病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀

文字の大きさ
74 / 266
第9章 狩って吊して皮剥いで ~冬休み合宿編・上~

第68話 クサズリ砦無事到着

しおりを挟む
 道中の運河や川は非常に良く整備されていた。殆どの区間が真っ直ぐで浅瀬もなくしっかり浚渫されている。
 運河や川の脇には馬車道が整備されている。船を川上に引き上げる時、馬で引っ張るからだ。
 この整備状況はおそらく鉱山から船で鉱石なり何なりを運ぶからなのだろう。

 そして川が整備されているのをいい事にシモンさんが飛ばしまくる。
 この世界、移動魔法を除いた最速の運搬手段は身体強化した人間の全力疾走。もしくは早馬による高速伝達便だ。
 しかしこのボートはそれらの倍近い速度でぶっ飛ばす。8人と荷物を載せた状態で。

 一応他の舟とすれ違ったり追い越したりする時は速度を落とす。でもそれ以外では正気と思えない速度だ。

「もう少し速度を落としませんか」

 さしものアキナ先輩すらそんな台詞を口にする状態。

「でもヌクシナは遠いしね。120離240kmちょっとあるし」

「そうだな。早く着くに越したことは無い」

「同意」

 操縦しているシモンさん、その後ろのヨーコ先輩、そしてその隣のフールイ先輩はこの速度でも当然という感じだ。スピード狂なのか頭のネジが外れているのか。きっと両方だろうと俺は思う。
 理屈で止めても無駄だ。そう察知した他の4人はあえて前を見ないという現実逃避作戦に出た。
 なお俺はポジション上、基本的に後ろ向き。追い抜かした船があっという間に点になるなあ、と思う位だ。あえて前を見たいとも思わない。俺はやると後悔するとわかっている事はしない主義だ。

 途中カーミヤで軽食を買って、ついでに石炭も満タンに補充。それ以外はほぼ飛ばしっぱなしで、何とか明るいうちにヌクシナの港まで到達した。ここまで所要4時間半というところだろうか。

「やっぱり川を上るのは速度が出ないね。帰りは下りだからもっと出せるかな」

「楽しみだな、それは」

 いや速度は充分出ていた。やっぱり感覚がおかしい。帰りは皆の命の為に蒸気の圧力を絞っておこう。そう思う俺だった。

 ここからはやや細く谷間みたいに両脇が切り立った状態になる。流石にシモンさんも速度を落として慎重に進む。
 まもなく上流側正面に堰堤、その手前に船溜まりがある場所に到着した。ここで舟は行き止まりのようだ。
 
 船だまり左手前に白い石造りの古い砦があった。これがおそらくクサズリ砦だ。ヌクシナの町から見て一番上流側になる。おそらくはこの砦で鉱山やそのほか山側からくる魔獣を食い止めるという作りなのだろう。
 この船だまりは鉱山と砦が使用しているようだ。貨物船と軍用の高速船両方が停泊している。

 ヨーコ先輩は勝手知ったる感じで砦から直接出ている桟橋にボートをつけた。寄ってきた係員がヨーコ先輩の顔を見て、慌てて一礼する。領主の娘の顔は既に割れている模様だ。

「ちょっと話を付けてくる」

 ヨーコ先輩が立ち上がる。

「座りっぱなしだったせいか少しふらつくな」

 そう言いつつ砦の中へ。

「とりあえず荷物を降ろそうか」

「そうだね」

 そんな訳でボートから立ち上がろうとすると、どうもうまく立てない。

「うう、座りっぱなしだったので何かうまく立てない」

「僕は平気だけれどな」

「私も微妙にふらつきます」

 ずっと座っていたからだけではないと思う。高速ボートの妙な揺れと振動で平衡感覚が少し狂っているのだ。

 とりあえず銃等の濡れては困る物や着替え等を降ろしたところでヨーコ先輩が戻ってきた。

「舟はここでいいそうだ。部屋の鍵を貰ってきた」

 皆でヨーコ先輩を先頭に砦の中へ。外見同様石造りで重厚な作りだ。最近の骨組みが木の作りに比べると内部の効率は悪そうだけれども。
 そのまま階段を上って上って登って、ぐるっと廊下を曲がる。そして正面の大きな扉をヨーコ先輩は勝手知ったるという感じで開いた。

「ここが今回私達が借りた部屋だ。風呂もキッチンも一通り揃っている」

 見るとなかなか広くていい感じの部屋だ。中に全員が集まれるテーブルとか、そこそこ広めのキッチンとかが見える。

「これってどう見ても冒険者用の部屋じゃないよね」

「同意」

 確かにちょっと立派すぎる。ひょっとして、いや間違いなくこれは何かある。ここは確認しておかないと危険かもしれない。
 全員の視線がヨーコ先輩に注がれる。

「ばれたか。ここは領主が視察に来た時に泊まる部屋だ。付き人の分も含めてベッドの数もあるので、ここを借りておいた」

 反則だろうそれは。快適なのはいい事かもしれないけれど。

「勝手に使っていいんですか?」

「問題無い。私も領主家の一員だからな」

 まあそういう事にしておこう。

「とりあえず各自の寝る部屋を決めて荷物を置いてくれ。そこにドアが並んでいるのがベッドルームだ。それぞれ個室だから自由に選んでくれ。それが終わったら作戦会議だ。この付近の地図や最近の魔獣出没状況も聞いてきたからそれも説明しよう」

 俺達も荷物を抱えて適当な部屋へ。本当は端が良かったのだがフールイ先輩に取られたのでその隣の部屋に入る。ベッドとロッカー、小さな机があるだけの最小限な部屋だ。まあここは寝るだけだしこれで充分だけれどな。
 一応窓もあるので開けておく。これで少しは風が通るだろう。外気は寒いが空気がよどむのは嫌だから仕方ない。
しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

処理中です...