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第22章 臭い缶詰とチョコレートケーキ~冬の章・後編~
108 男同士密談中
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1月はあっさりと過ぎた。
入学試験等で休みの日が多いせいでもある。
来年度予算案も無事可決され、学生会の仕事は苦情・要望の処理のみ。
そして2月の5日から9日までの期末試験も無事終わって、そして2月半ばのあの日になる。
どこぞの聖人が虐殺された記念日だ。
俺とルイスは午後6時までマンションに戻るなという指令を受けている。
なので2人で定刻まで学生会室に居残りだ。
俺が例の論文整理作業をやっていると、ルイス君が俺に声をかけてきた。
「修先輩、聞いても大丈夫か」
「何でもどうぞ」
考えてみればルイス君と2人というのはあまり無い機会だ。
大体ルイス君は奈津季さんか1年同士で組むことが多い。
だから俺とあまり接点がない。
一緒なのは露天風呂で2人で地蔵になっている時位だ。
それでも入っている湯船は違うし。
「修先輩は奈津季先輩の事をどう思っているんだ」
どう思っている、の詳細がわからないのでまずは無難に答えてみる。
「尊敬すべき先輩さ。何でも出来るし何をやってもそつがない。軽いように見えて常に冷静だし常にずっと先を見て行動している。ある意味理想に近いけれど真似出来ないな」
「それでは、奈津季先輩が卒業したら進学しないで特区を出る事をどう思っているんだ」
やはりその質問が来たか、そう俺は思う。
奈津季さん本人には聞けないし、風遊美さんにも聞きにくい。
消去法で一番聞きやすくてかつ事情を知ってそうな俺が、きっと聞かれると思っていたのだ。
「本人の意思なら俺は何も言えない。さっさと目標達成して帰ってこいとしかさ」
「言えない、じゃなくてどう思っているんだ」
ルイス君も、日本語の微妙なニュアンスがわかるようになったようだ。
「本音を言えば勿体無いし惜しいと思う。ここの魔法攻撃科で主席キープなんて、そう簡単に出来る事じゃない。それだけの腕と実力があれば、魔技大でも充分に通用するだろうし」
ルイス君は頷く。
「僕もそう思う。一緒に訓練して感じるんだ。あの人は強い。他の人とは異質に強い。魔力が決して強い訳じゃない。色々な魔法を使えるから強い訳じゃない。魔力だけなら僕のほうが今ではきっと強い。でも風の魔法しか使わない状態の奈津季先輩に勝てない。
僕だけじゃない。4年の先輩には他にもいくつか属性を持っている人もいるし、魔力が奈津季先輩より強い人も何人かいる。それでもあの人には勝てない。由香里先輩だって、あれだけ魔力に差があるのに事実上痛み分けという感じでしか勝ちを拾えない。多分本気で防御に徹した奈津季先輩を崩せない。
冬休みに詩織と2人がかりで戦った時も、範囲無制限ならきっと勝てなかった。それなのに……」
言いたい事は多分、俺にもわかる。
実際俺も勿体無いと、感じていないわけではないのだ。
「それでも俺は、奈津季さんが出ていくのを止めないし止められない。奈津季さんが決めた事を信じるしか無い」
何となく俺は江田先輩の事を思い出していた。
「同じような例が無い訳じゃない。去年卒業した魔法工学科の次席も、進学せずに特区を出ていった。今は都内の有名洋菓子店で修行しているよ。もちろん魔法使いという事を隠して」
「それもクレイジーだ。魔法工学科の次席なら、大学で幾らでも活躍できるだろうし企業でも引き手数多の筈だ」
ルイス君の意見は多分一般的な意見なんだろう。
俺もそう思う。でも。
「それがクレイジーかどうか決めるのは俺じゃなくて彼自身だ。学園祭の時にこっちに来たんだが、少なくとも彼らしく充実している感じだった。俺が見えているものと、彼が見ている世界はきっと違うんだ。俺達はだからきっと信じることしか出来ない。奴らが好きだからこそ信じているからこそ、手を出さずに信じるしか無いんだ」
ルイス君は頷く。
「わかってはいるんだ。僕より奈津季先輩のほうがずっと先を見ているんだろうし色々見えているんだろうって。僕が心配する事は何もないって。それでも僕は……。
