機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第29章 冬はつとめて(1) ~修4年冬編・前半~

150 頼むお願い誰か止めて!

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「私の知っている限り、攻撃魔法科の前後の代には、ひであきって学生はいなかったわ。随分親しそうな感じに聞こえたのは気のせいかしら」

 奈津希さんが固まる。
 見事なくらいに固まる。

「まあ奈津希が答えないなら、修に聞くけどね」

 おいおい、やめてくれ。
 どう答えればいいんだ。

「ついでに言うと修には拒否権は無いから。本人は話す気が無くてもね。そうよね朱里」

 頼む月見野先輩、真っ当な意見で由香里姉を止めてくれ。

「そうですわね。基本的人権も公共の福祉の前には制限を許されるものですし。幸い私が4年次に開発した『楽しい気分になって何でも話したくなる愉快な魔法』がありますので障害は無いですわ」

 おいおい自白魔法まであるのか。
 そして周りには、止めようとする良識者はいない。

 風遊美さんと香緒里ちゃんはほぼ事情を察したらしく普段と変わらない様子を装っている。
 しかし他の面々は興味津々という感じが見え見えだ。
 ソフィーに至っては、怪しいマイクと見覚えのある分析ソフト入りノートパソコンをジェニーの部屋から持って来て操作開始し始めた。
 うーん、しょうがない。

「俺の世話になった先輩ですよ。奈津希さんとは親が知り合いだそうです」

「ふーん、それで」

 由香里姉は、当然の事ながらそれだけでは納得しない。

「それだけじゃないですか」

「ソフィー、判定どうれすか」

「修先輩の最初の解答はニュートラル、嘘ではないが全てではない。次の解答はダウトです」

 ソフィー、そのパソコンというかマイクと併せた装置って、まさか。

「声の調子と放出魔力で診断する嘘発見器ですよ」

 そんな物持ち込まないでくれ!

「いいものがあるのね」

「私の頃にはありませんでしたわ」

 この場の2巨頭が興味深げにソフィーのパソコンを覗き込む。

「この数値が大きければ動揺している、と見ていいのね」

「そうです。声はある程度操作出来る人もいますが、身体からの魔力放出と併せれば誤差はトーリトーです」

「ならばこれを見ながら修に質問すればいい訳ね」

「では修君に質問ですわ。修君は奈津希さん言うところのひであきさんを知っている」

 俺は返事をしない。
 返事をすると声を分析されるからだ。

「有意の反応あるです。知っていると判断されます」

 返事をしなくても分析されるようだ。
 俺が知っている状態より性能が上がっていやがる。

「では第二問。ひであきさんは高専の学生、または卒業生である」

「その通りの様ですね」

 不意に蒸し暑くなってきたような気がする。
 俺の気のせいだろうか。
 いや。

 霧のようなものが覆い始める。
 温度からして、ただの霧ではなく飽和水蒸気が霧化したもの。
 ミストサウナもかくやという感じに。

 そして何故か肌にビリビリした危険な感覚が。
 これがどんな現象かは、もう俺だけでなく全員が察していると思う。

 例えば氷の女王ゆかりねえがお怒りになると付近にダイヤモンドダストが舞う。
 これはきっとそれと同じ現象。
 猛獣様なつきさんお怒りの、熱と水蒸気と電気の混合負荷現象。

「ねえ、そんなに他人の話って、楽しい?」

 怖めの笑顔で低ーい声でそうつぶやく奈津希さん。
 帯電が肌で感じる程なので、他の魔法で相殺する事も出来ない。
 そして解除可能な電気制御魔法を使える人間はこの中にはいない。

 酷暑の中皆が凍り付いたように動かない。
 でも俺の視界の隅で、ささっとノートパソコンをケースに仕舞いこむソフィーが見えた。
 なかなか冷静だな、ソフィーちゃん。

 (1時間経過)

 部屋の家具も、プレゼント類全部も、勿論パソコンも、被害は無かった。
 奈津希さんも、例の現象の範囲はそれなりに絞っていたようだ。

 そしてソファーには、奈津希さん曰く清涼飲料水の空き瓶。
 そして俺とルイスとよれよれの猛獣様なつきさん

「それでもよお、あいつさあ」

 酔っ払いに付き合う俺とルイス。
 何故こうなった!!!

