機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

文字の大きさ
34 / 202
第8章 秋の夜の夢

34 今日も露天風呂の日

しおりを挟む
 学園祭も半ばすぎると惰性になる。
 土日はまた盛り上がるのだが今日は水曜日、一番客が少なく盛り下がる日だ。

「まあ今日は事件も事故もなくて良かったです」

「でも何もないと退屈じゃない」

 創造製作研究会特製どら焼きを頬張りながら由香里姉が言う。
 時刻は午後4時。南の離島であるここ聟島ではまだ日は長い。
 しかしそろそろ、俺にとっては危険な時間だ。

「露天風呂はNGですよ。この時期島の色んな所に観光客が入り込んでいるんで」

 だから先に釘を刺しておく。

「ついでに言うと工房で風呂も駄目ですからね。シャッター閉めておいても今は人通りありますし、間違って管理担当の先生に見られたら洒落になりません」

 更に強く釘を打っておく。

「じゃあ、この島以外なら大丈夫ね」

 思ってもみない方向から反撃された。

「学園祭期間中に島を離れるのはどうかと思いますが」

「10分以内で学校に辿り着けるなら問題はないですわ」

 月見野先輩も露天風呂賛成派に回った。

「この前海水浴をした島、あそこなら急げば10分で学校に着けるよな」

 鈴懸台先輩も敵に回り、俺に勝ち目はなくなった。

 ◇◇◇
 
 午後6時過ぎ、すっかり暗くなった中をキャンピングカーは走り始める。
 港はこの時期混んでいるので直接空中へ。
 既に回りは暗いが携帯電話のGPSとヘッドライトを駆使して飛んでいく。

 幸い今日は風がそれほど強くない。
 学校から10分もしないで目的地の北之島へ到着した。
 崖にぶつからないよう慎重に高度を下げ、この前の浜辺に到着する。

 ジェニーが魔法をかけたようだ。
 島の近辺を上空から見た図が脳裏に描かれる。
 人の印はこの浜以外には無い。

「こういう時ってジェニーの魔法は本当に便利ね。安心できる」

「そう言ってもらえると嬉しいす」

 そう言いつつ風呂の準備。

 PVCのプールを組み立てポンプをプールと海とに放り込む。
 ポンプ部分もかなり強化したので見る間にお湯が溜まっていく。
 プール部分も加工済みなので放っておけばかけ流しの露天風呂の完成だ。

 既に由香里姉や鈴懸台先輩等は服を脱ぎだしている。
 今日はもう暗いしいつもの事だから俺も大丈夫だ。

 まだ半分くらいしかお湯が溜まっていない状態。
 でも由香里姉と鈴懸台先輩は風呂に入る。
 待ちきれなかった模様だ。

 2人は全身を延ばして大の字になってお湯に浮いている状態。
 風呂が充分大きいから2人なら大の字になっても何とかぶつからずに入れる。
 まあ邪魔になったら月見野先輩が強制手段に出ると思うけれど。

 その月見野先輩も服を脱ぎだした。
 そろそろ俺も諦めよう。服を脱ぎ、お湯に浸かる。

 ◇◇◇

 今日ベッドを共有するのは香緒里ちゃん。
 これで3回めになる。

 香緒里ちゃんと同じベッドの時は手を繋いで、そのまま会話せずに2人で寝る。
 最初、香緒里ちゃんは話するのも恥ずかしそうな感じでただ俺の手を握ってきた。
 だから俺もそれにあわせた。

 今日も2人で無言で手を繋ぐ。
 何故か香緒里ちゃんと手をつなぐと安心してかすぐに眠れる。
 そして手を繋いだまま2人で同じ夢を見る。

 小さい香緒里ちゃんと小さい俺が一緒に遊んでいる夢が多かったような気がする。
 はっきりしないのは夢だから。
 覚めるとあっという間に記憶から逃げていく夢だから。
 でも夢の幸せな感触だけはいつまでも覚えている。

 そして今日も夢の中。
 夏草が小さい俺達の胸より高く生い茂ったあの公園。
 白いサマードレスを着た小さい香緒里ちゃんがとことこと俺の前にやってくる。
 そして俺の前で立ち止まって、頭を下げた。

「今日は修兄とお話をしたいと思います。だから、ちょっと起きて下さい」

 え、あれ。

「今日はちょっと勇気を出してお話したいんです。お願いします」

 ふと気づく。
 見慣れた天井と壁。誰かと手を繋いでいる。

 そう、ここはいつものキャンピングカーのベッドの中。
 手を繋いでいるのは香緒里ちゃんだ。

 隣に寝ていた香緒里ちゃんが握っていた俺の手を離し、起き上がる。
 そして立ち上がってキャンピングカーのドアを開けて、外へ。

 どうしよう。そう思ったのは一瞬だけだった。
 俺は起き上がり、そして香緒里ちゃんの後を追う。

 星空が妙に明るくて幻想的な夜。
 脳裏に浮かぶレーダーには俺と香緒里ちゃん以外動いている人間はいない。
 俺はキャンピングカーのすぐ先にいる香緒里ちゃんに近づく。

「ありがとうございます。来てくれたんですね」

 香緒里ちゃんが振り返らず向こうを見たままそう言った。

「お話って何だ?」

「いろいろ、です。たとえば修兄が私のことをどう思っているのかな、とか」

 香緒里ちゃんが俺の方に向き直る。

「好きなのか嫌いなのか、それとも特になんとも思っていないのか」

「好きだよ」

 その言葉は用意していた。
 あくまで軽い口調で言う事も含めて。

「ならどんなふうに好きですか。友達ですか恋人ですか後輩ですか」

「一番近いのは家族として、かな。ある意味親よりも近いかも。本当の姉妹はいないけどさ」

 俺が用意していた台詞はここまで。
 ここからは真剣勝負。

「……ちょっと冷えてきましたね」

 冷えると言うほどではないが、風がだいぶ涼しくなってきたのは確かだ。

「身体が冷えそうなので、御風呂でも入ってお話しませんか」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

才能は流星魔法

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。 そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。 流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。 ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。 井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。 山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。 井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。 二日に一度、18時に更新します。 カクヨムにも同時投稿しています。

処理中です...