獣人の舌はああいう丁寧語を喋りにくいのニャ」

 なるほど、獣人と普通人とはそういった違いもあるのか。今聞いて初めて知った。
 前世でそういう話を聞けるような獣人の友人がいなかったから。

「なら大変ですね、仕事中は」

「元々ミーニャは冒険者ギルドの職員ニャ。そして冒険者ギルドニャらそんな煩い事は言われないニャ。
 ニャけど講習で6ヶ月、商業ギルドの方に来ているのにゃ。ニャのでこの5ヶ月、毎日ニャれない発音でニャれない言葉使いを強要されているのニャ。
 だからこうやって仕事で外に出るとほっとするニャ」

 なるほど。

「ミーニャさんは元々冒険者ギルドの方なんですね」

「そうニャ。一応これでもC級冒険者ニャ」

 なるほど。でもそうだとすると。

「その年齢でC級冒険者ならかなり優秀なんですね」

 俺より年上だろうとは言えせいぜい18歳位、20歳までは行っていないだろう。
 そしてドーソンにはC級以上の現役冒険者は7名しかいない筈。
 なら相当優秀だと思っていい筈だ。

「討伐メインの冒険者ニャんて疲れるし儲からないのニャ。去年は特に魔物が出ニャくて家賃が払えなくニャりそうだったので、諦めて冒険者ギルドに就職したのニャ。
  冒険者ギルドはC級以上の冒険者ニャと簡単に職員採用してくれるのニャ。でもまさか、商業ギルドで研修があるとは思わなかったニャ」

 なるほど。

「でもC級なら討伐以外にも護衛とか輸送とか、結構依頼があるのでは?」

「猫獣人は瞬発力が命で、持久力は全く無いのニャ。だからゆっくり一日中動くなんて感じの護衛や長距離移動が必要な輸送ニャんてのは無理ニャ。
 結局討伐と迷宮探査以外の依頼は向いてないと諦めたのニャ。そして迷宮がある町は柄が悪いのが多くて好きにニャれニャかったのニャ」

 なるほど。
 なんて話をしながら歩いて、そして目的地のひとつである物件の前へ。
 この物件は3つの物件の中で一番東にある。
 川から最も遠いけれど、そのハンデを覆せる存在かどうか。

「まずはこの物件、書類で言うと7番からニャ」
 
 ミーニャさんはそう言って、門扉の鍵を開ける。

 ◇◇◇

「それでどうニャ。どれがいいか決まったかニャ」

「難しいですね」

 3件目の家で俺は考え込む。

「家そのものはこの家が一番いいです。部屋数が多くて広いですから。
 ただ2件目は町の中心や冒険者ギルドに近いですし、1件目は家賃が安いです」

 あと1件目の近くには港がある。桟橋の先端あたりは潮通しがいいだろうし、狙える魚種も多そうだ。
 
 整理しよう。
 1件目は港が近く、家賃が41,000円/月と安い。ただし家が若干古くて狭い。

 2件目は町の中心に近く冒険者ギルドまで1km程度。家も3件目ほどではないけれど不自由しない程度には広い。
 ただし家賃は一番高く49,000円/月。

 3件目は川と海双方に近くて広い。家賃は46,000円/月とまあまあ。ただし街の中心からは一番遠く、冒険者ギルドまで2kmくらいある。

「余計なお節介かもしれないけれど、もし決まらないニャら。
 最初に行った物件はこの中ではあまりお勧めしないのにゃ。港に近い分、どうしても周囲の雰囲気が荒っぽいのニャ。
 あとは冒険者ギルドまでの距離が気にならないニャら此処。広さと家賃が気にならないニャら2件目なのニャ」

 ミーニャさんの言葉になるほどと思う。
 一気に頭の中が整理された。
 ならば俺が選ぶべきは……決まった。

「わかりました。なら此処にします」

 家が広い、川にも近い。家賃が安い。
 港や冒険者ギルドからはやや離れるが、それでも歩いて5分程度しか変わらない。
 
「わかったのニャ。それでは一度商業ギルドに戻って手続きニャ。
 あとついでだから少し街も案内するニャ。私もこっち側は詳しいのニャ。だから冒険者ギルドで配っている案内よりは詳しく案内出来るニャ」

 それは結構助かる。

「ありがとうございます」

「真っ直ぐ戻るよりその方が時間を稼げるニャ」

 サボりかよと思ったけれど、お互いWin-Winだから問題無い。
 借りることが決まった家を出て、そして俺達は歩き出す。

「この辺は女性冒険者にもお勧めのエリアニャ。治安が悪くニャく、家が広くて装備の手入れもしやすい。簡単な鍛錬ニャら庭で出来るし砂浜や土手でも訓練出来るニャ。街から遠いのが欠点ニャけれど、その分家賃が安いので悪くないのニャ」

 なるほど。

「ミーニャさんもこの辺にお住まいなんですか?」

「今は秘密ニャ」

 まあプライバシーだから本人が言わないなら聞かない方がいい。
 今は、というところに微妙に疑問を感じるけれど。
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