機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

文字の大きさ
113 / 202
第22章 臭い缶詰とチョコレートケーキ~冬の章・後編~

112 おまけ 対戦・グレムリン!~何を記念したのかわからない日に~

しおりを挟む
「バレンタインデーに由来はあるけれど、ホワイトデーは知らないな」

「そもそもキリスト教圏に、ホワイトデーというイベントはない」

 春休み前のある日。
 俺とルイスはマンション8階の宮崎台家のキッチンで作業をしていた。

 なお宮崎台家は両親ともに魔技大の先生だ。
 魔技大は既に春休入り。
 両親ともに国際会議出席という名目の海外旅行中。
 なのでこの部屋は奈津季さんしかいない。

 同じマンションだけあって、部屋の作りもよく似ている。
 あの馬鹿でかい屋上が無くて、トイレが1箇所、ゲストルームが1部屋少ない程度の差だ。
 キッチンのレイアウトは全く同じ。
 なので俺としても使いやすい。

「それじゃあ修は今日は1人で作るんだな」

「ええ」

 小豆も砂糖もそれなりの物を用意したし、ホットケーキミックスもバターも卵も牛乳も用意済みだ。

「とりあえずこっちのコンロを借りて大丈夫ですか」

「ああ、僕たちは使わないからさ」

 という事で、俺は早速鍋に小豆と水を入れ、煮る作業にかかる。

 今回俺が作るのはどら焼き。
 勿論学園祭に創造製作y研が作るようなものではなく簡易版。
 あんこを作り小さめのホットケーキを2枚焼いてあんこを挟み込む。
 方法論さえ知っていればそれ程間違いは起こらない一品だ。

 なお俺は創造製作研の絶品あんこレシピも持っているが、今日は使わない。
『蓋をあけないまま80℃のお湯を鍋全体に差す』とか、特殊魔法持ちでないと参考にならないレシピだから。

 まずは小豆を煮る作業その1、通称渋抜きを開始。
 そして余った時間でホットケーキミックスを混ぜ合わせ、ちまちまとミニホットケーキを焼く。
 何せ20枚近く焼かなければならないので手返し良くやらなくては。
 ホットケーキ焼きながら小豆をザルで湯を切ったり、また煮たりと結構忙しい。

「うわあっ!」

 奈津希さんの悲鳴が聞こえた。
 そのままダッシュで洗面所へと走っていく。

「どうしました」

 ちょうどホットケーキを1毎焼き終わったところなので、状態を覗きにいく。

「僕は単なるフルーチェを作っていただけなんだ。それなのに」

 ルイスの証言。
 よく見ると、いちごのフルーチェに少し違和感のある赤色が混じっている。
 そして近くには、見覚えある骸骨マークの小瓶。

「犯人は判明した」

 俺は骸骨マークの赤色液体入りの忌まわしい瓶を、魔法で完全に封印する。

「これで犯人ももうこれは使えない」

「あーあ、死ぬかと思った」

 奈津季さんが洗面所から帰ってきた。
 甘いの大好きな代わりに、辛いものが極端に苦手なのだ。

「犯人は、やっぱり奴だよな」

「この瓶が証拠です」

 この瓶の持ち主を、俺達3人は知っている。

「それより修の方は大丈夫か」

 そう言われて、俺はあわててキッチンの自分の位置に戻る。
 既に5枚焼き終わっていたホットケーキが、全て姿を消していた。

「ホットケーキ5枚消失です。この犯行手口、間違いないですね」

 そう、鍵のかかった室内でも全く関係なく入ってきて、デスソースを使い、ホットケーキを食べていく。
 その正体は常に腹ペコな空間魔法使い、田奈詩織だ!

