機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第17章 ゴールデンウィークは雨模様

79 種明かしの夜

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 全員が着替えたのを確認してから、俺はジェニーに頼みに行く。

「頼む、今使っていない奴で、人間の脳とか神経の構造が一番分かる本を貸してくれないか。GW中には返すから」

「いいれすよ。その関係の課題は出ていないれすし」

 ジェニーは自分の部屋へ向かい、分厚い参考書2冊を持ってくる。

「このあたりの本が詳しいれす。しかしどうしたのれすか。補助魔法科に転科でも考えているのれすか」

「いや、ちょっと必要があってさ。ありがとう」

 早速、俺は本を自分の部屋に持っていき、調べ始める。
 俺の魔法、本来機械を修復したり壊したりする魔法を人間に使った場合、最も生命に支障なく戦闘力を奪える部位はどこかを。

 案の定、そんなに簡単に都合のいい部位は見つからない。
 ネット検索も駆使しながら色々読み込む。

 ◇◇◇
 
 気がつくと真夜中近くになっていた。
 リビングの方も静かだ。
 もう皆寝たり帰ったりしたのだろう。

 俺は静かに部屋のドアを開け、リビングに出る。
 部屋の片隅の鏡に俺の全身を映し出し、軽く審査の魔法をかける。

 予定通り、俺が確認しようとした大脳の各部分が分かる。
 大脳新皮質も海馬も、線条体も扁桃核も嗅脳も。
 なら俺の自衛魔法は、おそらく使えるだろう。
 ちょっとでも間違えれば廃人を作ってしまうので、試すことは出来ないけれど。

 不意に客間のドアが開く。
 出てきたのは風遊美さんと奈津希さんの、4年生コンビだ。

「自衛魔法が出来たようですね」

「ありがとうございます」

 俺は頭を下げる。

「ま、お茶でも飲もうや」

 奈津希さんが応接セット部分の照明をつけ、自分はキッチンの方へ。

「ひょっとして、今まで待っていてくれたんですか」

「修君ならそろそろ気づくだろうって、奈津希が主張したからです」

「実際に気づいただろ。僕の予想は正しかったわけだ」

 キッチンから奈津希さんの声。
 ふと気づいた。
 待っていたのはきっと、今だけではない。

「ひょっとして腕を治した時も、こういう意図があってですか」

 風遊美さんは頷いた。

「私というより奈津希の意見ですね」

「我ながら底意地が悪いとは思ったんだけどさ。出来るだけ自分で気づいて欲しかったんだ。その態度は何様だよ、って怒られてしまいそうだけどね」

 台所の方から紅茶のいい香りがする。

「他にもヒントは出ていたんでしょうね。俺が気づかなかっただけで」

「気づかれないヒントはヒントじゃない。それに結局は気づいたんだ。優秀な後輩だよ、修は」

「奈津希は割とスパルタですからね。大事な相手ほど」

「そりゃそうだ。最後に頼れるのは自分なんだ。だからおせっかい且つ意地悪だと思いつつも、ついついこう面倒なことをしてしまう」

 奈津希さんは、ミニポット2つとカップ3つを入れたお盆を持ってくる。
 コーヒーが風遊美さんで、紅茶が俺と奈津希さんの分。

「少し僕の魔法の話をしよう。僕の魔法は全属性と言われているけれど、本来僕が使える魔法は2つだけ。攻撃魔法に使っているのはそのうちの1つ、温度変更の魔法だけなんだ。それすらネットや百科事典で熱の性質を色々勉強してイメージして。他の魔法は全部熱操作の魔法の応用。例えばさ」 

