機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第22章 臭い缶詰とチョコレートケーキ~冬の章・後編~

107 奈津希さんが描いたフローチャートと、俺が描いた透視図と

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「そう言えば奈津希、島を出る話は皆にしたの」

 風遊美さんが普通の調子で爆弾発言を仕掛ける。

「厳しいな、風遊美は」

「来年度になったら会う機会も少なくなりますし、今のうちに言った方がいいと思いますよ」

「そうなんだけれどさ」

「奈津希さん、大学は行かないれすか」

 ジェニーが尋ねる。
 由香里姉も香緒里ちゃんも集まってきた。

「まあここで言うのも何なんだけどね。卒業したら特区ここを出る事にしたんだ。ちょっとやりたい事があってね」

「それが何か聞いてもいいですか」

「まだ駄目。恥ずかしいから」

 理由、恥ずかしいからって言われるのはちょっと予想外だった。

「取り敢えず2年間かな。それ位で帰ってくる予定だけど、納得がいかなかったらもう少しかかるかもしれない」

 という事は年数が決まっている学校とかではないという事か。
 前に聞いた時はフランス語を勉強しているというから、てっきりフランス語とドイツ語が公用語になっているドイツの魔法特区かと思ったのだが。

「まあ間違いなく特区ここには帰ってくる予定だけどな」

 特区ここに戻ってくるって言う事は何だろう。
 俺には思いつかない。
 特区ここには魔法以外何も無いような気がするし。
 でも魔法関係では特区ここが一番進んでいるから出る必要は無いし。

「まあ間違いなく帰ってくるから、心配するなよ」

「奈津希なら心配する必要は無いとは思うのですけれどね」

 確かに奈津希さんをどうこう出来る人がそういるとは思えない。
 だけど。

「寂しくなりますね」

「でもまだあと1年以上先だぜ。何なら寂しくならないよう、その間ぎちぎちに愛してやろうか」

「それはいいですから」

 全裸で抱きしめ腰振りモーション付で言わないで欲しい。
 まあ俺は視線を水面固定で何も見ないように会話をしているので、視界の隅でちょっと見えた程度だが。
 何せ目の前は全裸女子高専生だらけなので、視線を上げられないのだ。
 本人達は全く気にしていないけれど。

「戻ってくる前には全て明らかにするから楽しみにしててくれよ。早くて3年後だけどな」

「それ位なら私達も全員まだここにいる筈ですしね」

 何を目指しているのか、本当は聞きたいけれど。
 でも奈津季さんが恥ずかしいと言うならあえて聞かない。
 恥ずかしいが付くのは何故か、実の処凄く気になるのだけれど。

 ◇◇◇

 風呂から上がって。
 俺は例によって自室でパソコン相手に例の杖の設計図を描いている。

 何でもかんでも詰め込むつもりだが、思った以上に難しい。
 魔力の干渉問題で増幅が上手く行かないのだ。
 色々な回路を作っては没にする作業を繰り返している時、部屋の扉がノックされた。

「はいはい」

 扉を開けると奈津季さんがいた。
 後ろに風遊美さんも見える。

「ちょっとこいつの味見しないか」

 手には俺が買ってきた清涼飲料水を持っている。

「いいですね」

 何か話したい事があるという事だろう。

「今日は客間が空いているからそこで飲もうぜ。実は用意もしてある」

 との事なので俺は奈津季さん、風遊美さんとともに客間へ。
 ここはベッド2つと簡単なテーブルセットがある。
 俺達はそれぞれ適当な椅子に腰掛ける。

「まずはあけましておめでとうという事で、乾杯」

 グラスを合わせる。

「と言っても学生会は予算編成位しか、仕事は残っていないんだけどね」

 そう言われてしまうと、ちょっと寂しい。

「まあ俺以下は学生会持ち越しですけどね。いつでも顔を出してくれれば」

「そういう訳にも行きません。新しい1年生も入ってきますし」

「進学なり卒研なりあるしね。顔を出せる機会はぐっと減るんじゃないかな」

 それは俺もわかってはいる。

「そう言えば何故、進学しないで外へ出るって決めたの」

 自然かつ単刀直入に風遊美さんが尋ねる。

「魔法の研究にせよ攻撃魔法の活用にせよ、大学を出た方がよっぽど有利です。別にお金に困っているとは思えませんし、成績だって奈津季なら推薦取れる筈です」

「改めて考えてみると、僕がここでやるべき事は無いような気がしたからさ。風遊美や修と違って、僕はここ生まれという成り行きだけでここに進学した訳だしね。例えば風遊美は経緯はともかく魔法医師を目指しているし、修は魔法工学で院まで行くつもりだろ。そういう目標が僕には無いんだ。ここではね」