僕はきっと悔しいんだ。ずっと同じ距離で追いかけていけると思った奈津季先輩が見えなくなる事が。そしてそれを止められない僕が。わかってはいるんだ。わかっては」
俺はあえてルイス君の方を見ない。
俺が時折キーを叩く音とクリックする音だけが学生会室に響く。
論文を更に2本読んだところで、再びルイス君の声がした。
「修先輩、日本語の『好き』ってどういう意味だ」
これまた難しい質問だ。
「英語のLoveとLike両方の意味って答えじゃ納得しないよな」
「実はクラスの何人かからこれを貰ったんだが、どう判断するかの材料にしたい」
ルイス君がカバンから出したのは、チョコレートらしきラッピング済の箱だ。
5~6個程確認できる。
「チョコの場合はLoveとLikeの他にDearとかも含むな。ただどう受け取るかは受け取った方の判断で解釈していい。本命チョコとか抑えのチョコとか義理チョコとかあるしな。まあ値段に見合ったお返しをしてやればいいさ。奈津季さんがホワイトデー前にお返し製造講座をやってくれると思うしな」
「ややこしい文化だな」
俺もそう思う。
けれど。
「あんまりそれを公然と言うなよ。クリスマス撲滅デモと同様に、バレンタインデー廃止デモも日本にはあるんだ。この学校だって特に魔法工学科あたりは男子ばかりだから、貰えない人が多数派で殺気立っていたりするんだぞ」
他でもないうちのクラスだ。
「そう言えば詩織がそんな事を言っていたな。『下手に義理でチョコを配ると、それをチャンスと言い寄って来るのが必ず出る。だから配らないように!』という助言が先輩からあったと」
それってうちのクラスだろうか。その可能性が高い気がする。
そんな事案が1年の時にあったような気がするし。
「ところで修先輩は、誰が本命なんだ」
いきなり強烈な事を聞かれた。
「今日は女子から男子へチョコを渡す日だぞ」
「わかっている。だからチョコとは別に修先輩の本命を聞きたい。ここには特に許嫁制度とか見合いとかは無いんだろう」
そんな事を聞かれても、何せ俺自身わかっていない状態なのだ。
どう返答すればいいだろう。
入学試験等で休みの日が多いせいでもある。
来年度予算案も無事可決され、学生会の仕事は苦情・要望の処理のみ。
そして2月の5日から9日までの期末試験も無事終わって、そして2月半ばのあの日になる。
どこぞの聖人が虐殺された記念日だ。
俺とルイスは午後6時までマンションに戻るなという指令を受けている。
なので2人で定刻まで学生会室に居残りだ。
俺が例の論文整理作業をやっていると、ルイス君が俺に声をかけてきた。
「修先輩、聞いても大丈夫か」
「何でもどうぞ」
考えてみればルイス君と2人というのはあまり無い機会だ。
大体ルイス君は奈津季さんか1年同士で組むことが多い。
だから俺とあまり接点がない。
一緒なのは露天風呂で2人で地蔵になっている時位だ。
それでも入っている湯船は違うし。
「修先輩は奈津季先輩の事をどう思っているんだ」
どう思っている、の詳細がわからないのでまずは無難に答えてみる。
「尊敬すべき先輩さ。何でも出来るし何をやってもそつがない。軽いように見えて常に冷静だし常にずっと先を見て行動している。ある意味理想に近いけれど真似出来ないな」
「それでは、奈津季先輩が卒業したら進学しないで特区を出る事をどう思っているんだ」
やはりその質問が来たか、そう俺は思う。
奈津季さん本人には聞けないし、風遊美さんにも聞きにくい。
消去法で一番聞きやすくてかつ事情を知ってそうな俺が、きっと聞かれると思っていたのだ。
「本人の意思なら俺は何も言えない。さっさと目標達成して帰ってこいとしかさ」
「言えない、じゃなくてどう思っているんだ」
ルイス君も、日本語の微妙なニュアンスがわかるようになったようだ。
「本音を言えば勿体無いし惜しいと思う。ここの魔法攻撃科で主席キープなんて、そう簡単に出来る事じゃない。それだけの腕と実力があれば、魔技大でも充分に通用するだろうし」
ルイス君は頷く。