 奈津希さんは軽く腕を伸ばして人差し指を空中に向ける。

「ゆっくりやるから審査魔法で確認しな。僕の風魔法、基本編」

 すっと指を指した先に風が舞う。

 審査魔法で見ると、確かに風魔法を直接使っている訳ではない。
 低温の空間の中央に高温の層を作って、上昇気流によって風を起こしているだけ。

「同じ方法で電気も起こせる。乾燥した空気と冷たい氷混じりの空気を使うのがポイントさ。土魔法は土の中の空気や水分を熱膨張させて代用出来る。僕の全属性魔法は、基本的にはそんな組み立てで作った、ただの技術上の産物だ。威力も単なる魔力の投射ではなく物理を応用して上げている。単なるファイアよりもスチームボムやフレアバーストの方が、同じ魔力でも威力は上だろ」

 奈津希さんは俺の方を見て、そして続ける。 

「僕が思うに、魔法は本来は心の形そのもの、心が求める形で現れるものなんだ。例えば由香里さんの氷魔法なんてのは、閉じ込めてもいいから守りたい、なんて典型的な形だろ。香緒里ちゃんの本来の魔法は、修や由香里さんと一緒にいたい、繋がっていたいというところが起源だろうし。ジェニーのレーダー魔法は多分修を探すための物だし、風遊美のなんて典型的な逃走用だろ」

 ふん、と風遊美さんは鼻で笑う。

「失礼ね。まあその通りですけれど。私の田舎は、良く言えば伝統を重んじるような処でした。なので魔法を使えるのを隠していたのですけれど、それでも持っている魔力だけで結構奇異な目で見られて。お陰で何度も引っ越しをしました。結局はEUの魔法特区に逃げ込んだんですけどね。更にそこすら逃げて現在いまはここにいるんですけれど。
 ただ今までの中でここは一番安心できるところです。差別も偏見も無いし、今までの人生が冗談だったみたいに平和で穏やかで。夏が暑いのが唯一の欠点ですね」

「まあ確かにここは、平穏かつ平和だからね」

 奈津希さんはそう言って笑う。

「だから逆に、ここ生まれの人間はなかなか魔法が発現しないんだ。両親共に魔法持ちで、遺伝子上は魔法を持っている可能性が高いのに。使えても抽象的な魔法のみ、大体そんな感じさ。僕が通った聟島小学校の児童もそう。親は全員魔法使いなのに、実用になる魔法を使える児童は半分もいなかった。僕もそうさ。並程度の魔力は持っていたけれどね」

 一呼吸置いて、話を続ける。

「小学3年の頃までは、必死に念じれば紙に火をつけるのが出来る程度。魔法理論より物理学的な熱に対する理論を勉強してからかな、発熱魔法が実用的になったのは。中学に入った頃にやっと冷たい方の熱操作が出来るようになって、そこからは割と早かったと自負しているけれどさ」

 一見何でも出来る天才肌にしか見えない。
 けれどやっぱり、奈津希さんは努力家なんだな。
 見せているのは何重にも積み重ねた一番上の層、ってだけで。

「まあ、今の時期に修が自衛魔法を憶えてくれて正直ほっとしたんだ。そろそろまた嫌な予感がする時期になってきたからさ」

「また変な海外情勢動向でも拾ってきたのですか」

 奈津希さんは首を横に振る。

「直接の付近動向では無いんだ。ただ何ていうのかな。何か起きる気がするんだ。そしてその起点がどこかもわかっている。でも直接防ぐのも正直心が痛むし、何かいい方法があるような気もするんだ」

「奈津希にしては随分弱気ね」

「自覚はあるよ」

 奈津希さんは頷いて、そして立ち上がる。

「静かについてきて」

 俺達は奈津希さんの後をついていく。
 奈津希さんが向かったのは、俺の部屋?
 俺の部屋の扉を音を立てずに開け、そして中へ入る。

 奈津希さんが部屋の中で指差した先は、俺のベッド。
 そこにはいつの間にか侵入者がいた。
 凄まじい寝相で小さな体で大きなベッドを占拠している。

「これは……」

 奈津希さんはジェスチャーで俺を黙らせる。
 そして静かに皆で部屋を出て、扉を閉めた。
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