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第9章 狩って吊して皮剥いで ~冬休み合宿編・上~
第68話 クサズリ砦無事到着
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道中の運河や川は非常に良く整備されていた。殆どの区間が真っ直ぐで浅瀬もなくしっかり浚渫されている。
運河や川の脇には馬車道が整備されている。船を川上に引き上げる時、馬で引っ張るからだ。
この整備状況はおそらく鉱山から船で鉱石なり何なりを運ぶからなのだろう。
そして川が整備されているのをいい事にシモンさんが飛ばしまくる。
この世界、移動魔法を除いた最速の運搬手段は身体強化した人間の全力疾走。もしくは早馬による高速伝達便だ。
しかしこのボートはそれらの倍近い速度でぶっ飛ばす。8人と荷物を載せた状態で。
一応他の舟とすれ違ったり追い越したりする時は速度を落とす。でもそれ以外では正気と思えない速度だ。
「もう少し速度を落としませんか」
さしものアキナ先輩すらそんな台詞を口にする状態。
「でもヌクシナは遠いしね。120離ちょっとあるし」
「そうだな。早く着くに越したことは無い」
「同意」
操縦しているシモンさん、その後ろのヨーコ先輩、そしてその隣のフールイ先輩はこの速度でも当然という感じだ。スピード狂なのか頭のネジが外れているのか。きっと両方だろうと俺は思う。
理屈で止めても無駄だ。そう察知した他の4人はあえて前を見ないという現実逃避作戦に出た。
なお俺はポジション上、基本的に後ろ向き。追い抜かした船があっという間に点になるなあ、と思う位だ。あえて前を見たいとも思わない。俺はやると後悔するとわかっている事はしない主義だ。
途中カーミヤで軽食を買って、ついでに石炭も満タンに補充。それ以外はほぼ飛ばしっぱなしで、何とか明るいうちにヌクシナの港まで到達した。ここまで所要4時間半というところだろうか。
「やっぱり川を上るのは速度が出ないね。帰りは下りだからもっと出せるかな」
「楽しみだな、それは」
いや速度は充分出ていた。やっぱり感覚がおかしい。帰りは皆の命の為に蒸気の圧力を絞っておこう。そう思う俺だった。
ここからはやや細く谷間みたいに両脇が切り立った状態になる。流石にシモンさんも速度を落として慎重に進む。
まもなく上流側正面に堰堤、その手前に船溜まりがある場所に到着した。ここで舟は行き止まりのようだ。
船だまり左手前に白い石造りの古い砦があった。これがおそらくクサズリ砦だ。ヌクシナの町から見て一番上流側になる。おそらくはこの砦で鉱山やそのほか山側からくる魔獣を食い止めるという作りなのだろう。
この船だまりは鉱山と砦が使用しているようだ。貨物船と軍用の高速船両方が停泊している。
ヨーコ先輩は勝手知ったる感じで砦から直接出ている桟橋にボートをつけた。寄ってきた係員がヨーコ先輩の顔を見て、慌てて一礼する。領主の娘の顔は既に割れている模様だ。
「ちょっと話を付けてくる」
ヨーコ先輩が立ち上がる。
「座りっぱなしだったせいか少しふらつくな」
そう言いつつ砦の中へ。
「とりあえず荷物を降ろそうか」
「そうだね」
そんな訳でボートから立ち上がろうとすると、どうもうまく立てない。
「うう、座りっぱなしだったので何かうまく立てない」
「僕は平気だけれどな」
「私も微妙にふらつきます」
ずっと座っていたからだけではないと思う。高速ボートの妙な揺れと振動で平衡感覚が少し狂っているのだ。
とりあえず銃等の濡れては困る物や着替え等を降ろしたところでヨーコ先輩が戻ってきた。
「舟はここでいいそうだ。部屋の鍵を貰ってきた」
皆でヨーコ先輩を先頭に砦の中へ。外見同様石造りで重厚な作りだ。最近の骨組みが木の作りに比べると内部の効率は悪そうだけれども。
そのまま階段を上って上って登って、ぐるっと廊下を曲がる。そして正面の大きな扉をヨーコ先輩は勝手知ったるという感じで開いた。
「ここが今回私達が借りた部屋だ。風呂もキッチンも一通り揃っている」
見るとなかなか広くていい感じの部屋だ。中に全員が集まれるテーブルとか、そこそこ広めのキッチンとかが見える。
「これってどう見ても冒険者用の部屋じゃないよね」
「同意」
確かにちょっと立派すぎる。ひょっとして、いや間違いなくこれは何かある。ここは確認しておかないと危険かもしれない。
全員の視線がヨーコ先輩に注がれる。
「ばれたか。ここは領主が視察に来た時に泊まる部屋だ。付き人の分も含めてベッドの数もあるので、ここを借りておいた」
反則だろうそれは。快適なのはいい事かもしれないけれど。
「勝手に使っていいんですか?」
「問題無い。私も領主家の一員だからな」
まあそういう事にしておこう。
「とりあえず各自の寝る部屋を決めて荷物を置いてくれ。そこにドアが並んでいるのがベッドルームだ。それぞれ個室だから自由に選んでくれ。それが終わったら作戦会議だ。この付近の地図や最近の魔獣出没状況も聞いてきたからそれも説明しよう」
俺達も荷物を抱えて適当な部屋へ。本当は端が良かったのだがフールイ先輩に取られたのでその隣の部屋に入る。ベッドとロッカー、小さな机があるだけの最小限な部屋だ。まあここは寝るだけだしこれで充分だけれどな。
