病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀

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第21章 やはり迷惑なあの御方

第168話 夏合宿の忘れ物

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 色々あった合宿の前半。それと比べると合宿の後半は極めて平和に過ぎていった。
 買い物をしたり色々食べたり湖で泳いだり。極めて普通かつ健全なリゾートだ。

 取りあえず俺は湖でも泳げない事も判明した。むしろ湖の方が海より身体が沈みやすいような気がする。海水の方が比重が重いせいだろうか。ボディボードで浮かんでいたけれど。
 強制トレーニングもあの後2度あった。ただ同じコースだったので先がわかる分楽だった。

 そして合宿最終日前日夜に悲しいお知らせ。測定結果、半数以上の方々の自重が増量してしまった事が発覚した。強制トレーニングや湖で泳いだりしたのにも関わらずだ。
 あれだけ毎食食べてジャンクフードまで加わったのだから当然かもしれない。
 俺はむしろ増量したいくらいだから別にいい。でも女性陣が悩んでいるようだ。フルエさんとヨーコ先輩は大丈夫だったようだが他はもう……

「ウージナに帰ったらダイエットするんだ」

「皆で歩く会でもやりましょうか」

「俺は参加しないぞ」

「でも一番トレーニングが必要なのはミタキだよね」

 そんな何処かで聞いたような会話が繰り返される。

 そして最終日の朝。

「何やかんやあったけれど楽しかったね」

「涼しいし一通り何でも出来るのはいいよな」

「でも微妙に物価が高いです」

「山の上だし仕方無いのだ」

 そんな事を言いながら車に色々詰め込む。
 何気に色々荷物が多い。皆さんがブランド商店街で色々買いあさったせいである。洋服だのバッグだの色々と私物が増えているのだ。
 そういう意味ではこの場所、お金を落とす場所として色々良く出来ている。感心せざるを得ない。

 そんな訳で途中シンコ・イバシに1泊、エビゾ・ノに1泊して帰ってきた。途中西海岸でしか購入出来ない色々を買ってこれて俺は満足だ。例えば米各種だとか米粉だとか。
 更に途中で魔法銀《ミスリル》も追加で4半重1.5kg購入してきた。値段はターケダと同じで正金貨2枚100万円
 本当はもっと欲しかった。しかしナカさん曰く。
「今回の旅行では使いすぎました」
とのことだ。
 思い当たる節は色々あるので仕方無い。

 ウージナの研究室に着いたのは午後4時過ぎ。

「やっぱり遠いよね。エビゾ・ノとかシンコ・イバシとか」

「でもこの程度で行けるというのはやっぱり便利ですわ。馬車だと4日から5日は最低かかりますから」

「実家から此処に出てくる時は6日かけたのだ」

「でもこの蒸気自動車や蒸気ボートで慣れてしまいましたからね」

 この時代としては便利すぎる道具も慣れると当たり前になってしまう。

「まあ無事に終わって良かったね」

「そうそう。楽しかったですしね」

 そうなのだがなぜか俺はすっとしない。何か忘れているような気がするのだ。

「それじゃ明日も8時集合ね」

「そうだね」

 合宿が終わっても結局集まることには変わり無い。シモンさんは新型の車を作る予定だし、俺も手伝うつもりだ。
 アキナ先輩用万能杖の改良も製作許可が下りた。肩掛けも出来るハンドバッグ形になる予定だ。
 夏は暑いけれどまだまだやる事はある。女性陣の一部はダイエットを開始するらしいけれど。

 そして翌朝9時。俺達は何を忘れていたのかに気づくのだった。
 夏合宿の忘れ物はノックの音とともに現れたのだ。


「誰だろう。事務の方かな」

 そう言ったシモンさんの向こう側でナカさんが顔色を変える。

『殿下とお付きの方です。アキナ先輩出迎えお願いします。私は会議室の準備をしておきますから』

 この場の全員に流れた伝達魔法で俺は気づく。
 そうだった! そう言えば殿下がいずれ来ると言われていたんだ。
 今頃思い出してももう遅い。遅いというか思い出してもどうしようもないのだけれど。

 取りあえず清拭魔法で手を洗い会議室へ。相手が殿下なら情報隠蔽する必要は無い。他の皆さんも会議室に集まっている。ナカさんだけはお茶とお菓子を準備中だ。

 アキナ先輩とユキ先輩の案内で殿下以下3名が入ってきた。いつもと同じ殿下、シャクさん、ターカノさんの3名だ。
 席に着くと同時にナカさんがお菓子とお茶を配る。本日は冷たい紅茶とロールケーキだ。
 ナカさんが席に着いた後、殿下が口を開く。

「先日はすまなかった。襲撃があることは察知していたがあえて君達には伝えなかった。それをまずここで謝りたい」

 今回は随分と真面目な切り出し方だ。いつものおちゃらけた感じと違ってちょっと俺は戸惑う。

「あの件については問題無いですわ。その方が結果的に安全と判断されたのでしょうし、事実応援もすぐ駆けつけていただきましたから」

「それでも当事者の君達に話さなかったのは事実だ。それに今後もこのような事案が無いと確約することが出来ない。和平外交も上手くいっていない。こちらとしては鏡のような新しい技術を見せ、和平条約を結べば技術供与で農業の発展等にも協力するとカードを切ったのにも関わらずだ。どうもスオーは技術供与で制限された発展を手に入れるより戦争に勝ってこちらの技術をまるごと手に入れる事を選んだらしい」

 知りたくない現実だ。しかし知らなくても結果はきっと同じ。数年後には戦争になるという現実が待っているのだろう。
 スオーとアストラムでは国の大きさが違いすぎる。ブーンゴと共同戦線を張ってもかなり厳しい状態になるだろう。
 
「さて、話を戻そう。今回のお詫びとしてこちらが出す物はこれだ。ターカノ」

 ターカノさんは手元から魔法杖を取り出す。黒い木製の魔法杖だ。

「これは移動魔法使いにして近未来予知魔法までを使う空間魔道士ターカノの使う専用杖だ。厳密には専用杖の予備と言うべきかな。杖の外側の木製の部分は単なるカバーで、杖そのものはは内部に仕込んだ棒状の魔法銀《ミスリル》だ。
 あとシャク」

 シャクさんがどこからともなく箱を取り出す。

「中身は最高品質の魔法銀《ミスリル》だ。重さは2重12kg

 ちょっと待ってくれ。お詫びの品と称するこれらの物の意味するところは何だ!

「誤解が無いように言っておく。これらの物を利用して何かを作ってくれと僕や僕の背後関係が君達に頼む事は無い。これをどう使うか、それとも使わないかは君達の自由だ。
 例えばこれを持って他国へ移住したりしてもいい。それは国民を引き留められなかった国が悪いのであって君達が悪いわけでは無い」

「僭越ですがあえてお伺い致します」

 ユキ先輩、見た事がない厳しい表情だ。

「殿下は王家の一員として私達に直接命令を下す事も可能な筈です。むしろ王家に連なる者としてはそうするのが当然だと私には思われます。
 そもそもターカノさんの魔法杖と魔法銀《ミスリル》という組み合わせで、もう殿下が何を知っていて何を意図しているか想像できます。この場にいる全員でこの件について話しましたから。
 それでもあえて命令と言わずに選択させるという事は、僭越ですが私には王家の者としての責任を放棄しているようにしか見えません。いかがでしょうか」

 不敬と言われても仕方無い台詞だ。それでも、いやだからこそユキ先輩は言ったのだろう。アキナ先輩や俺達にそれを言わせないために。
 
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