機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第33章 詩織ちゃんの新魔法と裏切りの黒魔女

175 結論、早く新型寄越せ!

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「あーもー天国だわこれ。もうここに住んじゃおうかしら」

 世田谷は、露天風呂を目一杯堪能したようだ。
 既に浴衣に羽織姿のあたり、もうここの空気にどっぷり浸かってしまっている。

「金曜から日曜までと休日前後なら構いませんよ。どうせこんな状況だし」

「あと旅行とバイトの件は、妹共々参加させてもらうからね。香緒里さんに許可もらったし」

 そこまで話が進んでいたのか。
 何だかなと思いつつも、まあいいかとも思う。
 妹の方も既に打ち解けて仲良くやっているようだ。

 なんて思ったところで、詩織ちゃんがやって来た。

「ちょうどいい所なので、黒魔女に相談なのです」

「ふむふむ、何ぞや」

 2人で座卓の俺の前に座って話し始める。

「実はこのままでは、どうしても勝てない相手がいるのです。今朝も模擬戦やって、けちょんけちょんに負けてしまったのです」

 成程、今朝の詩織ちゃんの疲れ様はそういう訳だったのか。
 しかし詩織ちゃんが完敗するような相手って、どんな化物だ。
 世田谷も同じ事を思ったらしい。

「ひとつ聞いていい。私は詩織ちゃんがそこまで敵わない相手って、想像出来ないんだけれど。どういう相手なの、それ」

 詩織ちゃんはどこからともなく杖を取り出す。
 詩織ちゃん専用仕様のヘリテージ2だ。

「この杖の原型を所持していて、火、水、風、土、雷の5属性を自由に操り、未来予知魔法まで使いこなす相手なのです。最強すぎて手加減されても全く手が出ないのです」

 おいおいその条件に当てはまるのって、まさか……
 だが世田谷は俺の狼狽を違う意味に取ったらしい。

「まさか長津田じゃないわよね」

 俺は全力で首を横に振る。

「俺じゃない。でもきっと世田谷も知っている人物だ」

 詩織ちゃんは俺の言葉に頷く。

「その通りなのです。率直に言うと、奈津季先輩の本気モードなのです」

 やっぱり……と俺は思う。
 つまり今朝、詩織ちゃんはわざわざフランスまで行って、模擬戦闘して帰ってきたと。
 それじゃ疲労困憊も無理ないよなと思う。
 世田谷も何か、納得したように頷いた。

「確かにね。宮崎台先輩は私の闇魔法すら届かないし通用しないし。あの人が魔力増幅して予知魔法なんて使ったら、確かに通常の魔法で勝つのは難しいわね」

「広範囲殲滅魔法とかは禁止という条件なのです。実際フルパワーで空間歪曲魔法を使いつつランダム出現しても、全部予知してカウンターされるのです。あそこまで高い壁は始めてなのです。打開策が思いつかないのです」

 詩織ちゃんの言っている意味は所々わからないが、どういう事態かは想像がつく。
 確かに未来予知使用なんで反則魔法、破る方法なんてそうは思いつかないよな。
 しかもそれを使うのが何でもありの奈津季さんだったら、尚更だ。

「戦わない、戦う機会を作らないという哲学的手段は駄目なのか」

「奈津季先輩だけなら、それもありなのです。ですが似たような相手が他にもいるのです。元々その相手を倒す手段を探すために、奈津希さんに模擬試合を頼んだのです」

 成程。俺もそうなると思いつかない。

 しかし思いつきそうな人間には、心当たりがある。
 詩織ちゃんと近い魔法を持っていて、奈津季さんとペアで学生会を運営していたあの人。
 あと2時間もすれば帰ってくる筈だ。

 ◇◇◇

 世田谷と詩織ちゃんが2人してうーんと悩むこと30分。

 結果、周りの宴会モードに流され、
「まあ後でまた考えましょ」
という、まあ状況に流された処で落ち着いて、カラオケ始めて約1時間。

「ただいまー」

 卒業組の皆さんが、東京での買い物ツアーから帰ってきた。
 元気いっぱいの3人と、若干お疲れ気味の風遊美さん。
 由香里姉ら3人に付き合ったための疲れか、東京往復の魔法での疲れかはわからないけれど。

 ウキウキと戦利品を広げ始める3人をよそに、風遊美さんはふらふらと客間へ消えていく。
 一眠りかひとっ風呂って処だろう。

「大分疲れていますね、風遊美さん」

「色々と回ったからね。混んでいるから魔法で。あれ、また2人増えて……美南どうしたの?」

 どうも世田谷さんは、由香里姉とも知り合いのようだ。
 さすが攻撃魔法科筆頭。

「今は長津田君と研究室の同僚です。妹が学生会に入りたいと言うからついでに」

「成程ね。駒沢教官が頭抱えていた件か」

 由香里姉は世田谷さんの研究室騒動を知っているらしい。

「美南なら問題は無いわね。ここは見たとおりの場所だから、気軽に来ていただいて構わないわ。他言無用な事は多いけどね」

「東京まで買い出しに行って来られたんですか」

 由香里姉はあっさり頷く。

「風遊美ちゃんを足代わりに使っちゃった。ちょっと申し訳ない事したわ。流石に梅田も回ったのはやり過ぎだったわね」

 おいおい、東京だけでなく大阪まで行ったのかよ。

「それって鷺沼先輩の魔法でですか」
「ええ。勿論例の杖を使った上でですれど」

 世田谷が呆れた、という顔をして俺の方を見る。

「結局あの杖、鷺沼先輩の分まで作ったの?」

「色々問題が発生してさ。まあ3号までで今度こそ打ち止め予定だけれど」

「それに鷺沼先輩も、詩織ちゃんと同じように世界各地へ魔法移動出来る訳?」

「風遊美さんは東京までぎりぎりって言っていたな。詩織ちゃんは英国余裕って言っていたけれど」

「南米はまだ辛いのですよ」

 詩織ちゃんが話に加わった。

「この杖は確かに性能的に強力なのですが、あとちょっと性能が上がれば世界一周出来るのです。今だと南米やアフリカは1回で移動出来ないのです。
 また風遊美先輩の限界は、ここからだと岡山付近と言っていたのです。例のスーパーへの買い出しには問題ないのですが、北海道スイーツ食べ歩くのには不足なのです。なので結論は早く新型よこせなのです」

 おいおい。

「確かに他言無用な件が多いのはわかったわ。まあ他で言っても半分位は信用されないと思うけどね」

「腹減った。飯はまだか」

 向こうで鈴懸台先輩がキッチンを覗いている。

「御飯が炊き上がるまで30分かかるれすよ。諦めて待つれす」
「食後のデザートも買いましたけれど、今日は刺身の日ですから明日のデザートにしましょうか。半焼き菓子ですからそれ位は大丈夫ですし」

 一段と賑やかになってきたなと俺は思う。
 人口密度も高くなったしな。
 飯が出来るまで自室に避難するとしよう。
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