「しかし何故、こんな犯行を」

「暇だったのと腹が減ったので理由は十分だろ。詩織ちゃんあいつは特にここにいる3人なら多少の事は大目に見てくれると思っているようだし」

「その傾向は認めます。では、とりあえずこのフルーチェから混入物は除去します」

 今では俺も成分調整魔法とまでは行かなくとも、それに近い魔法は使える。

 逆にしおりちゃんもその事を知っているからこそ、この犯行に及んだのだろう。
 今回の目的はあくまで俺のホットケーキと見た。

「とりあえずグレムリンの出現には注意しよう」

 との事で調理再開。
 審査魔法で小豆の具合を見ながらホットケーキ焼きを再開する。

「これ以上減ると取り分を大幅に減らすからな」

 一応あらぬ方向に警告をしておく。
 そして念のため、ホットケーキのサイズを更に小さくしてミニドラサイズに。

 幸い、しばらくの間は何も無かった。
 しかし。

「!!!!!」

 ルイスがダッシュで洗面所へ。

 よく見ると作業用に横に置いていたコーヒーをこぼした跡がある。
 さらに審査魔法で見ると、コーヒーになぜかカプサイシンが。

「また出たな」

 奈津希さんの声。
 俺はミニホットケーキの方を意識しつつ。あえてルイスの方を心配する振りをする。

 そして、その時は訪れた。

「うわっ、うわうわうわうわあああ……」

 突然現れた小柄な影は、その場でくるくる回って倒れ込む。
 捕獲成功だ。

「何なんですかこの魔法はああああ。回りがくらくらする……」

「俺の対人魔法も進化しているんだ。悪いな」

 前に使った、運が悪ければ廃人になる『大脳特定部位電気刺激魔法』ではない。
 今回使ったのは、新たに開発した『三半規管濁流魔法』。
 短時間だが人の平衡感覚を無茶苦茶に狂わせる魔法だ。

 これならほんの少しの液体を動かすだけで成立するし、後遺症も無い。
 そして効果は短時間だが効果は絶大だ、
 特に空間魔法使いには。

 そして詩織ちゃんの手元からさっきと違う赤色液体の瓶が落ちる。

「ウルトラデスソースか。日本で販売していない危険物だ」

「せっかく手に入れたから、皆とわかちあいたかったのですよ」

 詩織ちゃんはまだ立ち上がれない。
 新魔法の効果は絶大なようだ。

 ちなみに俺が自分で試した時は、効果時間は約3分。
 それ以内に次の処理をする必要がある。

 俺は倒れたままの詩織ちゃんを抱える。
 そして、奈津希さんとルイス君の作業場になっているテーブルへ……

 30秒後、詩織ちゃんは足と左手を椅子に縛り付けられた。
 さらにその椅子は俺の魔法で、床とテーブルにきっちり固定。

 詩織ちゃんは空間魔法を発動する際、両足か両手で移動のための反動をかける。
 いざという時には重力を使って、落ちる勢いで空間魔法を発動するのも可能だ。
 でもこの固定措置により、詩織ちゃんは魔法で移動をする事が出来ない。

 詩織ちゃんの目の前には、特製ミニどら焼きと特製パフェ。
 箸とフォークとウエットティッシュ、そして武士の情けの炭酸水入りコップも置かれている。
 スイーツがほんの少しどこか赤くて異臭もするのはきっと気のせいだ。
 そしてただ1つ自由になる右手。

「とりあえず、全部食べたら自由にしてやる。特別メニューだから残すなよ」

 大丈夫、全体のカプサイシン量は致死量よりはるかに少ない。
 それ位は俺の魔法で調節してある。

「うえーん修先輩酷いです。ルイス助けてくれなのです」

「残念だが、今回は自業自得だ」

 奈津希さんもルイス君の言葉に大きく頷く。

「炭酸水だけは足りなくなったら追加してやるよ。という訳で皆でわかちあう前に、まずは自分で試食してみような」

 という訳で、俺達はそれぞれ自分の作業に戻る。
 時々ジタバタして何か液体をがぶ飲みしむせる音がするようだが気にしない。
 次の措置は俺達の調理が完成するか、試食が終了するまで待つことにしよう。

 という訳で、俺達は心置きなくスイーツ作りを続ける。
 時折妙な音をBGMにしながら。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

才能は流星魔法

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。 そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。 流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。 ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。 井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。 山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。 井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。 二日に一度、18時に更新します。 カクヨムにも同時投稿しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...