機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第2章 学生会長の野望

7 便利な愛車と工房と

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 お茶をご馳走になってゆっくりしてから、俺達は学校を出る。
 港は学校から1km程度で、行きはひたすら下りだから楽だ。
 帰りはどうせ車だから、気にしなくていいだろう。

 校門を出て、島でただ1軒のスーパー、兼本屋兼ホームセンターがある中心地を通って、皆でのんびりと歩いていく。
 車とは一回、空港へ行くバスとすれ違っただけ。

 元々この島、車を使う人は少ないのだ。
 それほど大きな島では無いし、街と住宅地と学校地区は隣接しているから。
 車を持っても整備や車検が島内で出来ず、面倒だし。

 南国の日差しは暑い。
 しかし本土の夏ほど過ごしにくくはない。
 海が近いせいか暑すぎることはなく、真夏でも窓さえ開けていれば案外気持ちよく過ごせたりもする。
 まあ俺はガンガンに冷房をかける派なのだが。

 港に大型船が接岸しているのが見えた。
 週1度やってくる本土や父島との荷物運搬の要だ。
 食料品も嗜好品も2週間遅れの漫画週刊誌も、全部この船でやって来る。
 旅客は島の反対側にある飛行場から1日2便飛んでいる、定員70名余のプロペラ機任せだけれど。

 万が一この船が台風で2週間位接岸できないと、この島はあっさり飢えに苦しむことになる。
 農林水産業従事者が0名だし、島内には田も畑もない。
 厳密に言うと、家庭菜園のプランターくらいはあるかもしれないけれど。

 昨年の初夏、台風が連続発生した時がそうだった。
 食堂のメニューが日に日に減っていき、最後は天かす丼だけになったのだ。
 島民の一人として、今年はそうならないことを祈っているけれど。

「そう言えば、皆さんどんな車か知っているんですか」

 そう聞いた途端、鈴懸台先輩と月見野先輩に緊張が走った気がした。
 由香里姉は見るからに浮かれているけれど。
 あ、知っているなこれは。それもあまり良くない反応だ。

「見ればわかるよ」

「同意ですね。百聞は一見にしかずと言いますから」

 二人とも言葉を濁す。
 そして香緒里ちゃんは知らないようだ。

「ふふふ、見て驚かないでね」

 由香里姉だけはとてもご機嫌だ。
 嫌な予感しかしない。

 由香里姐は割と天才肌。
 だからか何とかと紙一重という奴で、価値観やら何やらが間違っているところがある。
 昔は憧れの目で見ていたから、それも魅力に見えた。
 でも今思い返すと、審美眼や趣味やら壊滅的なのがわかる。