一応窓もあるので開けておく。これで少しは風が通るだろう。外気は寒いが空気がよどむのは嫌だから仕方ない。
運河や川の脇には馬車道が整備されている。船を川上に引き上げる時、馬で引っ張るからだ。
この整備状況はおそらく鉱山から船で鉱石なり何なりを運ぶからなのだろう。
そして川が整備されているのをいい事にシモンさんが飛ばしまくる。
この世界、移動魔法を除いた最速の運搬手段は身体強化した人間の全力疾走。もしくは早馬による高速伝達便だ。
しかしこのボートはそれらの倍近い速度でぶっ飛ばす。8人と荷物を載せた状態で。
一応他の舟とすれ違ったり追い越したりする時は速度を落とす。でもそれ以外では正気と思えない速度だ。
「もう少し速度を落としませんか」
さしものアキナ先輩すらそんな台詞を口にする状態。
「でもヌクシナは遠いしね。120離ちょっとあるし」
「そうだな。早く着くに越したことは無い」
「同意」
操縦しているシモンさん、その後ろのヨーコ先輩、そしてその隣のフールイ先輩はこの速度でも当然という感じだ。スピード狂なのか頭のネジが外れているのか。きっと両方だろうと俺は思う。
理屈で止めても無駄だ。そう察知した他の4人はあえて前を見ないという現実逃避作戦に出た。
なお俺はポジション上、基本的に後ろ向き。追い抜かした船があっという間に点になるなあ、と思う位だ。あえて前を見たいとも思わない。俺はやると後悔するとわかっている事はしない主義だ。
途中カーミヤで軽食を買って、ついでに石炭も満タンに補充。それ以外はほぼ飛ばしっぱなしで、何とか明るいうちにヌクシナの港まで到達した。ここまで所要4時間半というところだろうか。
「やっぱり川を上るのは速度が出ないね。帰りは下りだからもっと出せるかな」
「楽しみだな、それは」
いや速度は充分出ていた。やっぱり感覚がおかしい。帰りは皆の命の為に蒸気の圧力を絞っておこう。そう思う俺だった。
ここからはやや細く谷間みたいに両脇が切り立った状態になる。流石にシモンさんも速度を落として慎重に進む。
まもなく上流側正面に堰堤、その手前に船溜まりがある場所に到着した。ここで舟は行き止まりのようだ。
船だまり左手前に白い石造りの古い砦があった。これがおそらくクサズリ砦だ。ヌクシナの町から見て一番上流側になる。おそらくはこの砦で鉱山やそのほか山側からくる魔獣を食い止めるという作りなのだろう。
この船だまりは鉱山と砦が使用しているようだ。貨物船と軍用の高速船両方が停泊している。
ヨーコ先輩は勝手知ったる感じで砦から直接出ている桟橋にボートをつけた。寄ってきた係員がヨーコ先輩の顔を見て、慌てて一礼する。領主の娘の顔は既に割れている模様だ。
「ちょっと話を付けてくる」
ヨーコ先輩が立ち上がる。
「座りっぱなしだったせいか少しふらつくな」
そう言いつつ砦の中へ。
「とりあえず荷物を降ろそうか」
「そうだね」
そんな訳でボートから立ち上がろうとすると、どうもうまく立てない。
「うう、座りっぱなしだったので何かうまく立てない」
「僕は平気だけれどな」
「私も微妙にふらつきます」
ずっと座っていたからだけではないと思う。高速ボートの妙な揺れと振動で平衡感覚が少し狂っているのだ。
とりあえず銃等の濡れては困る物や着替え等を降ろしたところでヨーコ先輩が戻ってきた。
「舟はここでいいそうだ。部屋の鍵を貰ってきた」
皆でヨーコ先輩を先頭に砦の中へ。外見同様石造りで重厚な作りだ。最近の骨組みが木の作りに比べると内部の効率は悪そうだけれども。
そのまま階段を上って上って登って、ぐるっと廊下を曲がる。そして正面の大きな扉をヨーコ先輩は勝手知ったるという感じで開いた。
「ここが今回私達が借りた部屋だ。風呂もキッチンも一通り揃っている」
見るとなかなか広くていい感じの部屋だ。中に全員が集まれるテーブルとか、そこそこ広めのキッチンとかが見える。
「これってどう見ても冒険者用の部屋じゃないよね」
「同意」
確かにちょっと立派すぎる。ひょっとして、いや間違いなくこれは何かある。ここは確認しておかないと危険かもしれない。
全員の視線がヨーコ先輩に注がれる。
「ばれたか。ここは領主が視察に来た時に泊まる部屋だ。付き人の分も含めてベッドの数もあるので、ここを借りておいた」
反則だろうそれは。快適なのはいい事かもしれないけれど。
「勝手に使っていいんですか?」
「問題無い。私も領主家の一員だからな」
まあそういう事にしておこう。
「とりあえず各自の寝る部屋を決めて荷物を置いてくれ。そこにドアが並んでいるのがベッドルームだ。それぞれ個室だから自由に選んでくれ。それが終わったら作戦会議だ。この付近の地図や最近の魔獣出没状況も聞いてきたからそれも説明しよう」
俺達も荷物を抱えて適当な部屋へ。本当は端が良かったのだがフールイ先輩に取られたのでその隣の部屋に入る。ベッドとロッカー、小さな机があるだけの最小限な部屋だ。まあここは寝るだけだしこれで充分だけれどな。
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