機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第12章 冬の嵐

54 悪日

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 注意報が出ている。
 天気ではなく、奈津希さん経由の個人的な注意報が。
 天候不良との理由で、港内にリベリア船籍の貨物船が停泊中との事。

「船籍はリベリアだけど、実態は某国の貨物船だぜ、あれ。この辺を航海しているのは変だよな。それに某国船籍の漁船も大量に近海に出ているみたいだし、気をつけたほうがいいな」

 以上が奈津希さん情報。
 その言葉を裏付けるかのように、島の空気がいつもと違う。

 制服のお巡りさんの数は変わらない。
 でもいつもは見ない警察の車が、島をゆっくり回っていたりする。
 港や空港の警備体制も明らかにいつもより厳しい。

 学校でも念のため、単独での外出は控えるようにとの指導があった。
 2年前のテロの記憶がまだ色濃く残っている事もある。

 それでも学校は普通通り授業をしているし、放課後も変わりない。
 そして俺達も学生会室で雁首揃えて書類整理中。
 やっている事は年度末の書類整理作業の前準備だ。

 色々な書類にはそれぞれ保存期間というものがある。
 例えば5年保存の書類は有効期間+5年間が過ぎた後の4月1日以降に廃棄。
 ただこれを忙しい4月にやっていられない。
 だから年度末まで来年度に廃棄になる書類を別ダンボールに仕分けしておく訳だ。

 4月には学生会主催のオリエンテーションやら寮行事等もある。
 例年やっている事は変わらないので準備もそれほど手間取らないが、書類廃棄にかまけている時間などない。
 だから今、俺達は黙々と書類分類に勤しんでいる訳だ。
 他にも来年度用の必要書類のバインダーを作ったり、細々した作業に事欠かない。

「天気も悪いし、こんな仕事ばかりやっていると息がつまりそうだよね」

「何なら今のうちに全部燃やしちゃおうか、魔法で」

「やめてお願いですから。燃やした後に監査なんてあったら目もあてられないわ」

 深淵の監査殿の言葉にも何か疲れが感じられる。

「何なら今日は早めに切り上げて露天風呂でもやりましょうか」

「うーん、でも明日も授業だしのんびり出来ないよな」

 由香里姉の提案に対し、鈴懸台先輩が珍しくまっとうな意見で反対。
 結局うだうだやりながら定時の午後6時で散会となる。

 ◇◇◇
 
 風と雨の強い中できるだけ屋根のあるところを通って500m。
 途中ハツネスーパーで買い出ししてマンションへ。

 最近は奈津希さんも一緒だ。
 奈津希さんは自分の家に寄らず直接俺達の部屋に来て、飯をつくり、一緒に食べて、露天風呂に浸かってから自分の部屋に帰っていく。
 実際料理が上手で手早いので凄く助かっているのだ。

 自分の家で食べないのかと聞いてみた。

「うちは皆時間がバラバラなんで、皆勝手に食べているからね」

 だから問題はないらしい。
 例によってあっさり作った割にはすごく美味しい晩御飯を食べ、露天風呂の時間。
 結構雨が降っているし風もあるのだが露天風呂好きには関係ないらしい。

