機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第20章 世を思ふゆえに物思ふ身は

92 日頃の感謝と言うことで

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 審査書類を見る限り、今年の学園祭にはそれほど危険な出し物は無さそうだ。
 教授会が『激闘ロボカップ!パワードスーツによるガチバトル!』等という催し物を計画しているが、残念ながらこれの却下の権限は学生会にもない。
 他はせいぜい黒魔術による占い程度。

 俺が気になったのは、創造制作研究会の売店だ。
 今年も甘味処をやるらしいが、江田部長は卒業して島外へと去っている。
 あの人なしで大丈夫なのだろうか。

 書類作業はほぼ3日である程度片付いたので、今日は事務作業は1時間だけであとは俺も工房の方にいる。
 いくつか個人的に作りたいものがあったのだ。
 必要な魔石もいくつか質のいいのを購買で買ってある。

 まずは杖だ。
 ストック庫の中にある『長津田専用!』と但書が貼られた場所から、とっておきの角材を出す。
 西洋トネリコの芯材、魔法杖の素材としては最上のものの一つだ。
 これを大まかに工作機械で削り、そして手彫りで仕上げていく。

 向こう側では女子2人が刀鍛冶をやっている。
 うち片方、小さい方が一息入れた隙を見て話しかける。

「詩織ちゃん、今大丈夫か」

「ちょっと疲れているけど、大丈夫っすよ」

 確かにそんな感じだ。

「実はこっそりと日本刀型の魔法剣を頼みたいんだ。芯材の魔法銀と魔石は提供するから」

「どうせ何本も作るから1本くらいいいですけれど、何ですか」

「実はルイス用のなんだ。俺達がこっちにいる分の仕事をしてもらっているお礼に、学生会の面子全員にそれなりの魔法道具を作ろうと思ってな」

 香緒里ちゃんにも聞こえる程度の小声で頼み込む。

「それはいいっすね。でもルイス用なら、仕様的には香緒里先輩の方が本当は良くないですか」

「詩織ちゃんの方がいいんだ。そうだよな」

 香緒里ちゃんも頷く。
 香緒里ちゃんにはその理由がわかっているようだ。

「杖とかは俺が作るから」

「あれ、奈津季先輩の分はどうします。何なら私が作りましょうか」

 香緒里ちゃんが聞いてくる。

「そうだな。奈津季さんは前に俺が作った杖も持っているんだが、この際だから作り直した方がいいかもな。仕様はルイスのと基本同じ、ただ魔法石と導線は2つ仕様で。魔法石は俺が調達する」

「2つ仕様でいいんですね」

「前に5つ仕様で作ったけれど、どうも奈津希さんの場合は2つ仕様の方が相性がいいらしい」

「わかりました」

 これは一昨日話していて思いついた事だ。
 風遊美さんが使っているのはケーリュケイオンの杖。
 これは月見野先輩のカドゥケウスの設計図を元に、創造製作研究会で量産した一般仕様。
 性能的に悪い訳ではないが、風遊美さんに完全にあっている訳ではない。

 だから日頃世話になっているお返しに、風遊美さん専用杖を作ろうと思ったのだ。
 ついでに普段苦労しているルイスくんや、ジェニーとソフィーにも。

 本人達には言っていないが、香緒里ちゃんと詩織ちゃんの分も作る予定だ。
 魔法工学科に魔法杖や魔法剣を持ち歩く文化はない。
 だからアミュレットになるけれど。

 ◇◇◇

 俺が杖とアミュレットを作るのにほぼ10日かかった。
 これはアミュレットの方に先行製品がなく色々試行錯誤をしたからだ。
 でも、おかげで刀の方の完成と同時になった。

 午後4時30分、販売の方の刀を全部引き渡した後。
 俺はまず、2人にアミュレットを渡す。

「魔法工学科には杖や刀をつかう文化はないからさ、これで我慢してくれ」

 長さ15cm程で、形は仏教の三鈷剣を模している。
 人工水晶と銀と魔力銀製で、中にそれぞれにあわせた魔石を埋め込んである。

「ありがとうございます。へへへへ、修先輩にもらったです」

「修兄、ありがとうございます。でもいいのですか、これ」

「俺も収入あったし、いいのいいの」

 実は材料費が、潜航艇の設計図代収入よりかかっているのは内緒だ。
 まあこのアミュレット、評判が良ければ増産して儲けるつもりもあるんだけれど。
 その際はもっと安価な材料で作る予定。

 工房を撤収して学生会室に向かう。

「おかえり、今日は早かったな」

 奈津季さんが出迎えてくれた。
 運がいいことに全員揃っている。

「それでは、後期初めに起こった騒動でご迷惑をかけた事のお詫びがてら、新作のモニター授与をさせて頂きます。まずは会長から」

 香緒里ちゃんに杖を渡してもらう。

「生命の杖テュルソス、まあ内容はカドゥケウスの最新改良版ですけれどね」

 蔦がからまった木の棒にリボンが巻かれ、頂点に松ぼっくりが飾られているというデザイン。
 全部木製だが、握り等数カ所に魔力導線が入っている。
 カドゥケウスと同様、隠しポケットにメスが2本入っている。

 次は奈津希さんの日本刀、そしてジェニーの杖と順々に渡していく。
 うむ、皆なかなかいい反応だ。
 ルイス君なんて刀を抜きたくてうずうずしている。

「でも、本当にいいのかい。これ多分特区の外で買ったら百万は下らないぞ」

「それ以前に、日本刀型魔法剣なんてどこの特区でも売ってない。向こうの特区でなら何万ユーロでも買い手がつく」

「この杖異常に魔法が乗りやすいれす」

「という事だけど、本当にいいのですか」

 俺を含めて3人共頷く。

「それに私達もこれを貰いましたから」

 香緒里ちゃんがアミュレットを出してみせた。
 すると風遊美さんと奈津季さんがちょっと難しい表情をする。

「詩織ちゃん、ちょっとその三鈷剣、お借りしていいですか」

「はいですけど」

 風遊美さんは詩織ちゃんのアミュレットを借りて握りしめる。

「間違いないですね、これ」

 4年生2人が頷きあった。

「修、このアミュレット、香緒里や詩織にテストさせず、自分だけでテストを繰り返して作っただろ」

 俺は頷く。

「ひょっとして香緒里ちゃんや詩織ちゃんには使いにくくなっていますか」

「その逆だ。魔力がほとんどない修でも効果がはっきりわかる位に作ったという事はだな。つまり普通の魔力があれば笑っちゃうくらいに魔力を増幅するって事だ。違うか、風遊美」

「その通りです。効率も含め、私でざっと3倍相当ですね」

「どうせ杖や刀と同じ威力を小さいアミュレットに持たせるため、色々凝った機構を組み込んだんだろう」

 そう言われると、思い当たる節はあれこれとある訳で。

「確かに魔力増幅と集中の魔法陣を魔法銀で黒曜石基盤に印刷して、人工水晶の発振増幅効果も使っています……」
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