 ひょっとしてトラクターとか軽トラとかだろうか。
 しかしそれでは5人乗れない。
 軽トラで荷台に乗れ! だったりして。

 なんて話したり考えたりしながら歩いて、港へ無事到着。
 由香里姉は凄く上機嫌で港の事務所に入って行く。

「こんにちは、薊野ですけれど車の荷物、届いていますか」

「ああ、もうすぐ引き渡せる。確認したら書類に印鑑押してここに持ってきて」

 取り敢えず愛車とやらは、無事に到着しているようだ。
 俺達は港に出て車が来るのを待つ。

 やがて船の後部デッキが開き、何台か車が自走してきて駐車場に止まった。
 取り敢えずトラクターはない。運が悪くても軽トラかな。

 そう俺が思った時、ぱあっと由香里姉の顔に笑顔が広がった。
 お目当ての愛車がきたらしい。

「こっちこっち」

 由香里姉はスキップでも踏みそうな勢いで、そして他2名の先輩は何か諦めたようなとぼとぼとした足取りで、それぞれ駐車場に向かう。
 そして。

「じゃーん!これが私の愛車ちゃんよ!」

 由香里姉が止まった前にあったのは……

「これって免許取りたての普通免許で乗って大丈夫でしたっけ」

 凄く大きい。空港まで定期便で走っているマイクロバスと同じ位に感じる。
 FIAT DUCATOとあるから外車、イタリアの車。

 外車でこのサイズのキャンピングカー、本当に普通免許で大丈夫なのだろうか。
 免許はOKでも運転が難しくないだろうか。

 なお由香里姉はどや顔だ。

「ふふふふふ、この子はキャンピングカー登録で定員6名、総重量もぎりぎり3.5トン以下だから、普通免許で問題ないわよ。どう、便利でしょ」

 発想が斜め上で、俺には追いつけない。
 しかし香緒里ちゃんだけは楽しそうだ。

「凄い! 良さそうな車です」

 そんな感じで喜んでいる。審美眼やら趣味は遺伝しているらしい。
 この似たもの姉妹め。

「それじゃ皆、乗って! 学校へ帰るわよ」

 横のスライドドアを開けて、ぞろぞろ乗り込む。

 中に入ってみるとちょっと意見が変わった。
 なかなかこの車、良い感じだ。
 とにかく中が広い。

 一番後ろはベッドスペース。
 荷物室にもなるし変形させて2段ベッドにもなる。
 あとは簡単なキッチンと冷蔵庫。

 そして運転席後ろは、向かい合わせにも前向きにもなる4人分のソファー。
 こっちもベッドに変形するようだ。
 しかも内装が白い革と白っぽい木目で高級感もある。

 しかし何故か凄く重そうな鉄の角材が4本、車室中央から後ろに向けて載っている。
 これは何なのだろう。意味がわからない。

 それはともかく、俺は由香里姉が判子を押してサインした書類を事務所に持っていって。
 それからキャンピングカーに戻って助手席に座る。

「それではドライブ、出発進行!」

 そう言って由香里姉はキャンピングカーを発進させた。

 思ったより安全でこなれた運転。
 港から学校までの道が比較的太い2車線だったこともあるが、由香里姉の運転に不安感は感じない。
 というか免許取りたてにしては上手な運転だ。
 乗り心地も結構いい。

 あっさりと学校に到着。
 駐車場に入れるかと思ったら、キャンピングカーは駐車場を通り越して教室棟の外れまで走って行く。
 停まったのは実務教室棟の先、倉庫のようなシャッターの前だ。

「ここは」

「まだ乗っていて」

 由香里姉はポケットからリモコンのようなものを取り出し、シヤッターに向ける。

 シャッターがゆっくり下から開きはじめた。
 現れたのは第1工作室と雰囲気が似た工房然とした空間。
 設備の状況から見て、元は自動車の整備場所だったようだ。

 由香里姉はバックで侵入して大きいキャンピングカーをきれいにまっすぐ停め、サイドブレーキを引きエンジンを止めた。

「ここは」

 俺は周りを見ながら尋ねる。

「学生会の工房よ。元は自動車整備場だったけれど使用していないので、先々代の会長が接収したの」

「高津会長は長津田君と同じ魔法工学科だったしな。学生会の仕事が無い時は、ここにこもって色々作ってたよ」

「学生会幹部の遺産というところですね。有効に使えれば高津先輩もお喜びになるでしょう」

 よく見ると色々工具が揃っている。
 車の整備もジャッキを使わずとも車の下を整備できるよう深くえぐられているし、ガレージジャッキ等も揃っている。

 更に最近使った形跡こそ無いがマニシングセンター、ボール盤等の工作機械もちゃんとある。
 安置されているパソコンがやや旧式だが、問題点はそれくらいだ。

「さて、今日修を呼んだ理由は言っていなかったわね」

 由香里姉は俺を見る。

「1つはこの車の改造。この前香緒里の課題で空飛ぶスクーターを作ったでしょ。あれと同じ改造をこの車にして欲しいの」

「え、この大きさの車をですか」

 かなり大事だ。
 ここの設備があれば出来ない事はないとは思うけれど。

「後ろに積んである鉄の角材は重り代わり。あれで1本300kgあるわ。あれと魔力リニアモーターあたりを組み合わせれば、修の腕なら難しくはないでしょ。必要な材料はここに揃っているし、足りなければ用意するわ。あとこの車は私が必ず運転するから、動力系は魔力使用前提で作っても大丈夫よ」

 なるほど、流石由香里姉だ。
 確かにその構造なら作る気がする。
 材料もあるし改造用の施設もあるから文句はない。

「あとは給水ポンプを2本と付属品ね。仕様図はもう作ってあるわ。香緒里の魔法を使えば、仕様どおりに作るのは難しくない筈と思う。これも使用時には私が近辺にいるから魔法動力でいいわ」

 これも難しくはない。
 構造のかなりの部分は頭の中で描ける程度の難易度だ。

「以上、夏休み前のできるだけ早い時期に完成させて。かかった費用は勿論、報奨金分もちゃんと出すわ。ただ車の改造もポンプの件も、今この車に乗っている人間以外には秘密にして欲しいの。だから工作も基本的にここでしてね。条件は以上かな。よろしくお願いね」

 そして由香里姐は、リモコンと鍵2個を俺に渡す。
 この工房の鍵と車の鍵とリモコンらしい。

「ここは好きに使ってね。ただ今いる5人以外は立入禁止よ」

「わかりました」

 正直不安はある。
 でも事実上俺専用の工房が出来たのだ。
 その事に俺はちょっと浮かれていた。

 だから背後で『7年ぶりの野望』なんて単語が聞こえたのを無視してしまった。
 それが意味するのは何か、この時考えるべきだったのかもしれない。
 考えても無駄だったかもしれないけれど。
 
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