 俺は例のぬる湯。
 香緒里ちゃんはいつもの樽湯。
 ジェニーは寝湯で伸びていて、由香里姉と奈津希さんはメイン湯船で伸びている。

 いつも通りの露天風呂。
 そう、ここまでは。

 不意に部屋の照明が切れた。

「ん、停電か」

 そう思った時、いきなり頭の中にこのマンションの見取図が表示された。
 この感覚は何度か憶えがある。
 ジェニーの魔法だ。

「急いで、中へ入って服着てリビング集合よ」

 その言葉から数瞬遅れて俺は事態を理解した。
 敵襲の可能性が大という事かと。

 慌てて自分の部屋に入り服を着る。
 若干服が濡れたが気にしてはいられない。

 窓の外を見て誰もいないのを確認して窓を閉め電動シャッターを下ろす。
 そうして暗い中非常灯を頼りにリビングへ。
 既に俺以外の全員が集合していた。

「不審なのはジェニーがピックアップした7人ね。外で待機している1人と非常階段経由3人、階段経由が3人」

 その7人は俺の頭の中、展開中の見取図に赤色で表示されている。
 他のマンション内の住民等は俺達を含めて黄色表示。

「全員魔法持ちだ。ただそれ程怖い感じの魔力持ちはいない。ジェニー、敵の目標がここかどうかはわかるかい」

「害意があるのはわかるれすが、対象がここかまでは分からないす」

「害意があるのは確かなのね」

 横では香緒里ちゃんがスマホを確認している。

「駄目、電話も携帯も通じなくなってます」

「どうする、仕掛ける?」

「その必要は無いよ」

 奈津希さんが言い切った。

「何故ですか」

「ここのマンションにどれだけ怖い方々が住んでいるか、侵入者さんはご存知ないみたいだからさ」

 奈津希さんがそう言った直後、非常階段側からの赤い光点の動きがが止まった。

「何せここは魔法特区、住んでいる方々はそれなりに自衛意識があるし、魔法の力も強力だからさ」

 残った階段側の光点が非常階段へと進路を変える。

「あーあ、馬鹿だなあ」

「どういう事?」

 由香里姉が質問。

「侵入者は何らかの障害にあった非常階段側の人員を回収しようとしたんだ。でもその動きで階段側からの侵入者と非常階段側からの侵入者が同じ勢力だと証明してしまった。単に内階段を登るだけなら急用で○○号室に行きたかったと言抜けできたんだけどね。だからそのまま引き返せば犠牲は3人で済んだんだけどさ。残念」

 奈津希さんがそう解説している間にも事態は進む。
 非常階段で合流した6つの光点は一緒に動き始めたが、1階下まで降りた所で動きが止まった。

「さて、最後の一人はどう出るか。お、流石に逃げたな。賢明だね」

「その一人は捕まえることができないんですか」

 香緒里ちゃんの質問に、奈津希さんは肩をすくめてみせる。

「無理だね。多分仲間だという証拠すら持っていないだろ。動き的にも仲間だと証明できないしね。魔法による記憶の読み取りは、裁判ではいまだ証拠として無効だしさ」

「それにしても誰がやったんですか」

「知らない」

 奈津希さんもそれはわからないようだ。

「何せ危険な住民が揃っているからね、上層階に行けば行く程。案外隣のタヌキな教官オヤジさんが始末したかもしれないな。あの人攻撃魔法が一切使えない癖に自衛能力は化物レベルだから」

「そうなんですか」

 とてもそうは見えないが。

「でなければ魔法工学の第一人者なんて看板背負って世界中ノコノコ出歩いたり出来ないさ。聞いたところによると、一昔前には不死身の田奈とか異能生命体とか……」

 不意に液晶テレビが復活した。
 画面には、
『それくらいにしておこうな』
 と黒字に白文字で表示されている。

「斯様に怖い主任教授様って訳だ」

 奈津希さんが苦笑。

 ぞっとする。何なんだあの人は。
 物作り大好きな魔法工学科出戻りオタクの成れの果ての親父虫じゃなかったのか。
 そう思ったら画面の文字が変わる。

『これくらい出来ないようじゃまだまだ甘いな。長津田、精進しろよ』

「……何か、田奈先生って大概ですね」

「俺もそう思った」

 香緒里ちゃんの意見に俺も同意だ。
 化物すぎる。

「って、まさかこの能力で露天風呂を覗いたりはしてないでしょうね」

 由香里姉がそう言うと、画面の文字はふっと消えた。

「まさか田奈先生……」

「糾弾に行くかい?」

 由香里姉は不敵に笑う。

「それは待った方がいいわ、今はあの部屋先生だけみたいだし。奥様がいる時に行ったほうが面白いわよ」

 あ、テレビの画面がまた映った。

『頼むからそれはやめてくれ。声はマイクで聞えるけどカメラは仕掛けていない。本当だ、信じてくれ』

「じゃあ一体何で色々わかるの。マイクってどこのよ」

『私の魔法は感知できるあらゆる機械の制御だ。だから監視カメラがあれば映像が見えるし、テレビの画面の操作も出来る。さっきの侵入者諸君は無線機を使用したので気づいたし、雨水と電線を使いわざと漏電させて麻痺してもらった。
 でもその部屋の露天風呂側にはカメラはない。唯一近くにある長津田君のノートパソコンのカメラは物理的に塞いであって使用不可能だ。だからパソコンのマイクや電話の受信機から拾った声しか聞こえない。頼む信じてくれ』

 先程の侵入者の撃退は、やはり田奈先生オヤジの仕業だったようだ。
 しかしどういう魔法だ、これは。
 まあ俺の加工魔法や審査魔法と同系統の魔法ではあるのだろうけれど。

 その後、停電から立ち直った部屋の中で、全員で蓋をされていないカメラがないか確認し回ったのは言うまでもない。
 唯一カメラが確認された香緒里ちゃんのノートパソコンには、俺お手製の金属製完全防護板を貼らせていただいた。

「もう……信じられない」

「まあ田奈先生も覗きに使っているわけじゃないし大丈夫だろ。今回は非常時だから色々情報収集していただけで」

 液晶テレビからの応答はなかった。
 まあそれが普通なのだけれども。
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