「他に目標が出来た、っていうのですか」

「というか、昔思っていた事を思い出したという感じかな」

 奈津希さんは軽くグラスを口に運んで、続ける。

「この特区しまをもう少し普通の街にしたいなと思ってさ。研究とか特殊な仕事ばかりでなく、魔法使いが出来る事って本当はもっと色々あると思うんだ。その色々部分がこの特区しまに欠けている。
 まあこれは僕だけのの意見じゃない。元々はある先輩から受け売りなんだけどさ」

「具体的には何をする気なのですか」

「それは言わぬが花さ、大した事じゃないんだけれど。言いたくない理由は僕が見栄っ張りだから。失敗した姿を人に見られたくないからさ。まあ他にも理由はあるけれど、その辺は察してくれるとありがたい」

「普段は結構自信家ぶっている癖にですか」

「風遊美はいつも厳しいな。まあ小器用に何でもこなすように見せているのは認めるよ。内心ではいつでもヒヤヒヤしっぱなしだけどな」

「それでも築いた結果は実力ですよ」

「そう言ってくれると嬉しいけどね」

 少なくとも俺から見た奈津希さんはスーパーマンに近い。
 学力的にもほぼ全教科穴なしの万能型。

 使う魔法も正に万能。
 特殊系を除く全ての属性に対抗出来る数少ない超バランス型の攻撃魔法使い。
 人付き合いもいいし友人も多い。
 確か外国語も何ヵ国語かは使えた筈だし。

「まあ、やりたい事があると言うなら止められません。でも他の特区よりここの方があらゆる面で進んでいると思うのです」

「行く予定なのは特区じゃない場所さ。魔法使いという事も基本的に隠していく予定だ。正直な処特区ここを出るのは始めての箱入り娘なんで、ちょっとブルっているけどな」

 という事は、やはり魔法関係ではない訳か。
 それでも俺は思う。

「奈津季さんなら大丈夫ですよ」

「お、嬉しい事を言ってくれるな」

「後輩として、奈津季さんが失敗するところを想像できませんから」

 夜は少しずつ更けていく。

 ◇◇◇

 そして次の日、俺は最強の杖プロジェクトを変更した。

 期限は若干の余裕を持たせて、本年末か来年頭まで。
 まずは実作せずに、既知の魔力集中と増幅の方法論を極める。
 魔力導線も積層魔法陣も含め、理論も技術も全て見直す。
 今までのような既知の理論の小手先の応用では、届かない物を作るために。

 目標は神社で正月に売っているお守りサイズ。
 これに現在最強の杖と同じか、それ以上の効果を入れ込む。
 どんな種類の魔法でも関係なく使えるように仕込む。

 無論、今の俺には技術的にも理論的にも不可能だ。
 それをあと1年でどこまで覆せるか。

 要は特区外へと旅立つ奈津希さんへ渡したい代物の作成だ。
 魔法と関係なく見えて、いざとなれば魔法の杖と同等以上に頼りになる代物。

 例えば香緒里ちゃんが作って風遊美さんに渡した幸運に導くペンダント。
 あれもお守りとして、かなりいい線を行っていると思う。
 でも奈津季さんの場合は、既に予知に近い魔法を持っている。
 だから必要なのは幸運ではない。

 必要なのは力。
 普段は魔法と全く関係なく見えて、いざという時に奈津季さんが自分の力を躊躇なく発揮できる道具だ。

 設計中の杖プロジェクトは保存して仕舞い込む。
 そして開くのは魔技大の論文データベース。
 ここに国内外の魔法に関する論文がほぼ網羅されている。
 一応英語が標準なのだが、抄録は日本語訳もされているので検索に支障はない。

 ざっと検索しただけだと魔力の増幅と集中に関する論文は2万近い。
 更に杖や魔法道具についての論文も3千近くある。
 その癖俺が目指している方向そのものの論文は皆無。
 かなり根気のいる作業になりそうだ。

 でも不思議と俺はその量に圧倒される事は無かったし、絶望感も感じなかった。
 何故か必ず期限までに目的に到達できると感じていた。
 何故かは俺にもわからないけれど。

 まずは時間逆順で、関係ありそうな論文の抄録を片っ端から読んで、使えそうな論文をストックしていく。
 その時点で役立ちそうなものはざっと読むとともに関連する論文をチェック。
 3時間程費やして、やっと1年分ほど論文の山を遡れた。
 別窓で開いたエディタに打った俺の覚書もそこそこの量になった。

 まだまだ始めたばかりだが、既に少しだが手応えを感じる。
 時計を見るともう午前10時過ぎ。

 ここの面子、奈津季さん以外は低血圧気味だ。
 そして奈津希さんも昨晩は大分例の清涼飲料水を飲んでいる。
 それで今朝は皆立ち上がりが遅いのだろう。

 普段はジェニーが起き出してくるのだが、今日は何故か遅いようだ。
 しょうがない、たまには俺が朝飯でも作るか。
 久しぶりだから純和風の朝食メニューなんてのもいいかな。

 そう思いながら俺は部屋を出て、キッチンに向かった。
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