 全部状況は憶えている。
 あの後あんなこんなあったけれど、結局奈津希さんは江田先輩との件を洗いざらい喋らされてしまった。
 奈津希さんは残念ながら、こっちの面では最強とは程遠かったらしい。

 で奈津希さんがやけ清涼飲料水ジュース(自称)して、俺とルイスがつき合わされた訳だ。
 要領のいい連中は、とっくに脱出している。
 風遊美さんは奈津希さんの事を心配してか、客間にいるのを確認済みだけれど。

「よーし、それじゃあ風呂でも入って全部さっぱりしようぜ」

 奈津季さん、いきなり脱ぎだす。
 そうとうきこしめしていらっしゃるようだ。

「奈津季さん、ここはリビング。脱いじゃまずいです」

「ん、そうだな」

 一応奈津希さんはそれ以上脱ぐのをやめる。
 既にブラとホットパンツという直視できない格好になっているけれども。

「なら部屋で着替えるぞ!」

 そのまま俺の部屋へ入っていく。
 おい!

「着替えるなら客間の方で着替えて下さい!」

「ええでないかええでないか。何を今更。減るもんじゃないし」

「そういう問題ですか。江田先輩に悪いだろう」

「ヒデアキなら文句言わにゃあよ。なあ修」

 俺は小声でルイスに告げる。

「残念ながら事実だ。一緒に肩組んで皆で入ろうじゃないかガハハハ位言いかねない」

 事実である。

奈津季先輩このひとの相手だけあるな、ある意味流石だ」

 ルイス、かっくりとうなだれる。
 どうも特区内の人間というのは皆、そっちの方の危機感が無くて困る。
 そっち系犯罪が極端に少ないせいもあるのだろうが。

 まあ拳銃持ちすら凌駕する攻撃魔法持ちがそこら中にうようよいる場所で、暴力系とか性犯罪系を犯す馬鹿者がそういるとも思えない。
 スーパーのおばちゃんですら炎魔法持ちという場所だし。

 仕方なく俺とルイスもほぼ強制的に露天風呂へ。
 何せためらっていると奈津希さんに剥かれそうな状態だったのだ。

「ははははは、特区を離れるとこの露天風呂ともしばしお別れとは寂しいぜ」

 奈津季先輩は超御機嫌モード。

「ドイツの特区の近くには温泉地もあるみたいですけどね」

「ルーアンからバーデン・バーデンは近くはないわな。詩織みたいな反則魔法つかえりゃ話は別だけどさ」

「そう言えば詩織のプレゼント、あれは一体何なんだ」

 ルイスが俺に尋ねる。
 あの非常用ボタンがついた怪しい装置か。

「俺もわからない。審査魔法でも一部分からない機能がある」

「本人が言うにはまだ受信側が一部未完成なんだそうだ。4月までには完成するから心配ないですよ、って言っていたけどな」

 何なんだろう。怪しい。

「それよりここで肩組むぞ!海外進出への奈津季ちゃんへの応援エールだ!」

 おいおいバカ奈津季先輩、それやめろ。いややめて下さい!

「ほれ修とルイスも肩組んで、円陣作るぞ!」

 女性一人と男性2人で全裸で立って円陣を組むとどうなるか。
 見える視界が大変危険な事になる。
 見えては行けない部分が男女ともに丸見え。

 思わず俺は目を瞑る。
 かなりというか、まずいというかやばいというかアウトというか……
 伝わる体温と匂いですらもう、危険領域を突破している。

 おい香緒里ちゃんか風遊美さん、お願いだからこの猛獣なつきさん気絶させて。
 頼むから……

 助けは来ない。

「おれ行くぞ!ふれーふれー奈津季、それ!」

 助けが来ない中、俺とルイスのやけくそのエールが響く……
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