「僕もそう思う。一緒に訓練して感じるんだ。あの人は強い。他の人とは異質に強い。魔力が決して強い訳じゃない。色々な魔法を使えるから強い訳じゃない。魔力だけなら僕のほうが今ではきっと強い。でも風の魔法しか使わない状態の奈津季先輩に勝てない。
僕だけじゃない。4年の先輩には他にもいくつか属性を持っている人もいるし、魔力が奈津季先輩より強い人も何人かいる。それでもあの人には勝てない。由香里先輩だって、あれだけ魔力に差があるのに事実上痛み分けという感じでしか勝ちを拾えない。多分本気で防御に徹した奈津季先輩を崩せない。
冬休みに詩織と2人がかりで戦った時も、範囲無制限ならきっと勝てなかった。それなのに……」
言いたい事は多分、俺にもわかる。
実際俺も勿体無いと、感じていないわけではないのだ。
「それでも俺は、奈津季さんが出ていくのを止めないし止められない。奈津季さんが決めた事を信じるしか無い」
何となく俺は江田先輩の事を思い出していた。
「同じような例が無い訳じゃない。去年卒業した魔法工学科の次席も、進学せずに特区を出ていった。今は都内の有名洋菓子店で修行しているよ。もちろん魔法使いという事を隠して」
「それもクレイジーだ。魔法工学科の次席なら、大学で幾らでも活躍できるだろうし企業でも引き手数多の筈だ」
ルイス君の意見は多分一般的な意見なんだろう。
俺もそう思う。でも。
「それがクレイジーかどうか決めるのは俺じゃなくて彼自身だ。学園祭の時にこっちに来たんだが、少なくとも彼らしく充実している感じだった。俺が見えているものと、彼が見ている世界はきっと違うんだ。俺達はだからきっと信じることしか出来ない。奴らが好きだからこそ信じているからこそ、手を出さずに信じるしか無いんだ」
ルイス君は頷く。
「わかってはいるんだ。僕より奈津季先輩のほうがずっと先を見ているんだろうし色々見えているんだろうって。僕が心配する事は何もないって。それでも僕は……。
僕はきっと悔しいんだ。ずっと同じ距離で追いかけていけると思った奈津季先輩が見えなくなる事が。そしてそれを止められない僕が。わかってはいるんだ。わかっては」
俺はあえてルイス君の方を見ない。
俺が時折キーを叩く音とクリックする音だけが学生会室に響く。
論文を更に2本読んだところで、再びルイス君の声がした。
「修先輩、日本語の『好き』ってどういう意味だ」
これまた難しい質問だ。
「英語のLoveとLike両方の意味って答えじゃ納得しないよな」
「実はクラスの何人かからこれを貰ったんだが、どう判断するかの材料にしたい」
ルイス君がカバンから出したのは、チョコレートらしきラッピング済の箱だ。
5~6個程確認できる。
「チョコの場合はLoveとLikeの他にDearとかも含むな。ただどう受け取るかは受け取った方の判断で解釈していい。本命チョコとか抑えのチョコとか義理チョコとかあるしな。まあ値段に見合ったお返しをしてやればいいさ。奈津季さんがホワイトデー前にお返し製造講座をやってくれると思うしな」
「ややこしい文化だな」
俺もそう思う。
けれど。
「あんまりそれを公然と言うなよ。クリスマス撲滅デモと同様に、バレンタインデー廃止デモも日本にはあるんだ。この学校だって特に魔法工学科あたりは男子ばかりだから、貰えない人が多数派で殺気立っていたりするんだぞ」
他でもないうちのクラスだ。
「そう言えば詩織がそんな事を言っていたな。『下手に義理でチョコを配ると、それをチャンスと言い寄って来るのが必ず出る。だから配らないように!』という助言が先輩からあったと」
それってうちのクラスだろうか。その可能性が高い気がする。
そんな事案が1年の時にあったような気がするし。
「ところで修先輩は、誰が本命なんだ」
いきなり強烈な事を聞かれた。
「今日は女子から男子へチョコを渡す日だぞ」
「わかっている。だからチョコとは別に修先輩の本命を聞きたい。ここには特に許嫁制度とか見合いとかは無いんだろう」
そんな事を聞かれても、何せ俺自身わかっていない状態なのだ。
どう返答すればいいだろう。
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